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良いものは良き人から生まれる 有限会社三葉商事

有限会社三葉商事は、刺繍工場として1966年に創業。スポーツアパレルの刺繍をはじめ、ECサイトを通したお守り袋や名前つけグッズの販売、ユニフォームの名入れ刺繍まで幅広い事業を行っている会社です。企画から製造、販売までを一気通貫でできることを強みとされています。今回は、現社長の長男で、アトツギとして有限会社三葉商事で働いておられる山下正人さんにお話を伺いました。

インタビューを受ける山下正人さん

大手サラリーマンから舞鶴へ、自分の家業を守っていきたいという思い

山下さんが、家業である三葉商事で働き始めたきっかけは何ですか?

空間づくりに興味があり、京都の大学で建築を学んだあと、大手ハウスメーカーで約6年間、住宅販売の営業職として働いていました。サラリーマンとして働き始めてから、自分に家業があることは天命だ、自分が育ってきた家業を守っていきたいという思いが強くなりましたが、なかなか行動に移せていませんでした。そんな折に、コロナ禍がきっかけとなり、Uターンで三葉商事に入社することになりました。

それまでは全く刺繍のことを知らなかったので、はじめの1年半は、刺繍機を動かしたりデータ作成をしたりといった技術者としての仕事から、商品の梱包まで様々な仕事を行いました。今は技術的な仕事は他の社員に任せ、自身は地域の集まりやイベントに積極的に参加し、様々な人とつながる中で、新たな新規事業の立案や新商品の開発に取り組んだり、現社長と一緒に決算や会計など、会社を引き継ぐための勉強を行ったりしています。

新商品のインテリアグッズ。刺繍をすることで凹凸感も出すことができる。

ものづくりで社会を豊かにしたい

山下さんの仕事にかける思い、こだわりを教えてください

アトツギとして新規事業を考えるにあたって、海の京都ローカルベンチャースクールという起業、新規事業のためのスクールに半年間参加しました。最初に自分の社会的使命、ミッションは何かを考えるという講義があり、自身を振り返ると、やはり自分にはものづくりが染み付いていて好きだということに改めて気付いたんです。

刺繍機の音は小さい頃から親しんでいましたし、建築を学びたいと思ったのも空間づくりに興味を持ったからでした。その自分の好きなものづくりをもっと世間の人に広めたい、作っているものを評価されたい。そういう思いで、”ものづくりで社会を豊かにする”というミッションに行き着きました。最終的には、刺繍を通した日本全体のものづくりの地位向上や、世界に刺繍を羽ばたかせたいという思いがあります。

刺繍自体には機能的な役割はなく、何の役にも立たないものです。ただ刺繍があることによって思いを無限に表現できる。僕の今来ているTシャツも328(みつば)って入っているのですが、刺繍があるだけで、Tシャツが自分の会社を表現できる商品になる。これが、刺繍の持つ無限の可能性であり、奥深さ、おもしろさであると思います。

Tシャツに刺繍された328(みつば)

一方、無限だからこそ、お客様が求めておられることをどう引き出し、それをどう製品にしていくか、それをどうやって買ってもらうかが難しい所です。これはハウスメーカーの営業時代も考えていたことですが、ただ良いところだけ言ってもお客様は買ってくれない。お客様の気持ちにどう寄り添っていくかということをこだわって考えるようにしています。

Tシャツの裏にはQRコードが刺繍されており、読み取りも可能(精巧です)

自分たちの日常が誰かの非日常に

2023年7月に完成した新工場
刺繍を用いたインテリアの展示も行っている

三葉商事さんは新工場も建設し、オープンファクトリーを積極的に行われているかと思いますが、そこに至った背景や苦労、嬉しかったことを教えてください

これまで多かった下請けの仕事から脱却したいという思いがきっかけです。昔は日本全体に刺繍工場や縫製工場が多くあったのですが、今は海外の大きな工場が主流で国内の繊維工場はどんどん縮小しています。そういった現状を打破するために、自分たちの仕事を見てもらって、良いと思ってもらえるお客様と仕事をする、いわゆる迎客営業の必要性を感じるようになりました。そこで、この1、2年で国の支援事業を利用しながら新工場の建設と、オープンファクトリーの実施を始めたのです。

最初は、準備に時間がかかったり、お客様の対応に振り回されたりと、大変でしたが、社内のとりあえずやってみようという文化に後押しされ、実施することができました。オープンファクトリーをはじめてみると、様々なお客様が工場に足を運び、刺繍機や商品を見て大変喜んでくださいました。

色とりどりの刺繍の制作風景

来場者様が選んだポーチやタオルにご自身の好みのフォントやマークで刺繍を入れてもらうというワークショップも好評です。私たちからするとネームを入れるというのは日常の業務なのですが、参加された方の中には、今でも会うたびに「まだ使っているんですよ」といって、すごく喜んでいただいています。このように刺繍というものづくりに触れて心豊かになっている人の姿を目の当たりにする瞬間が一番嬉しく、オープンファクトリーを進める原動力になっています。

良いものは良き人から生まれる

最後に、三葉商事の会社として大切にしていることを教えてください

会社の理念として、”良いものは良き人から生まれる”ということを掲げており、刺繍の技術者集団として、技術を深めていくと同時に人間力を高めるということを意識しています。技術を深めることも大切ですが、品性や思いやりの心など、人としての魅力を大切にすることも大事。例えば、こちらから商品を提案する際にも、どんな人がその提案をするかでお客様にとっても印象が変わってきます。そのため、会社にとって従業員が一番大事です。

その中でも三葉商事として特徴的なポイントは女性が多いことで、23人の社員のうち9割が女性、その多くが子育て中のママ達です。子育てをするにあたり、働く時間が限られることもありますが、仕事・プライベートのどちらも納得いくまでやり切ることを目標にしています。刺繍はチームプレイで、仕事が一つの部署で完結することはないので、次の部署のことをちょっとだけ思いやりながら仕事をする、お互いが「ありがとう」と思えるような気遣いを大事にしています。

新工場前にて集合写真

刺繍を通してものづくりで社会を豊かにしたいという山下さんの熱い思いが感じられました。三葉商事さんの新しい取り組みから今後も目が離せません。

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