欲望の果てに見えたものとは?-ドラマ『3000万』の感想
今年一番、ラストがどうなるのか気になるドラマだった。
ラストが気になるということは、テレビドラマを毎週視聴し続ける上で、とても重要な要素だ。
最近のテレビドラマは、漫画や小説などの原作のある作品が多く、原作を読んだことがあると物語の展開やラストを知っているし、原作とは違う展開だったとしても、完全に納得できるものは少なかった。
私は、そういった原作モノのドラマがあふれるテレビドラマに少し食傷気味になっている。
だからこそ、オリジナル脚本のドラマを見ると、新しくて見たことのない、今後どういう展開になるか分からないものにワクワクしてしまう。
「3000万」は、私が抱いているオリジナル脚本への期待を大きく超えてきたドラマだった。
面白かった点➀ 毎話、次回が気になる展開が必ずある
構成が素晴らしく、毎話のラストに続きが気になる大きな展開があるため、毎回、来週の放送が楽しみだった。
毎話、最初から最後まで徐々に盛り上げていき、毎回ラストに続きが見たくなる展開があるのは、継続して楽しめる重要な要素だ。
また、全話見終わって思うのは、日本のテレビドラマによく見られる「本当にこの物語は10話分必要な分量なのか?」と思ってしまうような、10話になるように内容を薄く延ばして時間を稼いでいるとしか思えないような無駄なシーンが全くなく、脚本の密度が高く、見応えのあるシーンばかりだった。
面白かった点② 魅力的で新鮮な俳優の方たち
私の勉強不足でもあるが、見たことのない俳優ばかり出てくるため、登場人物のキャラクターに先入観がなく、物語そのものを純粋に楽しめた。
売れっ子の俳優ばかり出てくるドラマだと、なんとなくその人の人間味やパーソナルイメージから、演じるキャラクターに先入観を持ってしまうため、その登場人物が何をするのかを勝手に想像してしまい、ドラマの物語そのものを完全に楽しむことが出来なくなることがある。
「3000万」に出演されている主要な登場人物の多くが、私が見てきたドラマや映画・CMなどで見かけたことがあまりない方が多かったため、先入観を抱かず、純粋に物語に入り込めた。
(私が勉強不足で、おそらく俳優の方々は、演技の世界では名の知れた存在だと思いますが)
とにかく俳優の方々の演技がとても素晴らしく、登場人物の立場から生まれる不満や葛藤が痛いほど伝わってくるため、緊張感のある世界観を楽しむことが出来た。
例えば、主人公の裕子とその夫の義光の会話のシーンは、とてもリアルに感じた。
3000万の事件が起こった後の会話は、犯罪が絡む非日常的なものであるはずだが、二人のかけあいが夫婦の人間味と生活感に溢れているため、非日常的なものにもリアリティを感じた。
面白かった点③ 3000万を通して炙り出される欲望
各登場人物が抱いている、それぞれの立場における欲望や望みを形にしていく展開が面白かった。
というのも、3000万を盗むという行為の重さは、単純に3000万欲しいという誘惑に負けてしまったからという理由だけでは、その後の展開を進めていく動機としてリアリティに欠ける部分もあると思う。
しかし、ドラマでは、各人物の内面にある「本当に求めていること」をしっかり丁寧に書くことで、強盗や暴力などの犯罪行為に対して、その行動の原理に無理やりさをあまり感じず、あくまで目的の手段として描いているため、懐疑的な違和感は少なく、しっかりと物語を楽しむ事ができた。
以下に挙げられる登場人物が抱いている「本当に求めていること」は、3000万の事件を通じて実現していく。
(例)
・祐子→つまらない生活に豊かさと刺激が欲しい
・義光→諦めきれなかった音楽の夢をかなえるため、仕事を辞めて製作活動
・息子→欲しかったグランドピアノを買ってもらえる
・ソラ→騙し取られた3000万を返す
・坂本→不条理な組織に対して報復する
この「本当に求めていること」は、大それたことではなく、普遍的で人間的な感情の中で出来たものであり、登場人物の背景を丁寧に描くことで、どこかしらに共感できる部分を感じた。
また、最終話の終盤のシーン、車中でソラが裕子に語るシーンが印象的だった。3000万の事件を通じて、ソラ自身の望みを形にすることが出来たが、その上で思ったことを語るシーンだ。それは、あっけなく単純な感情だったが、ソラがこれから生きていく上で一番重要なことに気づけたのだと思った。
欲望を形にしても、それが生きていく上で本当に大切なものなのかは分からない。
物語のラストシーン。裕子もソラと同じく、本当に大切なことは何かを思い出すことが出来たのだと、私は想像している。
面白かった点④ 犯罪に巻き込まれる人の心理
客観的に見ているだけだと、常識的に考えてその判断はおかしいのではないか?倫理的に問題あるだろ、なぜそんな無理のある計画を実行するのか?
などなど、祐子の考えに疑問を持つ部分だらけである。
祐子やソラは、話が進むにつれてどんどん状況が悪くなっていく中でも、次の行動で解決すると考え、どんどん罪を重ねていった。どこかで引き返さないと、本当に取り返しのつかないところまで行ってしまうという危機感をあまり感じられなかった。
なぜそんな思考になってしまうのか。
それは正常な判断ができていないからだと、私は想像している。
ドラマの状況とは違うが、NHKのニュースで、ギャンブル依存者が闇バイトに手を出してしまう心理について取り扱っていた。
ドラマの登場人物も、精神的に追い詰められる状況が続いていく。そうした状況下なら、専門家の先生の言われるように、通常時ではありえないような考えになってしまうのも理解できる。
犯罪組織に関係なく、普通に生活していた人の思考の変化も考えさせられる。
犯罪とは無縁で生活してきた祐子は、3000万を盗んだことをきっかけに、闇バイト組織の構造に入り込んでしまう。裕子は、闇バイトをしたかったわけではないのに、なぜか組織に取り込まれていまう。
闇バイトは、善意の一般人も簡単に加害者になれる負のスパイラルを作り出している。
「3000万」は、視聴者が闇バイトに対して、被害者性と加害者性の両方を考えるきっかけをくれる、今の時代に必要なドラマだった。