アメリカ人ボビーさんと働いたら人生が楽になった話

「今日からアメリカ市場のアシスタントやってくれる?」

以前の職場で、ある日告げられた担当変更。とある会社で営業アシスタントとして働いていたときだった。出会いは突然に。

苦難を乗り越えた先には、優しい世界が待っていた。かれこれ4年くらい前の話。つい最近この経験を思い出して、文字にしたいと思い記事にすることに。

アメリカのビジネスマンVS東京の主婦

TOEICスコアはそんなに高くない。多分当時は650程度だったか。外資系の会社で働いたこともあるが、資料に目を通したり、本社あてに簡単なメールを書いた程度の英語力。アシスタントなんて務まるのか。不安で仕方なかった。

それに、アシスタントする相手は入社したばかりのアメリカ人。名前はボビーさん。

世界でも有数のIT企業でのマネージャーを務めたことのあるガチのビジネスマン。なのに、プライベートではロックバンドを組んでライブをしているそうな。メタルだったかな、記憶があやしいけれど。バンドマンとしての名刺をもらったこともある。

当時の私は社会人になってまだ5年程度だった。彼に私の仕事スキルと英語力が通用するのか。毎日ドキドキだった。

容赦なく始まる、新規事業。日本は狭い。

ボビーさんに与えられたミッションは、アメリカ市場の開拓だった。日本市場で型ができあがっていたが、それをいかにアメリカ戦略に転用できるか。

日本とアメリカ、わかっていたけれどやり方は全く異なる。アシスタントを務めるうえで、違いを頭に叩き込むことが必要だった。アメリカって広い。商談をするにも距離がありすぎる。日本だと東京⇔大阪の出張も大儀だけれど、アメリカではこんなの可愛い距離。

だからなのか、アメリカ人は日本を本当に小さい国だと思ってる。川崎でボビーさんとその友達・マイクさんと飲んでいた時、いきなりマイクさんが言い放った。

「マイ、今から沖縄に遊びに行こうよ!」

ん?川崎から沖縄って電車と飛行機で2時間はかかるぞ?しかもこのとき、夜の21時。渋谷行く感覚で言ってる?ちなみにこのとき、マイクさんは初海外。今から沖縄へは行けないと伝えると、沖縄はそんなに近くないことに気づいたようだった。

ともあれ、新規開拓にあたり必要なデータやフォーマットを作ってはボビーさんにメールで送る毎日。時差があるので、私が出勤している間は向こうは夜。逆もしかり。

今もそうだけど、当時はもっと資料作りに自信がなかった。「うまく作れなかったけど、とりあえず送ってみよう」と、ダメもとで送っていた。

彼のビジネスを進めるために、日本側での社内調整は私がすすめていた。交渉がうまくいかず、「ボビーさん、ごめん。こんな条件しかもらえなかった。うまくできるかな?」と暗いメールを送ることもよくあった。

でも、優しい世界が待っていた。

自信なく、正直ショボいとすら自分でも思える情報を送り続ける私。でも、ボビーさんは最初にこんな言葉を返してくれた。

「That's nice!!」

いいね、と肯定してくれた。日本人の同僚だったら、ダメ出しの嵐をもらっていたはず。それに続けて、「ここをこうするともっとよくなるよ」「〇〇と△△が揃っているから進められるよ、ありがとう」とフィードバックをくれた。前に進むのみ。立ち止まることも後ろを見ることもない。目標に向けて一直線。爽快だった。

次に生かせるアドバイスや、与えられたカードでいかに戦うか、そんな考え方を身近に感じることができた。

日本人があつまると、どうも反省会のような暗い雰囲気になってしまう。それがなかったからか、とても仕事がしやすかった。

たまに、「I will roll out the red carpet for you!」「You rock!」と激烈にほめてくれたり。私も単純なのか、モチベーションは上々、仕事が楽しかった。

上司からも夫からも、「最近生き生きとしてるね」と言われるくらいだった。確かに、縮こまることなく視界が広くクリアになった感覚すらあった。

否定的な空気は、人の可能性を封じ込めてしまうのかもしれない。

ほめほめ攻撃はアメリカ人の天性の特技?

なんでも肯定してくれるのは、アメリカ人の文化なのかもしれないと思っている。

別の職場で、帰国子女の同僚がいた。色彩感覚や周囲を笑顔にさせるキャラクター、心はアメリカ人だった。原色大好き、楽しいもの大好き。(「暗い性格のアメリカ人もいるぞ!」と怒られそうだけど。笑)

彼も、人をほめて伸ばすタイプだった。彼の懐の深さに、私は何度も助けられた。

本人も、「人のいいところを見つける癖がある」と言っていた。よく世間で言われている、アメリカの相手を尊重するという文化がそうさせるのか?

ついに私の口癖にもなってしまった。

ボビーさんと長く仕事をしていたせいか、私も他の同僚に「いいね!」「すごいね!」と第一声を放つようになった。おかげで、楽しい雰囲気で仕事ができるようになった。ネガティブな発言が減った。もちろん、家族にも。

心が広くなって、マイナス思考になることもなくなった。「まあ、先に進むしいいだろう」「ほかの方法で解決できるから大丈夫」と考えることができるようになった。

悔しいことに、アメリカ進出は職場の都合で頓挫してしまった。ボビーさんともそれっきり。でも、その後スタートアップでの部署立ち上げ、私生活のコミュニケーションなど、自分を追い詰めることなく過ごせている。

偶然体験したアメリカ人ボビーさんとの仕事。これだけ聞くと、「英語力つきそう」「海外のビジネス経験が身につきそう」と思うかもしれない。確かにそうだけど、一番の恩恵は、頭の固い私に柔軟性をもたらしてくれたこと。仕事はもちろん、私生活も過ごしやすくなった。自分の人生を乗りこなすような。

ネガティブ人間がポジティブになり、人生が楽しくなったのは間違いない。

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