自分が信じたいものと見えたものが違ったとき、人はどう生きるのか? #ほねじゅう 感想
『骨と十字架』を観てきました
新国立劇場 小劇場で上演されている『骨と十字架』(2019/7/17 マチネ)を観ました。
演出・小川絵梨子さん、脚本・野木萌葱さん。
前半は感想つらつら、後半はシアタートークのレポを書きます。
進化論を否定するキリスト教の教えに従う司祭でありながら、古生物学者として北京原人を発見することになるフランス人ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの物語です。あらすじを読んだだけではピンと来ていなかったのですが、Twitterなどで口コミを見ているうちに
「これは行った方がいいのでは?」
「お?チケットあるぞ?」
ということで、観に行くことにしました。
こんなテーマなのにTwitterのタグが #ほねじゅう なの、かわいいですよね。
B席バルコニー(20番前後)に座りましたが、舞台がちょうど十字架のようにせり出していて、その横から舞台を覗き込む形になりました。手すりが視界には入るものの、全体が俯瞰できてとても良い席でした。正面から観るのとはまた違った印象になるかと思います。
予習ゼロだったけど面白かった
科学と宗教の間で揺れ動く主人公テイヤール(神農正隆さん)の葛藤が物語の主題です。その中に、信じているもの(信じたいもの)と見えるものとがぶつかり合ったときに人はどう生きるのか?両方愛するのか?それぞれ愛するのか?など宗教の論争に留まらない問いがあり、普段は宗教を意識せずに生活している日本人だからこそ観る価値のある作品だったと感じます。
難しいテーマなのかなと思っていましたが、台詞は決して小難しいものではなく丁寧に語られるので、すとんと入ってきました。役者さんたちの派手ではなくニュートラルな佇まいがとても魅力的です。美術や衣装も含めて全体に静かな舞台なのですが、それがこの作品の世界ととてもマッチしていて、日本人にとっては遠い異国の物語であっても不思議とリアルな感覚がありました。
そう、衣装。役者の動きに合わせてドレープっていうんでしょうか、こう、揺れるんですよ(ファッションを表現する語彙力が足りない)。重みのある生地で、それがまた美しいです。この衣装はぐっとくるなあ、と思うとだいたい前田文子さんなんです。好き。
推しはリサンです
私のお気に入りのキャラクターはテイヤールと同じく司祭であり学者であり、テイヤールとともに北京で過ごしたエミール・リサン(伊達暁さん)です。テイヤールは科学と信仰を完全に一体のものとして捉えますが、リサンは「それぞれを愛する」と表現しました。多分特定の信仰を持たない日本人にとっては一番理解しやすい人物なのではと思います。
自分の境遇を受け入れ、信仰と学問の追究を割り切っているような振る舞いをしているのですが、大きな発見をすることになるテイヤールへの嫉妬を隠しきれない彼の姿にはなんだか同情してしまいます。5人の登場人物の中でリサンはいちばん「ふつうの人」だと思います。少し皮肉っぽく、人間っぽいキャラクターとして演じられていたところも共感しやすかったです。リサンのファンは多いのでは、と推測します(あと伊達さんの声が好き!)。
シアタートークにて
ラッキーなことに、当日終演後に45分間のシアタートークというものがあり、脚本、演出、俳優勢揃いでお話を聞くことができました。観劇直後の記憶が鮮明なうちに作り手の方々のお話を聞くことができるのは本当に面白い!
Twitter等で詳細にレポートされている方がすでにいらっしゃるので、まいたけ流レポをお届けしたいと思います(需要あるのかしら……)。
登壇者
(向かって左から順、敬称略)
①中井美穂(司会)
②テイヤール:神農直隆
③ラグランジュ:近藤芳正
④脚本:野木萌葱
⑤総長:小林 隆
⑥演出:小川絵梨子
⑦リサン:伊達 暁
⑧リュバック:佐藤祐基
トークのようす
まずは小川さんから簡単なご挨拶がありました。野木さんにオファーした経緯などをお話しされていました。那須佐代子さん経由で野木さんと知り合い、仕事が被るけど台本を書いてほしいとお願いしたそうです。
野木さんは図書館で今回の題材に出会ったとのこと(パンフレットのインタビューでもお話しされていました)。
——最初に台本を読んでどのような印象だったか?
神農さん:生き物が好きで、養老孟司さんの本や進化論の本を読んだりするのがテイヤールとの共通点。「面白そう」という印象からスタートした。
近藤さん:野木さんとも小川さんとも一緒にやったことがあるが、一読しての感想は「訳が分からない」だった。本心をそのまま言わない台詞が多いから。分からないところをチェックしながら読んだら赤だらけになってしまった。どの立場で観るかによって変わってくるけれど、答えがたくさんある作品だと思った。
小林さん:こんなに台詞の入りが遅い芝居は初めて。神も仏も一緒に拝んでしまう日本で、一神教のことはなかなか理解できなかった。仏教からまずは理解しようと本を読み始めたけれど、キリスト教にたどり着く前に稽古が始まってしまった。
伊達さん:神父を演じるのは初めてだったので、どうやって作ったらいいか悩んでいた。小川さんから「アマデウスでいうところのサリエリ」というヒントをもらって腑に落ちた。天才が自分の側から遠くへ行ってしまうところがそう。テイヤールに嫉妬している。その辺りは身に覚えがあるのですごくやりやすかった。
佐藤さん:訳が分からない!小川さんからは「周りでわあわあ騒ぐ役だから」と言われて、イメージがついた。リュバックはテイヤールの弟子として、少し抜けているところを心配している。
(中井さんに「楽屋でもそういう感じなんですか?」と突っ込まれる。神農さんはほわーんとしていて佐藤さんがパパッと答えるので、「そういう感じなんだ」と会場全体が納得。)
小川さん:最初は「外国人(の物語)なんだ!」という感じでびっくりした。日本人の物語を書かれると思っていたので。
——(野木さんへ)物語の着地点を決めてから書いているのか?
野木さん:ラストは決めずに登場人物を動かしている、というイメージ。最後は念力で寄り倒すけれど……。
——(小川さんへ)演出はどういう風に組み立てるのか?
小川さん:まず最後の着地点があって、そのためにこのシーンがある、という組み立てをする。台本が出来上がってから俳優と話して作っていく。
ちなみに稽古では、人狼ゲームをスタッフと一緒にやっていたそうです(笑)どういう効果があるかは分からないけれど、チーム作りには役立っているとのこと。
ここで、登場人物の関係性についてトーク。登場人物を例えるなら……
総長:父親
リサン:長男
テイヤール:次男
リュバック:八男(!)
ラグランジュ:ホームドクター
うん、めっちゃわかる。
そして、登場人物たちの生き様について。
佐藤さん:テイヤールは人の目を気にせずに突き進んでしまう人。八男のリュバックはそれを心配して見つめている。リュバックはのちに枢機卿にまで上り詰める人物。人が好きで人に対して開いている性格があったからこそだと思う。
伊達さん:名前に「ド」がつく人は王室育ち。テイヤールもリュバックも「ド」がつく。それに対してリサンはつかない普通の人で、資料もあまり残っていない。
——セットなどは稽古のときから組まれていたのか?
小川さん:セットは実寸で稽古場にあった。洞窟と教会が合体したイメージ。美術は乘峯雅寛さんの最初のプレゼンがほぼそのまま形になった。普段はあまり音を使わない方だが、珍しく使った。照明はまだ少し変えていっている。
——野木さんはどのように公演を観ているか?
野木さん:5人が生きている!という感じ。書いているのは自分だけれど、観客と同じような気持ちで観ている。
——(野木さんへ)自分で演出してみたい?
野木さん:いいえ(即答)。ここは大きすぎる。
——俳優の皆さんの一番好きな台詞やシーンは?
近藤さん:(ラグランジュから総長へ)「あなたから羨望の眼差しを向けられたことは一度もない。蔑みの眼差しだ」
小林さん:テイヤールに「総長はお忙しい」という台詞があって、それをとっかかりに人物を読み解いていった。総長の台詞で好きなのは「わたしにわたくしの言葉などあるはずがない」。
伊達さん:マッチを折る演出が好き。なかなか折れないときがあって凹む。今日は1回で上手くいったので嬉しい。なんで折れないのかな?と考えたけれど、梅雨のせいだ!
佐藤さん:総長がリュバックの頰を触るところ。「お父さん…!」という感じがする。
神農さん:(テイヤールからリサンへ)「すべては神へと到達するために」
——どんな風に物語を書いているのかが気になる。台詞はどのように考えつくのか?
野木さん:台詞は登場人物が喋ってくれた、動いてくれた、という感覚。そこに「いる」感じ。もちろん自分が書いていることはわかっているのだけれど。客席の最前列のあたり(5m先くらい)で動いているのを書いている感覚。放っておくと膨大になってしまうので、最後は力で寄り倒す。
近藤さん:三谷幸喜さんが登場人物のこの辺(手元)で人形を動かして台本を書いていた時期あると聞いたことがある。そんな感じかな。
——最後に一言。
(この辺りあまりメモが取れなかった…全員順番にお話しされるも、総括すると)
明日からも進化していく舞台なので、二度三度繰り返し観てほしい!
野木さんが、書いた台詞が声になって、想いになって消えていくのを観てほしいとおっしゃっていたのが素敵でした。
あとはTシャツとか物販買ってね!ホワイエの展示(舞台の模型や原寸大北京原人の絵があったりします)も楽しんでね!とお話があって、
とにかく何度でも観にきてね!
という感じでお開きになりました。
あれ?長くなっちゃったな?
まあいいや。雰囲気だけでも伝われば嬉しいです。ほねじゅう、アツかった。
野木さん率いるパラドックス定数の舞台も観に行ってみたいと思います!
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