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デビル•フレンド16 死刑

まだ夜も開け切ってない暗い早朝
迎えに来た黒塗りの高級車に乗り留置所に向かった。

そして真っ直ぐ刑場にと向かった。


看守達がお決まりの挨拶をして何重にもロックされた扉を開き、私を死刑台に案内する。

重厚な鉄の扉を看守が二人がかりで開けて中に入ると、部屋の隅で獣の様に私を睨みつける男が居た。

私は彼の前に歩み寄り「最後に何か言いたい事はあるか?」と尋ねた。

男は私を睨み付け「神に使える神父なら俺を助けてくれ!」と、最後の望みを託し、私に襲いかかる様に懇願した。

涙を浮かべた男の眼差しには、極めてわずかながらの希望と、神も仏も信じられない絶望感、そして不条理な世界への憤怒が混じり合っていた。

それはまるで、せめてもの慰めに、私を道連れにして死のうかと襲いかかるかのようだった。


私は男が着ている囚人服の胸ぐらを掴み地面に叩きつけた。

そして「私は神父ではない。エクソシストだ」と男を睨み付け、脅す様に、ゆっくりと重く恫喝した。


私の心は恨みと怒りで満ちていた。もし叶うなら、この手で彼を苦しめてから絶命させたい。

すぐに後ろで見守って居た看守達が、電流が流れる棒状のスタンガンで男を叩き付ける。

青い閃光が走りバチバチと轟音をたて男の身体に電流が流れる。

看守達は何度も男を殴りつけ、男は血が混じった泡を口から垂らしながら意識を失った。

看守は、決して男に対して暴力を振るわない。それが彼らの規則であり、この国が生命を尊重するという原則から来ている。

しかしながら、囚人が外部者に対して危害を加える可能性があると判断された場合、人命救助のために暴力的な抑制が許可されている。

このため、最後まで死刑執行に抵抗する死刑囚には、形式上聖職者が説得して処刑台に連れて行くことになっている。

当然、囚人は抵抗する。そこで、聖職者の身を守るという名目で、看守は囚人に暴行を加え、絞首刑を強行する。

それが、命を尊重する法治国家が執行する、正当化された殺人の手順である。


朦朧とした意識の中で、男の首に縄が掛けられる。

やがて男は意識を取り戻し、自分の首に掛けられた縄を握り締め、嗚咽を混ぜながら断末の悲鳴を上げた。

すぐに死ぬ、哀れに泣き叫ぶ男を見ながら、私は冷酷に淡々と語りかけた。

「汝の罪を許そう」


私は部屋を出て長い廊下を出口に向かい歩いた。
コツコツと響く足音以上に、男が泣き叫びながら発する、言葉にならない生への渇望が響き渡る。

程なくして、全ての音を掻き消すほどの、まるで雷がすぐ近くに落ちたかの様な大きな音で、金属製の重い床が開く音が響き渡った。

それと同時に男の叫びはピタリと止まり、この世の全ての音が消えた様な静寂が訪れた。

その静寂を終わらせる様に、私は歩み続けた。

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