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麦の穂を揺らす風



【あらすじ】
1920年、アイルランドの田舎で「ハーリング」を楽しんでいる若者たち。その中にデミアンと兄のテディたちがいた。試合を終えて想い人のシネードの家に立ち寄るデミアン。その時、事件が起こった。イギリス兵によりシネードの年若い弟のミホールが殺されたのだ。理由はイギリス名の「マイケル」と名乗らず、反抗だったから。彼らの村では多くの幼なじみの友人がイギリス軍により、些細な理由で殺害されていた。ミホールの葬儀で彼の祖母が歌う哀切な古謡『麦の穂を揺らす風』。
五年間解剖学を学び、その週末には医師になるためロンドンの大病院に旅立つ予定だったデミアンは、祖国アイルランド独立のための戦いに身を投じる決意を固めた。ハーリングのラケットを銃に見立てた荒野での軍事訓練が始まる。
そして、やがて、デミアンは一線を越えてしまう。
兄弟の運命は。祖国アイルランドの運命は。

古謡『麦の穂をゆらす風』

柔らかな風が 谷間に吹き渡り
黄金色の 麦の穂を揺らした
二人の絆を 断ち切る言葉は辛くて
口に出せないが
それよりも なお辛いのは
異国の鎖に 縛られる屈辱
それで私は言う 山の谷間へ
夜明けに 仲間を求めて行こう
柔らかな風が 谷間に吹き渡り
黄金色の 麦の穂を揺らした

【みどころ】
IRAという言葉を聞いたことはありませんか? ニュースなどでなんとなく聞いたことはありますよね。たくさんの映画の題材にもなっています。例えばダニエル・デイ・ルイスの『父の祈りを』や『ボクサー』もIRAが大きなテーマになっていました。ニュースでも映画でも、IRAはテロリストとして描かれることが多いですよね。
IRAとはアイリッシュ・リパブリック・アーミーの頭文字で『アイルランド共和軍』という意味です。
アイルランドはイギリスの北西部に位置する島で、17世紀ころからイギリスから侵攻を受けたり、完全な支配下に置かれてその結果、ジャガイモ飢饉(百万人が死亡)を代表する苦難に痛めつけられてきました。
現在も北東部は「北アイルランド」というイギリス領になっていますよね。
この映画は第一次世界大戦が終わり、アイルランドでも独立の機運が高まった頃のお話。横暴を極めるイギリス軍に対し、金物屋や医者や牧師や農夫をしている普通の若者たちが、やむに已まれず戦いに参加してゆく姿が描かれています。
映画にも出てくる独立戦争休止条約の『英愛条約』がアイルランド共和国を誕生させるのですが、同時に北アイルランドをイギリス領として残すという「アイルランドを引き裂く条約」でもあったのです。
その政治の駆け引きに翻弄されて引き裂かれて行く若者たちの姿は胸に迫るものがあります。

監督は近作『わたしはダニエル・ブレイク』『家族を想うとき』でも知られ、当作品を含めて二度のカンヌ映画祭パルムドールに輝いくイギリスの名匠ケン・ローチ。
主演は今年日本公開された『オッペンハイマー』で主演し、アイルランド出身俳優として初のアカデミー主演男優賞に輝いた名優キリアン・マーフィー。

『麦の穂を揺らす風』に歌われる「二人の絆」「異国の鎖」「仲間」・・それらがアイルランドの色濃い緑の風景の中で美しく描かれ、傷ついてゆくのか。
映画史に残る傑作です。ぜひご覧になってください。


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