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マジシャンは手品のタネを自分で解き明かしたがる。


まずはじめは「うなずき」ですが、相手への服従をにおわすこの身ぶりは「肯定」を意味します。「身をかがめる」形の「敬意の表明」は、わたしたちヨーロッパ人にあっては、自分の独立を放棄したくないがゆえに、どんな場合でも上半身を曲げるだけだが、東洋人の場合は、主人に敬意を表明するのに土下座します。

G・W・F・ヘーゲル
精神哲学 哲学の集大成・要綱 第三部
長谷川宏訳
株式会社 作品社

「いつも謙虚ですよね。うんうん、ってよく相槌を打ちながら話を聞いてくれるし。」そう言われて床に足を投げ出してぐったりしていた私は即座その声の主のほうに振り返った。

その声の主は私のポールダンスの先生だ。
私は毎週レッスンを受けている。

私はその言葉を聞いて、いやいや…謙虚さよりも
!ダンスをやる人は自主独立の精神のほうを育てていったほうがいいのでは!
と思った。

10年以上前の一時期、マジックバーでアルバイトしたことがある。北新地にできた新しいBarで、オーナーは友人同士の共同経営で2人、母の店を継いで喫茶店を長年やっていた男性とマジックが好きでスプーン曲げが得意な男性マジシャン。
そこにタウンワークか何かを見て思いつきで衝動的に面接に来た私がアルバイトで入ったのだった。

そこでは意外な出来事が多くあった。
あるお客さんはお酒を飲むのもそこそこにトランプを取り出しずっと新ネタを披露する。近隣のマジックバーの人が偵察に来る、マジックグッズの会社をやっている人が営業に来る、オーナーであるマジシャンは休憩中にコーラを買いに行く道すがらにマジックを見せてくれたりした。
休憩中なのに??

カップルで来てちょっとマジックを見て1杯か2杯飲んで帰っていく、マジックバーってそんなもんだろうと思っていたので(失礼)マジックが好きな人達の熱量にちょっとびっくりした。ある業界の人はこうも言っていた。「友達いなくなるぐらいずっとトランプ触ってないと上手くならない。」

よく話をしていて面白いと思ったのが、
「マジックのネタって高額のお金で買えるんだよ。あのTVに良く出ているマジシャンSの持ちネタの種明かしまで含めて買いたいと思ったら〇〇万円払えば買えるんだよ。でもマジシャンって大体ネタの種明かしは自分でやりたい。」

なるほど、周りの人達を見てると確かにそうらしかった。

あと、新年会と称してお客さんも含め皆でメイド喫茶に行ったのに、誰もメイドさんを見てなかった。限定巫女衣装の日だったのに!
最近覚えたトランプネタをお互い披露し合うのに夢中な様子だった。
私だけがメイドさん(可愛い)と喋っていた。

私はこのネタ(ポールダンスでいうところの技)はどういう構成で作られているのか?分析すること。テクニックを身につけるにはどうすればいいのか?新しい技を身に付けるにあたって必要なことは?考えることと反復練習、誰も答えを教えてくれないなかでも創意工夫すること。

大事なことだと思った。
ただ、精神が主人で肉体は奴隷。
精神が肉体を完璧にコントロールできるまで
繰り返し練習することがダンスである。
表現をすることはそれができてから初めてできる
こと。と刷り込まれていた時期もあったのだが、

考え方が変わってきた。私はマジシャンの人達の性格を真似ようって思った。いくら多少のお金をレッスン代としてもらっているからって、1〜10まで手の内明かしてくれるわけはないよな、とも思った。懇切丁寧にアドバイスをくれて、自分がどういう作品を作るべきかの未來も指し示してくれて、とびきり親身になってくれて…
そんなことを先生に望むのだったら100万円ぐらいは渡すべきかもしれない。

自主独立の精神はきっと自分のためになる。
誰も、表現しなさいよ!とは言ってくれないのだ。これを忘れずにいようと思っている。


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