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とあるバルとの出会いと別れ ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(32)

うるま市石川で飲み歩いて半年ちょっと。行きつけは二、三軒あるものの、ご年配の知り合いが圧倒的に多い。これはこれで楽しいけれど、頻繁に出くわす大城さんは飲みすぎて最後だいたい何言ってるかわからなくなるし、ビンゴおじさんはしつこいし。(常連さん図鑑はこの記事参照)

あと、ヤンチャ系のお兄さんがたむろっているアングラっぽいバーなんかは「父さん、強い妖気を感じます(©︎鬼太郎)」と、深入りしない方がいいと判断し、敬して遠ざけていた面もあります。これもサラリーマンの浮世の処世術。

さりとて20代の終わりもカウントダウンが始まっているような中、同年代の友人が欲しくなり「若者も多そうな具志川エリアまで遠征してみるか」と考えるようになりました。うるま市は合併によって誕生した広い市のため、中心部である旧具志川市の繁華街は、同じ市内でも旧石川市から離れており、気軽に飲みに行ける距離ではありません。

ネットで「うるま市 バー」で調べて出てきた店は、具志川のやや外れ。昼はピザが売りのおしゃれスタイルのバルのようです。自宅からやや距離はありましたが、物は試しと早速、土曜の19時ごろ、帰りは運転代行を使う前提で車で乗り付け、飲んでみることにしました。

プレハブの簡易な建物の中に入ると、店内はサボテンが似合う、打ちっぱなし感のあるバルの趣き。開けたワンフロアーのテーブル席にもカウンター席にも客はゼロで、僕よりやや年上か、マスターらしき男性が一人でキッチンに佇んでいます。一瞬たじろぎましたが客が少ないのは仲良くなるチャンス。カウンターに腰掛け、ビールをオーダーしながら男性に話しかけてみました。

案の定この男性が店主で、コウさん(仮名)といいました。県内の飲食関係で働いていたところを一念発起し、某大手企業を定年退職した親の退職金を借りて、このバルを開業。ようやう1年ちょっと経ったところというのです。結婚して小さいお子さんもいるとのことで、境遇に甘んじず夢を追い、挑戦している人もいるもんだなぁと感心しきりでした。

そこにようやくお客さんが入ってきます。アメカジスタイルで茶髪明るめの、ひょろっとしたお兄さんです。コウさんが「おー、ケンジ(仮名)」と声をかけます。聞けば高校の同級生とのこと。僕を除いて唯一の客が地元の友人て大丈夫かいな?と勝手ながら心配になります。

今度はカウンターの隣に座ったケンジさんと会話を交わすことに。僕が半年前に東京から転勤で来たばかりと話すと、なんとケンジさんも先月に、勤務していた東京の日野から10年ぶりに沖縄に戻ってきたばかりというではありませんか。これは奇遇。

日野で働く前は、吉祥寺に住みながら六本木の飲食店で働くなど、都内を長年転々としていたそうで、お互いの身の上話に話が盛り上がります。……と、ケンジさんがやおら立ち上がり、店のカウンターに入っていってしまいました。

内心「友達の店だからかな、けれど親しき仲にも礼儀ありだよ」と心配していると、ケンジさんは「いやー、東京から戻ってきたばかりで仕事がないんで、だから、今この店でバイトさせてもらってるんすよね」と衝撃の一言。

客、俺だけやないかーい。

てか、バイト前なのにカウンターでビール飲んでたよねー?

とツッコミどころの多さに衝撃を受けつつ、飲みながら仲良くなる時の鉄板、法に触れる行為でなければ深く気にしないことにしてその日はその辺でお開きと判断し、運転代行を頼みました。


距離はあったものの最初のインパクトが面白かったのもあり、それから秋冬の間、僕はたまにそのバルに顔を出すようになりました。20人くらいは入れるはずの店内に、いつ行っても多くて2、3人の客しかいないのは気になっていましたが、肩肘張らずに迎え入れてくれる同年代のコウさんやケンジさんに、ホッとしていたというところがあります。

ところが冬のある日。最近行ってないなぁと店のFacebook(当時は公式サイトを持たずにFacebookが公式サイトという店が流行っていました)を何の気なしにチェックしたところ、衝撃の投稿が。

「この度、火事で全焼したため休業中です」

えーーー!! 一念発起して開始したバルが、全焼とは……。不幸中の幸いで怪我人などは誰もいなかったようですが、コウさんはさぞ落胆しているだろうと思い、掛ける言葉が見つかりませんでした。

恐る恐るケンジさんの方に連絡をとってみると「あー。。。自分はいなかったときなんすけど、なんか新作料理の研究に夢中になっているうちに、コンロの火力が強すぎてプレハブの中の木材に着火したらしいっすよ」との返事が。

うっかりというかなんというか……その回答にも絶句していました。本人はどんな心境なのか心配して、たまに店のFacebookをチェックしていたところ、あるとき火事を振り返った投稿で「いやーお店、火に弱かったですね〜(笑)」

か、、、かるー!

ひょっとしたら空元気だったのかもしれませんが、それを見てなんだか脱力してしまい、それ以降、店のFacebookチェックはやめました。コウさんはそれからも期間限定の屋台などで再起を目指していたようですが、最終的には県内の別の飲食店に就職したそうです。

「同級生の俺がいうのもなんですけど、あいつは飲食店のオーナーは向いてなかったような気がします。今雇われでも頑張ってて元気そうだから、いいんじゃないすか」とはケンジさんの言葉。

そうなんです。コウさんとはそれっきり会うことはありませんでしたが、ケンジさんはうるま市内の別のバーで雇われ店長を務めるようになり、僕の開拓先は、石川から離れたケンジさんのバーまで広がりを見せるようになったのでした。

※本日のお話は一部改変を交えております。また冒頭の画像は投稿の内容とは一切関係のない別のバーで撮影したものです。

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