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アイスランドのアイスクリーム屋に関する、たぶん日本唯一の研究


アイスランドにアイスクリーム屋はあるのだろうか。

ある日、ふとそんな疑問が脳裏をよぎった。

アイスランドといえば、国名からしていかにも寒そうである。もちろん寒いだけなら、きっとシベリアの方が寒いだろう。しかし、この問いは、アイスランドだからこそ意味があるのだ。

地図を見てみよう。アイスランドは北大西洋に浮かぶ、北海道よりちょっと大きいぐらいの島である。ヨーロッパやアメリカからアイスクリームを冷凍船で輸入すると、輸送コストは相当高くつくだろう。それに見合った需要があればいいのだが、なにせここはアイスランドという名の通り、国土の1割以上が氷河という氷の世界。いくらなんでもこんな寒くて遠いところに、わざわざ冷たいアイスクリームを船で輸出したいと思う酔狂な商社マンもおるまい。輸入がダメなら自給ということになるが、アイスランドの人口は約35万人。埼玉県の川越市と同じくらいの人口規模しかないこの土地に、アイスクリーム工場を建てても到底ペイできないだろう。

このようにアイスランドは、地球上の他の地域よりも、アイスクリームを流通させることが難しい立地条件を備えている特別な国なのだ。

そんなアイスランドにアイスクリーム屋はあるのか。アイスランドはもちろん先進国の一員であるが、先進国なのに戦闘機を一機も持っていないというニュージーランドのような国があるように、先進国なのにアイスクリーム屋がないという国があってもいいのではないだろうか。

しかし、調べてみるとアイスランドにもアイスクリーム屋はあったのだ。しかも、金属のタッパーみたいなやつにアイスクリームが詰め込まれていて、それをアイスディッシャー(アイスクリームを半球の形ですくう、スプーンみたいな道具)ですくってお皿やコーンにのせてくれるような、本格的なアイスクリーム屋が。

確かに日本でも、冬場だってアイスクリームは売れる。総務省統計局のデータによると、日本における「アイスクリーム・シャーベットの支出」(2016年)は、真冬の2月ですら、いちばん支出の大きい8月と比較して、約28%もの支出額を維持しているのだ。外が寒くても暖かい部屋でアイスクリームを食べたいという需要は確実に存在する。

だがそれ以前に、アイスランドにもアイスクリーム屋があることには、もっと大きな理由があると思われる。アイスランドは気候も土壌も耕作に不向きで、国土の耕作面積率はわずか1.2%に過ぎない。これは世界でも最低クラスで、国土のほとんどが砂漠であるサウジアラビアの1.7%よりも低い。しかしながら、ヨーロッパ北部同様、農耕には適さないが牧草ぐらいは生えるため酪農が盛んで、アイスクリームの主原料である乳製品は豊富なのだ。アイスランドにおける人口一人当たりの牛乳生産量は日本の7.4倍で、フランスやドイツをも上回り、だいたいスイスと同じくらいの水準である。

また、アイスランドは、グリーンランドの南端よりも北にあり、ロシアとアラスカの間にあるベーリング海峡と同じくらいの高緯度に位置しているが、意外なことに、首都レイキャビクを含め、人が多く居住している南東部の海岸沿いは、冬場でも極端には寒くない。
これは沿海を流れる暖流の影響で、いちばん寒い月でも平均気温はほぼ0度止まり。真冬の札幌の平均気温がマイナス3度であることを考えると、なんと冬場は札幌よりも暖かいのだ。

このような事情もあり、ほぼ北極圏に位置するアイスランドにも、アイスクリーム屋は存在するのだ。もしアイスランドを訪れる機会があったら、ぜひアイスクリーム屋に立ち寄りたい。豚骨ラーメンを食べに九州へ行く人の話は聞いたことがあるが、アイスランドへアイスクリームを食べに行ったという人の話はとんと聞かない。アイスランド観光のおみやげ話が、オーロラや氷河といったありきたりのものではあまり興味を持ってもらえないだろうが、「アイスランド? ああ、アイスランドのアイスクリームはおいしかったよ」という話であれば、きっと聞き手の食いつきもいいだろう。アイスクリームだけに。

※この記事は、ブログ「バーチャトラベル」の「アイスランドにアイスクリーム屋はあるのか」という記事を元に、統計情報を精査した上で、改めてnote用にリライトしたものです。

【参考 アイスランドにアイスクリーム屋はあるのか】

https://delta5a.com/travel/iceland/


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