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【医療の盲点】〇〇のサポートが無いと、納得感のある最期を過ごすことは非常に難しいです。【家】#166

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「在宅医療になぜ歯科が必要なのか」です。

動画はこちらになります。

がんの終末期になると、最期は自宅で過ごしたいと思われる方は多いです。

それをサポートする多くのご家族の希望は、「最期まで口から食べさせてあげたい」「最期まで会話を楽しみたい」というものです。それは当然のことです。医療者もそれをサポートしたいと思っています。

ただ、それを叶えるにはとても大切なポイントがあります。それは、訪問歯科をあなたのサポーターにすることです。

今日は、なぜその訪問歯科が「最期まで口から食べさせてあげたい」「最期まで会話を楽しみたい」という希望を叶えることができるのかについてお話します。

今日もよろしくお願いします。


最期まで口から食べ 会話をするためには

結論から申し上げます。

在宅でがん患者さんが、最期まで口から食べ、会話をするためには、しっかりと口腔ケアをしてくれる訪問歯科のスタッフのサポートが必須です。

ぜひ、患者さんが家に帰ってきたときに、在宅医、訪問看護師と共に、歯科医・歯科衛生士といった訪問歯科のスタッフも在宅医療の一員として、家に来てもらうようにしましょう。

最初から大勢の人が家に来てもらうことに、ためらいがあるという人もいるかもしれません。

その場合でも、むせることが増える、食事・飲水がしづらくなるといった、嚥下機能の低下がみられるようになったときには、ぜひ訪問歯科のスタッフの援助をもらうようにしてください。そして、口腔ケアや嚥下リハビリテーションをしてもらってください。

訪問歯科のケアを受けることで、口腔内の衛生が保たれ、咀嚼・嚥下機能の低下を予防することができます。その結果、誤嚥することが減り、誤嚥性肺炎のリスクが減ります。さらには、最期まで口から物が食べることができ、会話も可能になるのです。

在宅療養を始める際には、ぜひ訪問歯科のスタッフをあなたのサポーターにしましょう。


口腔ケア・嚥下リハビリテーションの必要性

がんが悪化し終末期になってくると、ほとんどの方は悪液質という状態になります。

悪液質になると、カロリーを摂取したとしても、全身が衰弱し体重が減少します。そして筋肉量の減少が起こり、筋力が低下します。悪液質の時は、嚥下に必要な筋肉も落ちるため、嚥下機能が低下するのです。

悪液質に関しては別の記事で詳しくお話していますので、ぜひご覧ください。

では、嚥下機能が低下すると、どういったことが起こるでしょうか。

1.食欲低下

食べるとむせるので、食べることが怖くなります。また 咀嚼自体も疲れやすくなり、食事をすることが億劫になります。その結果、食欲低下が起こります。

そうなると悪液質が悪化し、悪循環に陥ります。

2.睡眠障害

次に、夜間の誤嚥による咳で、睡眠が妨げられます。食事をしなくても唾液を誤嚥してしまうのです。この場合の睡眠障害は、当然睡眠薬では改善しません。睡眠障害の改善には誤嚥の解決が必要です。

3.口喝

嚥下がうまくいかなくなると、水を飲むことが思うようにできなくなります。その結果、口の中の乾きが強くなります。これを口喝と言います。

口腔内の乾燥により、滑舌が悪くなり、発声が困難になります。この結果、患者さんは話すことを積極的にしなくなります。

4.誤嚥性肺炎

嚥下機能が低下して、誤嚥が何度も起こると、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。

誤嚥性肺炎の原因は、食べ物の誤嚥だけではなく、口腔内の唾液や汚れも原因の一つです。口腔内の衛生状態を保つことが、誤嚥性肺炎を防ぐためには必須です。

以上のことを予防したり改善するため、口腔ケア・嚥下リハビリテーションが必要なのです。

口腔ケア・嚥下リハビリテーションは難しいものではありません。専門家スタッフに教えてもらえれば、誰でもできるそうです。ご家族であるあなたも、スタッフに教えてもらって、実際に患者さんにしてあげてください。

ポイントは、飲み込む時のメカニズムを歯科スタッフに聞き、実際に嚥下訓練を患者さんにしてもらうこと。
口腔内を清潔に保ち乾燥させないこと。
話すこと自体が訓練になるので、患者さんと話す時間を作ることだそうです。

私は専門家ではありませんので、ここで詳しくはお伝えできませんが、いずれ具体的なやり方を皆さんにお伝えする機会も作りたいと思います。


訪問歯科のスタッフが在宅でしてくれること

では実際に訪問歯科は何をしてくれるのでしょうか。

1.誤嚥性肺炎の予防

先ほども述べたように、終末期の患者さんの誤嚥性肺炎の原因は、口腔内の汚れの中にある細菌が、誤嚥により肺に入ることです。

したがって、訪問歯科のスタッフにより、口腔内の清掃と嚥下リハビリテーションをしてもらうことが誤嚥性肺炎の予防のためには重要です。

2. 嚥下リハビリテーション

繰り返しますが、嚥下機能を改善する、嚥下リハビリテーションは、最期まで口から食べ、会話をするためには重要です。

訪問歯科のスタッフは嚥下リハビリテーションの指導をしてくれます。嚥下リハビリテーションは、ご家族であるあなたも患者さんに行うことができるので、ぜひ訪問歯科のスタッフにやり方を教わって患者さんにしてあげてください。

3.口腔ケア

歯科スタッフは、ブラッシングや口の中の掃除といった口腔ケアをしてくれます。

終末期には、多くの患者さんが、口腔内の衛生状態を保てなくなります。なぜなら、元気だった時にできていたようには自分でセルフケアができなくなるからです。

しかし、そのままにしておくと、誤嚥性肺炎のリスクが高まったり、食事ができなくなるだけでなく、口臭など様々な問題が起こってきます。このため、患者さんは会話をすること自体がしんどくなってしまいます。

その結果、せっかく家に帰ったのにご家族ともコミュニケーションがとりにくくなってしまうのです。歯科スタッフは定期的に専門的な口腔ケアをして、最期まで患者さんの希望をサポートします。

4.口腔内乾燥・口喝の治療

終末期の患者さんは、様々な原因で口腔内が乾燥します。

口腔内の乾燥は、口の中の不快症状となるだけでなく、食事や会話が困難になる原因につながります。歯科スタッフは、水分補給、加湿、保湿のほか、保湿剤や薬の服用により、口の渇きを改善してくれるでしょう。

5.口腔内カンジダ症の治療

終末期になると、免疫力が低下するほか、口腔内の乾燥や汚れのため、口腔内にカビが繁殖する病気「口腔カンジダ症」を高い頻度で発症します。

治療のため、ステロイドを長期で服用する場合も、「口腔カンジダ症」はよく起こります。カビであるカンジダが繁殖すると、口の中がヒリヒリ痛む、食べ物を口にしたときに痛む、食べ物の味を感じにくいなどの症状があらわれます。

歯科スタッフは、内服薬や口腔内の洗浄によって口腔カンジダ症を改善、治療をしていきます。

6.口内炎の治療

終末期には、抗がん剤の副作用、免疫力の低下、口腔内の乾燥、ステロイド剤の長期使用などによって、口内炎ができやすくなります。

痛みが強い場合は、鎮痛薬の使用が必要なこともありますが、歯科スタッフのケアでも軽減が可能です。

7.入れ歯の調節・作成

終末期となり、体重が減少し、やせていくのに伴い、歯肉もやせていきます。

入れ歯が合わないと、食事ができなくなったり、会話ができなくなります。合わなくなった入れ歯は、そのままにしてはいけません。歯科医師に、合わなくなった入れ歯を調整したり、新しく入れ歯を作成してもらいましょう。

以上、終末期における口腔ケアの重要性と、歯科スタッフがしてくれる治療・ケアについてお話してきました。

歯科治療の重要性を理解し、歯科スタッフを訪問医療の大事なサポーターに加えてください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「在宅でがん患者さんが最期まで口から食べ、会話をするためには、口腔衛生を保つことが必須です。在宅療養を始める際には、訪問歯科のスタッフをあなたのサポーターにしましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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