大阪エヴェッサ復帰を果たした土屋アリスター時生、挫折の末に辿り着いた「プロの境地」
<トップ画像:©︎2023 OSAKA SPORTS GROOVE>
OSAKA SPORTS GROOVEでは、大阪市内に拠点を置く8チームならではのインタビュー記事をお届けします。『大阪からスポーツを語る』では、地元・大阪でプレーする各チームの選手に、これまでのキャリアについて、グラフを用いながら当時の感情や思いを振り返っていただきます。
今回登場するのは、大阪エヴェッサの土屋アリスター時生(つちや・ありすたー・ときお)選手です。日本とイギリスのルーツを持ち、身長201cmと恵まれた体格を活かしたクレバーなプレーで外国籍選手をも圧倒。今季より3シーズンぶりに大阪エヴェッサに復帰し、チームに新たな活力をもたらす存在として活躍を期待されています。
土屋選手のバスケ人生を振り返りつつ、ターニングポイントとなった時期や印象に残っている試合、さらにはプライベートでの執筆活動についてもお話を伺いました。
壁に直面してもB1で戦うことを決めた理由
ー18歳まで順調に上がっていますが、そこから少しだけ下降していますね。
バスケを始めてからずっと楽しくプレーしてきたのですが、18歳の頃に少しだけ挫折を経験しました。高校3年のときに出場した大会で思うような成績を出せなかったんです。上には上がいるんだなと痛感しました。
ー大学に入学されてから、再び上昇しています。
実は、大学時代に一度バスケを辞めようと思ったんです。続けるか迷っていたときに、先輩や周囲の方々から激励を受けて続ける決心がつきました。徐々にモチベーションも高まり、22歳で出場した大学最後の試合では、自分自身も納得できるプレーができたため、グラフも上がっています。
ープロ入団後のお話もお聞かせください。25歳の頃は何かあったのでしょうか?
B2・西宮ストークスを経てB1に挑戦したとき、大きな壁に直面したんです。B1は、今まで自分が経験したことのない、B2とは全く違う空気感。でも自分が本当に望んでいた環境はB1だと気づき、大阪エヴェッサ、そして横浜ビー・コルセアーズでの挑戦を選択しました。そこからは少しずつですが自分にできることを見つけ、着実にステップアップできたと思います。
ーB1とB2の空気感の違いについて詳しく教えていただけますか?
バスケのレベル差による空気感の違いもありましたが、それ以上にファンの方々の雰囲気に大きな差を感じました。B1では勝利や結果を求める風潮が強かったです。もちろんB2でも負けたら悔しいと感じるファンの方々もいましたが、それ以上に、多くの方々がバスケ観戦自体を楽しんでいた気がします。このアットホームな雰囲気が選手の士気にも影響を及ぼしている感覚もあり、僕個人としては、B1の方が肌に合っていると思い移籍を決めました。
ー再びグラフに話を戻します。ここ数年は右肩上がりですね。
昨年はシーズンの中でアップダウンはあったものの、最終的には良い1年だったと思います。チームの目指すバスケと自分の能力が上手く合致しました。自分の得意分野を伸ばした結果、それが上手くチームにハマったので、結果にもつながったという感じです。でも今はまたちょっと壁にぶち当たっていますけどね。
ーそれで少し下がっているんですね。どういった壁でしょうか?
これまでとは違って苦手な分野にも取り組む必要が出てきました。今年に入り、自分に求められているプレーが少し変わったんです。でも正直なところ、今求められているプレーはあまり得意ではなくて……。それ以外にも苦手なポジションでプレーすることもあり、自分の中では壁でもあり挑戦でもあります。ただ、今は少しずつ慣れてきているので、今後はその新しいポジションの中でどうやって自分の得意なことを表現するかですね。
プロとは何か、その意味を考えた1年間
ーこれまでのバスケ人生を改めて振り返ったときに、ご自身の中で一番のターニングポイントとなった時期はいつ頃でしょうか?
昨シーズンは自分にとって大きな転換点だったと思います。プロとは何か、その意味を深く考える1年でした。以前はプロ選手とは多才な人、例えばシュートやドリブルが上手くて何でもできる人だと思っていたんです。でも実際には、1本のシュートを決めるために何千本ものシュートを打ち続けられる人が、プロとして成功しているんだなと。自分も、その1本のために努力できる人でありたいと思うようになりました。
ーそのような考えに至ったきっかけがあれば教えてください。
B2時代は、やるべき練習をしてさえいれば試合で結果を出せたんです。でもB1では、そのやり方は通用しませんでした。さらに最初の2年間はどれだけ練習を重ねても結果に結びつかなかったんです。それが去年、ある試合でシュートが入ったときに「これだ!」と感じる瞬間がありました。練習で何回も何回も打ち続けたシュートを試合で再現できたときに、この1本を本番で出すためにやってるんだなあと。その成功体験は自分の中で大きな自信につながりました。
ーB1に活躍の舞台を移し、3年目で手応えを感じられたんですね。
自分なりにもがいた末の3年目、優秀なコーチ陣によるサポートもあり、もう後は結果を出すだけという状況でした。結果がついてきたのは、メンタルの影響も大きかったです。去年は考え方も変えました。今の自分にはできることしかできない。でも、自分にできることであれば何回やってもできる、と。そうやって割り切れたときに、自信を持って試合に臨めるようになりました。
ー印象に残っている試合はありますか?
もし1試合選ぶとしたら、昨シーズンの横浜ビー・コルセアーズ戦ですね。外国籍選手が怪我で試合に出られず、僕がスタメンで出場。相手の外国人選手を抑えて、勝利に貢献することができました。今まで経験のない状況でのプレーでしたが、自分にもこういう役割を果たせるんだなと、自信につながった試合です。
ー今年から大阪エヴェッサに復帰されました。久しぶりのチームはいかがですか?
以前一緒にプレーしたコーチもいますし、慣れ親しんだ場所に帰ってきたなという感じです。優秀な選手も多く、彼らから色々と吸収させてもらいながらとても楽しくプレーしています。
ー今年から大阪エヴェッサに復帰されました。久しぶりのチームはいかがですか?
以前一緒にプレーしたコーチもいますし、慣れ親しんだ場所に帰ってきたなという感じです。優秀な選手も多く、彼らから色々と吸収させてもらいながらとても楽しくプレーしています。
バスケと執筆活動を通じて自分を表現
ープライベートでの執筆活動についてもお話を聞かせてください。
本格的に書き始めたのは高校からです。良いことかは分かりませんが、常に自分の頭の中に物語が存在していて、それをアウトプットするために文章を書いています。基本的に、何かを表現したいタイプなんです。なので「書きたい」というよりは、「書かなきゃ」といった感覚の方が近いかもしれません。モヤモヤと脳にたまってくる物語を出力したいというような……。そう考えると、バスケをプレーすることも自分にとっては表現の一つですね。
ー物語の中でも児童文学というジャンルを書かれているのは何か理由があるのでしょうか?
現在執筆している児童向けのファンタジー文学はどうしても海外作品の翻訳が多く、もう少し日本人作家による作品があってもいいかなと思って書き始めました。幼い頃に児童文学を読んでワクワクした感覚を、未来の子どもたちにも味わってもらいたいという気持ちもあります。近年は時代的な背景もあって最初から主人公が強い作品も増えましたが、僕としては昔ながらの、努力をして困難を乗り越える冒険物語が好きなので、そういった話を書いて子どもたちに届けたいです。
ー物語を生み出す想像力がバスケに活かされることもありそうですね。
もちろんプラスに作用することもありますが、バスケにおいてはマイナスに働くこともあるんです。いかんせんバスケは瞬時の判断が求められるスポーツ。0コンマ何秒で決断しなければならず、考える時間はほぼありません。創作時のように想像はできるものの、結果的に選択肢が増えすぎてミスの原因になったり、アイデアが浮かびすぎることで思考がフリーズしたり。なので意識して頭の中をクリアにしています。良く言えば、執筆時とは違う脳の使い方ができて面白いですね。
ーどのようにして頭をクリアにしているのか具体的な方法を知りたいです。
僕の場合は、リラックスミュージックを聴いて瞑想、さらに呼吸を整えて心拍数を抑えることで、副交感神経を高めています。
このルーティーンをアップ前に行うことで、集中した状態で試合に臨むことができるんです。他の選手たちは早めにアップを始めますが、僕はミーティングまでは瞑想に時間を割いています。コートに出ると音楽やファンの方々の声援など刺激が多く、情報過多で集中できなくなるため、脳と体の準備を分けて行っています。
ーご自身のプレーや活動を通じて、子どもたちに伝えたいことはありますか?
自分は高校も大学も強豪校ではなかったですし、一般的なプロ選手と比べると異色の経歴だと思います。でも僕のような経歴でもプロになれましたし、大切なことの多くはプロになってから学びました。適切なアプローチの仕方を見つければ、活躍の機会が得られるということを伝えたいです。
―最後に、今シーズンの目標と、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
現在、プレータイムはあまり多くはありませんが、試合に出られれば勝利に貢献したいですね。自分が出場することで、チーム力の底上げができれば嬉しいですし、レギュラーメンバーに対しても簡単には試合に出れないぞと、良い意味で危機感を与えられたらいいなと。今シーズン、まだ多くの試合が残っています。チーム一丸となって、ファン・ブースターの方々に喜んでもらえるような試合をお見せしたいと思うので、引き続き応援よろしくお願いします!
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