令和ウスト -前説-
なぁにいっとんじゃぁあーーー!!!
某雑誌の中年編集長が個室の中、怒り顔でパソコンに向かって怒鳴った。
画面の向こうには実力が未知数の作家と、その作家を推奨したと思われる若い編集者(編集長の部下)が映っている。小説の連載を載せるか否かのリモート会議ってところか。
こんな不景気の最中に、新しい連載を始めてほしいだと。考えてからモノ言ってるんだろうな!!
しかも「令和に通じる古典文学の賛辞(オマージュ)」と題してるが、そんなもんパロディーかパクリの違いじゃないか?ゲーテの「ファウスト」っちゃ名前は知ってるがなに書かれてるかさっぱりだ。理解するのが難しい作品選ぶって、どうかしてるんじゃないか??
パワー&モラルのダブルハラスメントの権化らしい口調でまくりまくる編集長。
著者がビクビクを隠しつつ(顔に出ているが)しゃべり始める。
確かに「ファウスト」は戯曲(※)をイメージして書かれてて、表現が現代に伝わりにくい性質はあります。ですがその「ファウスト」に影響された人々はたくさんいます。(※)戯曲…劇・芝居の台本
音楽家を例に出すとシューベルトやリストが楽曲を作っていますし、グノーはオペラも出しています。日本でも手塚治虫が3度もマンガ化していますし、最近ではもっと分かりやすく中野和朗さんが解説している本も出ています。
もちろんそのまま使うのではなく、現代に即した「ファウスト」らしい物語を執筆します。
編集長は「ふん、雑学並べおってからに。」と思わんばかりに不機嫌そうに顔をしかめる。
そこで編集者が補足しようばかりに話し始める。
編集長、一度彼に託してみてはどうでしょう。私も最初彼に会った時、理解するのに苦労しました。ですがよくよく聞いてみると現代の世相を映す一方で、現代人が忘れかけている夢を与えたい想いが伝わってきました。
彼は人見知りですが、夢中にさせてくれるモノを何か持っています。それを開花させる機会を与えていただけないでしょうか。
「いいように言いやがって。。」口には出さないが、編集長は思った。そして問いかけた。
じゃあ、聞こうか。あんたがこの小説にかけたい思いを一言で言うと何だ?
作家は真剣な眼差しで答えた。
僕のような人たちの救済です。
「ん?」編集長は唸った。作家は話し続ける。
僕は今まで全うな人生を送ってきたかどうか分かりませんでした。自分のやりたいこと、自分のできること、社会から求められていることは何なのか?
いろいろと考えてみて、出たのが「自他共に楽しむ」ことでした。表現される形は人それぞれです。絵だったり音楽だったり踊りや芝居など、多種多様にありふれています。
僕は職を転々としておりましたが、自分らしさを出しながら人を楽しませられるのが執筆活動でした。執筆を通してエンタメという名前の青春を提供していきます。そして人生とは何なのかを問い続けている人たちを和らげたい所存です。
「エンタメという名前の青春」ね。 編集長は唸りこんだ。
ふん。まぁ良しとするか。。
編集長の図太い発言に、部下が目を輝かせた。
本当ですか、編集長。ありがとうございます!
ただしちゃんと一人前の作家として育て上げる前提で彼を見張っとくんだな。前の人みたいにどっかに蒸発されちゃ困るからな。
編集長は部下に一つ釘を刺した。
はい、承知しました。必ずやりとげます!
作家も頭を下げた。
どうぞよろしくお願いします。
絶対安全絶対安心なんか保証されていないこの世の中だからな。天地かけめぐる気持ちで頼むぞ。一世一代の覚悟で身を刻むんだ。科学的かどうかは問わんが、尻切れとんぼにならんようよろしく。
編集長からのアドバイスらしい締めくくりで、会議は終わった。
未知数の作家が書き上げていく現代版「ファウスト」。
どんな展開が待っているのか。最後まで書き上げられるのか。
乞うご期待!
「令和ウスト -読者へ-」につづく
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