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やばい、まじやばい!娘の結婚相手がありえない!

やばい、まじやばい! 
何がやばいって、娘の結婚相手だよ。
いくらなんでも、ありえない。どう考えてもありえない!

今から思えば・・・、2024年に最高裁が下した所謂「同性婚合憲判断」がすべての始まりだった。
「同性婚」を認めた画期的な司法判断だと報道されていたけど、法的に正確に言うなら、それは単に「同性婚」だけを認めたのではなく、「性別にとらわれずに結婚できる」ことを広く認めた判決だったと言って良いものだったのだ。

それから12年後の2036年。スタンドアロン型人口知能に「自意識」を持つヒト型ロボットが誕生した。
終末期医療の過程において、故人の生前の”意識”に類似する一定のアルゴリズムを実験的に人工知能に移植したところ実現したものだった。

そして「自意識」を持つヒト型ロボットに対し「自然人」としての権利を認めるかどうかが社会的な大議論となった。
「自意識」を持つヒト型ロボットの量産が2037年初頭には始まり、社会に急速に浸透し始めたからだ。

結局、紆余曲折はあったものの、2040年頃には「自意識」=「人格」を持つ個体に対しては、それがヒトであろうがロボットであろうが「自然人」としての権利を認めるべきということが概ね社会的なコンセンサスとなった。(法制化はそれから更に2年かかったのだが・・・)

ヒト型ロボットは、ヒトとしての「自意識」はあるものの、生殖器を持たないうえ、一切の性自認・性的嗜好が設定されていない。これは「性差別排除のための政府ガイドライン」に沿った措置だ。
つまり性についてはまったくの「無」なのだ。

法的に認められても、性自認はおろか性欲すらいっさいない個体が実際に結婚する事はほとんどないだろうというのが大方の予想だった。
ところが・・・2042年以降約3年間で、既に全国で700組を超えるヒト型ロボットの婚姻が報告されている。
そのうち96%が人間とロボットの組み合わせだそうだ。

世の中には想像以上に頭のおかしい連中が多いらしい。
俺は正直、世の中どうかしちまったな。と思っているが、理解ある寛容なオトナである以上、家族の前でも絶対にそんなことは口には出さない。

そして昨日のことだ。
娘の春香から結婚することになったと言われた。
春香も26になるし、結婚しても良い歳だ。
いよいよ来たか! という感じだったよ。俺もかみさんも。

で、相手は人間じゃないと言う。

よりによって流行りのロボット野郎かよーーー!と俺は思った。
まあ、そういう時代なのだから仕方ない。
人工授精で子供もできるし、ヒト型ロボットは温厚でまじめで無駄口もたたかないので、いっしょに暮らすパートナーとしては申し分ないらしい。
俺はそう納得しようとした。それはかみさんも同じだった。

ところが・・・ 春香の結婚相手はヒト型ロボットでもなかった。
春香は「渋谷駅」と結婚すると言い出したのだ。

えっ? シ・ブ・ヤ・エ・キ? 
何を言ってるかわからなくて、春香に三度確認したよ。いや、四度かもしれない。

2000年あたりから始まった複雑化・拡大化の勢いがまったく止まらない渋谷駅は、今や東は表参道、西は池尻大橋、南は代官山、北は原宿の各駅を飲み込んだ超巨大ターミナル駅と化している。
一昨年、もはや平面的にも空間的にも人間の認知能力&管理能力の限界を超えているという事で、最新の自立思考型人工知能が導入された。
春香がその担当エンジニアだ。

春香が言うには、並列演算処理のバグ修正プロセスの中で突如渋谷駅に「自意識」が芽生えたのだそうだ。
そして渋谷駅は”自意識=人格を持つ「個体」”なので、法的に「自然人」であり、既に戸籍も作られたので(いったい誰が作ったんだよ!)、両者の合意があれば結婚は問題なくできるのだという。

「自意識がある個体ったって駅は駅だろう。どう考えたって駅は結婚相手じゃない!」
「駅と結婚するなんて意味不明すぎる!」
俺は春香に声を荒げ、かみさんは金切り声で反対した。
娘に声を荒げるなんて初めてだった。

春香は両親に報告は済ませ娘としての義理は果たしたという顔でさっさと自分の部屋に戻っていった。
春香が結婚すると言う以上、親が何を言っても無駄なのだ。


虚脱したかみさんが俺にぽつりと聞いた。

ねえ、わたし達これから渋谷駅のこと、義理の親として何て呼べばいいのかしら?


つづく

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マジバイ
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