見出し画像

新規就農69%の意味

新規就農69%という数字

この69%という数字は新規就農者にまつわる数字だが何の数字だかわかるだろうか。

それは「就農4年目で生計が成り立っていない」と平成30年に農林水産省が実施したアンケートの回答である。実に70%近くの新規就農者が農業を始めて丸三年たっても生計が成り立っていないと答えている。データサイエンスを謳っている手前いささか古いデータで申し訳ないが最新版がこれである。
とはいえ、この数字自体は肌感としておおむねあっているように思う。

彩園なかやでは多くの人の支えもあり3年目にしてギリギリ生計を立てられるくらいには経営ができている。だがしかし、私は独立3年目であるが農業自体は10年目でありしかも新規農場の立ち上げ経験が人よりかなり多めというアドバンテージがある。
その中で何とか生活できている程度だ。このことを考えると2年程度、栽培の研修を受けて新規就農した人たちでは超ハードモードなのだろうなと想像がつく。
そんな世界観で生き抜いているのだから肌感としてあっているのだろうと感じるのである。

安定した生産

ではなぜ多くの新規就農者が生計を成り立たせることができないのだろうか。
それはこのアンケートに続きがあった。

それは「安定した生産ができていない」からである。
これはまさしくそのとおりであると思う。実際、私もこの“安定生産の壁”に悩まされ続ける10年間であったことは間違いない。

農業において最も大事なことは“生産物を出荷すること”である。
超当たり前の話だ。当たり前すぎて影を薄くとらえてしまう人も多くいる。
もう一度言う。農業において一番大切なことは“生産物を出荷すること”である。おいしい野菜を作ることや安心安全な野菜を提供することではない。これらは栽培に大切なことかもしれないが農業にとって一番大事なことではない。

彩園なかやはこの「安定した生産」を実現するためにすべての手段を講じている。だから有機農業的な土づくりを実践するし、化成肥料も活用する。当然、農薬だって活用する。この「安定した生産」を実現するために彩園なかやはすべての労力と時間を費やしている。結果としておいしい野菜や美しい野菜になっているがそれはあくまで「安定した生産」を実現するための副産物でしかない。

「安定した生産」実現への作戦

新規就農者の安定生産を阻む最大の障壁は何なのだろうか。
私が10年間いろいろな地域で農場を立ち上げてきた経験から導き出した結論は

「その地域の地理的クセ」

である。
これは九州とか関東とか北海道とかそんな大きな地域の話をしているわけではない。同じ市内でも隣町とかそんなミクロな地域の話をしている。
例えば、今自分が住んでいる地域は全く雨が降らないのに、川向こうの隣町は毎日夕立が来ているなんてことを感じたことはないだろうか。ほかにも、隣の集落の畑に石はほとんどないのに自分の住んでいる地域は石が多いなどである。このような近所なのに気象条件や土壌条件が違うことを私は「地域の地理的クセ」と呼んでいる。

そして農業をスタートする時には誰もこの「地域の地理的クセ」がわからない状態で始める。そして規模を拡大していくと今の地域とは違う地域にも畑を持つことになるだろう。そこで必ずと言っていいほどこの「地域の地理的クセ」に悩まされるのである。

だがしかし、この「地域の地理的クセ」は事前に予測するが可能である。クセというものは他と比べて偏りが多いがそれが常態化しているもののことを言うのであり、統計的に出現頻度が多いもののことである。そしてそれは“データサイエンス”によって可視化することが可能なのである。

そして彩園なかやはこの「地域の地理的クセ」と野菜栽培を統計解析しシミュレーションして可視化するプログラム“A-stat”を開発している。これはその畑においていつ植えるものがいつ収穫できて、どれくらいの収穫率になるのかを播種前にシミュレーションすることが可能になる。

このA-statが「安定した栽培」実現の作戦において肝になる取り組みである。
A-statについてはそのうち気が向いたら解説しようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?