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コロナ禍がぼくの変態を止めた話
44歳の夏、ぼくは東京のコールセンターを辞め、住んでいたアパートを引き払って実家に帰った。
次の仕事のアテなどなく、ただWeb関連でなにかをやろう、ということだけ決めての退職だった。
アテはなくとも、時間はある。
この時間を活かしてぼくは「変態」するのだ。イモムシがサナギになり、サナギがチョウになるように、メタモルフォーゼするのだ!
余談だが、イモムシ→サナギ→チョウのように、二段階の変態をすることを「完全変態」と呼ぶらしい。ぼくもまた、「コールセンター業」→「プロフェッショナルジョブハンター」→「理想のなにか」という具合に、完全変態を目指すべく、まずは1回目の変態を成し遂げた。
その変態により、第二形態であるプロフェッショナルジョブハンターへと姿を変えたぼくは、まずWebデザインの職業訓練校に通い始めた。
昼は学校、夜はオンライン講座で独学。
月日は過ぎ、冬が終わって春がきた。プロフェッショナルジョブハンターからWebデザイナーへと、華々しく完全変態する日が、一日、また一日と迫りくる。
ところが、コロナ禍がぼくの変態を止めた。
緊急事態宣言が発出され、経済がストップ。いまや未経験者歓迎の求人ですら、書類選考も通らない。
困ったことになった。
完全変態というのは、その二番目の形態、つまりチョウに例えればサナギの状態が、いちばん無力なのだ。
プロフェッショナルジョブハンターとは、まさにその二番目の形態。名前の響きこそ勇ましいが、言ってみればただのプーだ。
ここで変態できなければ、社会的に死ぬ。
変態か、さもなくば死か。
このような思考の二極化は危険な兆候だ。たぶん、脳が疲れている。「高いハードルはくぐる」ぐらいの柔軟性がいまは必要だ。
気を取りなおしていろいろ調べてみると、サナギの中には、ヘビトンボのサナギのように、ある程度動くことができるばかりか、近づいてくる敵に噛みついて身を守ることができる種もあるらしい。
あまり美しくないない光景だが、しかし完全変態を遂げるために最も大切なことは、まず生き残ることだ。
だから、とにかく今できる最大限のことをやるんだ、自分。
というわけで、1年前に立ち上げた「知ったかブリタニカ」というブログサイトに加え、新たにこのnoteというプラットフォームでの活動を開始することにした。
それ自体は、いまの最重要課題である再就職には直接関係ないのだが、「Web関連でなにかをやろう」という当初の漠然としたゴールへ近くためには、まずはこのプラットフォームにも慣れ親しむ必要があるだろうと考え、ネタはなくとも、まずは何か書いてみようと思った次第である。
いつの日か、再度この原稿を読み直した時、「箸にも棒にもひっかからんようなことが書かれているなぁ」と思うこともあるだろう。
いやむしろ、そうならねば困るのだ。もしぼくが絶え間ない成長を続けているのなら、ぼくの後ろには常に「いまの自分から見ればゴミのようなもの」しか残らないはずである。
谷川俊太郎の詩になぞらえれば「ぼくの前に道はない、ぼくの後ろはゴミの山」といったところだろう。
しかしそのゴミの山が、誰かにとっての都市鉱山として、将来、レアメタルの発掘現場みたいになってくれれば、なんて思いながら、今日も未来の自分にとっての「ゴミのようなもの」をぼくは作り続ける。
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