やばい、まじやばい！　 もらったヨウムは最強のババア罵倒マシンだった

やばい、まじやばい。
何がやばいって、うちに来たヨウム。口悪すぎ。ババアの罵倒にかけては天才すぎ。

え？ヨウムって知らない？
確かアフリカあたりが原産の鳥。多分な。　まあ、形的にはでっかいインコだな。グレーの。尾っぽだけ赤い。
言葉を覚えてしゃべるが得意で、けっこうペットとして人気があるらしい。俺は知らなかったけど。
で、寿命が５０年以上。７０年ぐらい生きるやつもいるとかで、もうとんでもなく長い生き。
飼い主ほとんど先に死んじゃう。

俺の伯父さん、オヤジの兄貴ね、が飼ってたのよ。そのヨウム。
で、その伯父さんが３年ぐらい前に熟年離婚した。奥さん側の不倫が原因。伯父さんの奥さんって、派手めだけどちょっと小太りなおばちゃんだったから、俺のイメージする不倫する人の範疇には絶対入らないような人。だから離婚の原因聞いてすっげー驚いた。というか、６０過ぎて不倫とかありえねーだろ。
伯父さんは離婚して独り身になったのが寂しかったんだろうね。それでヨウムを飼い出したみたい。
で、伯父さんはヨウム残して死んだ。
男は独り身になるとすぐ死ぬってホントだな。
ヨウムを引き取る親類が誰もいなくて、仕方なくうちで引き取ったというわけ。
歳寄りはペット飼っちゃだめだね。伯父さん、絶対自分の方がヨウムより先に逝くってわかってたろうにな。どうして飼ったのかね。

うちに来て最初の一週間はなーんにもしゃべらなかったのよ。

とにかく、最初の一週間は、すごい攻撃的。何が気に入らないのか、怒りまくり。超不機嫌。
エサとかやろうとすると、手に噛みつく。
それが痛いのなんのって半端ない。まともにかまれたら手なんて流血。
お袋なんて怖くて無理とか言って世話しない。オヤジは相変わらず空気だし。自然、俺が世話係になった。
まだ無職だったからな。その頃は。文句は言えねーわ。
でも、とんでもないの来ちゃったーって思ったよ。
近所の公園に持ってって、野生に帰しちゃおうかって本気で思った。

で、うちに来て一週間ぐらいでだいぶ落ち着き出して、突然話しだした。

ババア、糞ババア　

それが第一声。　すっげーでかい声。
お隣の関根さんの奥さん推定年齢57歳がまたいつものようにうちに遊びに来てたのよ。
で、ヨウムに「こんにちは」なんて話しかけたら、そう言ったのよ。
糞ババア呼ばわりされたのに、関根さん「あらー喋ったあ」って無邪気に喜んじゃってさ。
「こんにちは、お名前は？お名前は？」って言ったわけ。そしたら、

うるせーよ。臭せーんだよ。ババア。こっちくんな。

関根さん、ちょっと顔が引きつってたな。でも全然めげない。「はい、はい。お口が悪いのね。あなた。で、お名前は？」てまた聞く。

何様だよ。ババア、迷惑なんだよ。

何回も言わせるな。ふざけんなよ。

実はお袋は関根さんあまり好きじゃない。　というか、大嫌い。厚かましいうえ、常に上から目線だからな。
で、自分ちには入れないくせに、他人の家にはずかずか入り込んで、べちゃくちゃ近所の噂話して、茶菓子を食い散らかして帰る。最初にお隣だからって気を使ってたのが大間違いで、いつでも俺んち来てくっちゃべって長居していいと思ってやがる。
ヨウムの言うように、確かに香水けっこうきつい。俺も臭いと思う。
お袋は、俺の方に振り返って、にっと笑って口パクで「ヨウム、グッジョッブ！」って言ってた。

「ババアはひどいわよ、せめて、おばさまっていいなさい。きれいなおばさま。」
関根さん、自分のこときれいなおばさまだと思ってんだな。こりゃびっくだ。

ふざんけんな、ババア。

「きれいなおばさま、ほら、きれいなおばさま」

ババア、糞ババア、臭せーよ。こっちくんなよ。

関根さん、俺の方を振り向いて、あんたが教えたの？って目で俺をすっげーにらんだ。絶対、俺を疑ってる目。
いや、いや、いや、いやって首振ったよ。

そしたら、ヨウムが止まらなくなった。
完全に壊れたババア罵倒マシンになった。

おまえ、賞味期限切れ。　

ババア、迷惑なんだよ。

　ピー、モシモシ？モシモシ？　
おまえ、誰に養ってもらっているんだ。

いい歳してババアが色気づきやがって。

おまえは、気楽でいいよな。
ピー、モシモシ？ハイ、ソーデス。ヨウムノヨウチャンデス
誰に向かってモノを言っているんだ!　
文句があんなら出て行けよ　　　

ババア、糞ババア、ふざけんな。臭せーよ。

よるな！ デブは暑苦しいんだよ。

うるせーよ。何様だよ。ババア、迷惑なんだよ　　
誰に向かってモノを言っているんだ!?　

　ピー、モシモシ？モシモシ？　ワカリマシタ。了解デス。
誰のおかげで生活させてもらってんだ!?　
え？え？え？え？
なんでお前なんかと結婚しちゃったんだろ。

何回も言わせるな。ふざけんなよ。

ナマムギナマゴメヨウムノヨウチャン
ピー、モシモシ？モシモシ？ワカリマシタ。　　　　
お前って本当にどうしようも無いな

香水きつすぎ。
結婚してからぶくぶく太りやがって。

　　ババア。こっちくんな。
モシモシ？モシモシ？　ハイ、ハイ、ソウデスネ、ソウデスネ
お前のどこに女としての魅力があるんだよ　
何やらせてもダメだな。お前は無能すぎ。バカ女　
ナマムギナマゴメナマタマゴ。
ハイハイ、ソーデス、了解！　モシモシ？ヨウムノヨウチャンデス

もっと頭使えよバカ。

何様だよ。ババア、臭せーよ。迷惑なんだよ。

関根さん、ブルブル怒りに震えて、ふざけんじゃないわよー　って叫んで、帰ったよ。
お袋はガッツポーズ。

伯父さん死ぬまで離婚した奥さんの悪口言ってたんだな。それでババア罵倒ヨウムができちゃったんだろうな。

え？　そんな口の悪いヨウムなんて飼えないだろって？　
いや、いや、いや。今や俺の大事なビジネスパートナーよ。
老人ホームとか連れてくだろ。そしたらジジババ達がこのまま死ぬんじゃないかってぐらい笑って、大喜びする。

ヨウムだからな。あと４０年は軽く稼いでくれそうだ。
すっげー遺産残してくれたよ、伯父さん。