見出し画像

愛で導かれた霊的な世界 by愛の伝道師2世 (4話)

生まれて初めて私はようやく本当の愛に目覚めた。相手の女性は霊能力を持つ家系に生まれ、頻繁に霊を感じたりする事が有ると言う。しかし、自分自身で霊を祓うことはできず、しばしば苦悩の表情を浮かべていた。

霊など信じない私は、彼女の苦しみを精神的な問題だと捉えていた。しかし、彼女はまるで私の心を読むかのような行動を見せることがあり、偶然では説明がつかないほど、私が心に思うことを言い当てた。

それでも、私は単なる偶然の一致や、考え方が似てる事から類似した行動を取ってるだけだと思っていた。ところがある日、彼女は言葉を交わさずに心の中で愛を伝えてきた。

それは彼女の笑顔を見て、嬉しそうに喜んでいると感じたとかでは無く、ハッキリと言葉を喋ってるようだった。確かに私の脳は彼女の発してる念を正確に受け取っていた。

私も彼女の念話に、念で答えて、確かに会話が成立していた。言葉を使わずに心で感じ合い、より深い絆を確かめ合った。


私達は立場上、お互いに愛を育める状況に無かった。私は彼女の愛の告白を受けたと同時に、今は別々の道をお互いに歩むべきだと伝えられた。私は悲しかったが、その言葉に同意した。彼女には大きな使命がある事を感じ取って居たからだ。




この超常現象を直接体感した私は精神世界の扉を開き、彼女に憑りついた悪霊を祓う術を得るべく、神道や仏教、エクソシズムに至るまで、多岐にわたる方法を学び始めた。神仏への祈りは日常となり、誰に対しても頭を下げた事が無かった私が、神棚や仏壇の前で座礼を捧げ、お経や祝詞を唱え続けるようになった。これはすべて、愛する彼女の役に立ちたいと思う一心からだった。

魑魅魍魎と対話して成仏させながら、日々修行漬けの毎日を送って居た。

念話での対話は何度かして居たが、彼女と直接話す事は無かった。

そして300日が経った頃に、肉体を通し生身を使って空気を振動させ直接彼女と対話する機会が訪れた。

久しぶりに近くで見る彼女の姿は、なんだか余所余所しく、私の知らない彼女と話してるかのようだった。


音有る言葉として、きちんと伝える事は大切だと思い、私は彼女に「全部、聞こえて居たよ」と、分かりきった事実を確認するように伝えた。

彼女は「何が?」としらばっくれて居たので、彼女が私に伝えて来た言葉をそのまま使い「世界で1番愛しているよ」と伝えると彼女は、対外的に「それは嬉しい」と小慣れた様子で受け流した。

まるで私の告白を、男達が綺麗な女性に挨拶がわりに発する口説き文句かの様にさらりと聞き流した。


私はお互いに心が繋がってる事を証明しようと、念話をした時の事を色々話して聞かせた。その回数は一度や二度では無かった。けれど、私の話はまるで通じなかった。

彼女が意識して念を送ってる訳ではなく気付いて無いだけかと感じた。けれど念話をした時の会話内容をつぶさに話しても、そもそも彼女は私と会った事すら憶えてないようだった。

例え念話してる自覚が無くても、念を送受信するほど強い意識が有るなら、私の事を何度も思い強く感じてるはずだ。私は彼女と会った時に話した内容、その時の表情まで全て記憶して居るのに、彼女は何も憶えてない。


私が感じて来た特別な思い出は、彼女に取っては有りふれた日常のたわいの無い事で、記憶する価値も無い事のようだった。

そんな彼女と精神的に特別な繋がりがあるわけが無い。全ては私が勝手に美化した造られた記憶で、現実は私が1人で彼女を思い恋焦がれてるだけだった。

私のこれまでの体験、霊的な力、超能力のすべてが、ただの妄想だったのかと思い悩んだ。精神疾患で妄想と現実の区別がつかなくなっているのなら、もはや救いようがない。

彼女と出会ってから感じ取れるようになった霊的な存在や、死んだ父親の姿すら全部自分が創り出した妄想なんだろうか?と思い悩んだ。

しかし、彼女への愛情は日増しに強くなり、仏教が説く執着の罠にはまり込んでる自分に気づいた。彼女は自分の事を神聖な領域へ導く存在と考えていたが、神聖な力が彼女を通じて私を悟りの道へと導いていたのではないかと感じ始めた。

彼女と出逢わなければ、霊の存在など信じる事は無かっただろう。ましてや霊が人に取り憑くだとか、仏教を学ぼうとすら思う事は無かった。まるで全てが見え無い力に導かれ筋書きが有るかのように、私を神仏が存在して居る世界観へ誘って行った。





もしも、彼女を愛する事すら神仏によって仕組まれた事態なら、全てに意味があるはずだと考えるようになった。固執した愛の重さが、彼女も自分も苦しめるならば、その濃すぎる愛を薄め広げ、多くの人へ注ぐしかないと思い至った。

私はそもそも自分勝手な人間だった。自分を信じ無い者は信じ無いし、自分が大切に思わ無い人達がどんなに苦しみ悲しもうが知った事ではなかった。

自分の狭い世界が全てで、自分と自分が愛する人だけが幸せに慣れば良い。自分達に関係ない人間の事など気にも留め無い。

彼女1人の為に何千何万の人間が死んでも構わ無いし、それが正しい愛だと思って居た。

そんな自分が彼女を愛してしまい、渇愛の苦しみから逃れる為に、見ず知らずの人々を広く愛す事態に見え無い力で連れて行かれたようだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?