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乳がんの7割の人が行うホルモン療法のつらい副作用は改善できる!【患】#179

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「乳がんのホルモン療法を続けるコツ」です。

動画はこちらになります。

みなさんは乳がんのホルモン療法を知っていますか?

乳がんになった人のほとんどはホルモン療法をします。ホルモン療法をすることで再発リスクが大きく軽減されるからです。

ホルモン療法には副作用もあり、副作用が原因でホルモン療法をやめたいと思う人もいるくらい、つらい症状になることもあります。しかし、このつらい副作用をコントロールすることは可能です。

今日は、乳がんのホルモン療法と、副作用のコントロール方法についてお話します。ホルモン療法の副作用は理解されにくく、そのことでも患者さんは苦しんでいます。そのため、乳がんの患者さんだけでなく、そのご家族・サポーターの方にもぜひ見ていただきたい記事です。ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


ホルモン療法の副作用はコントロールできる!

乳がんには、女性ホルモンの1つであるエストロゲンをエサにするがんと、そうではないがんがあります。

エストロゲンをエサにするがんは、ホルモン陽性乳がんと呼び、乳がんの7~8割を占めます。ホルモン陽性乳がんは、エストロゲンをエサにするので、エストロゲンを抑えることが治療になります。これが、ホルモン療法です。

つまり、乳がんの7~8割の患者さんがホルモン療法をするのです。

ホルモン陽性乳がんは、ホルモン療法を5年以上続けることで、がんの再発率を半分にすることができます。10年間続けると再発率はさらに低くなります。ホルモン療法は、とても大切な乳がんの治療なのです。

けれどもホルモン療法をすることで、更年期のような症状などの副作用が現れることがあり、それに苦しむ患者さんは少なくありません。ただこのような症状は、抗がん剤の副作用のように、すべての人に出るわけではないので、理解されにくく、更にそのことで患者さんは苦しんでしまいます。

先日、50代前半の乳がんの患者さんが、私の緩和ケア外来にきました。

「手術と抗がん剤の後、ホルモン療法をしていますが、3ヶ月経った頃からほてりやのぼせがひどいんです。夜中汗をかいて目を覚ますので、熟睡ができません。手の指のこわばりや関節痛もひどくて、包丁を握ることもできません。洗濯ばさみで洗濯物を挟むこともままならないんです。主治医の先生は『よくあることです、頑張りましょう。』としか言ってくれないし、夫も抗がん剤治療中は、家事などは手伝ってくれましたが、更年期の症状くらいでは迷惑もかけられないと思って、言い出せていません。ホルモン療法って10年も続けないといけないんでしょう。こんなにつらいのなら、とても続ける自信がありません。やめてしまいたいです。」

と言いました。

この患者さんのように副作用で苦しんでいたり、家族や主治医に言い出せなくて1人でつらさをかかえている患者さんは多いのです。特にこの例の女性は、主治医が乳腺専門ではなく、整形外科の先生、しかも男性でした。

この方のように、手術や抗がん剤治療が終わり、ホルモン療法だけになった時には、他科のかかりつけ医が主治医になることも多いので、わかってもらいにくいことがあるのです。しかし、ホルモン療法の副作用は、緩和することは可能です。

ホルモン療法は再発を予防する大切な治療です。副作用の緩和をしっかりとして、諦めずにぜひ続けてほしいと思います。

ホルモン療法の副作用は我慢しないで、主治医や医療スタッフ・ご家族に打ち明けましょう。具体的なコミュニケーションのとり方は最後にお話します。


ホルモン療法はなぜ必要なのか

繰り返しますが、ホルモン療法は、ホルモン陽性乳がんの患者さんにとって、とても大事な治療です。なぜなら、手術後にホルモン療法を5年間続けることにより、再発する患者さんを最大で47%程度に減らすことができるからです。

5年間の内服で47%ですから、それ以上に服用を続ければ、再発を予防する確立は更に増えていきます。

乳がんでは術後5年以降の再発も珍しくありません。できるだけ長く服用し、再発を防ぐことが重要とされています。

ステージ1以上の乳がんなら、最大10年飲み続けると、再発率が優位に低下したという研究もあります。乳がん診療ガイドラインでは、乳がんの術後内分泌療法として10年間の内服が推奨されています。


ホルモン療法の副作用とその対処法

次にホルモン療法の副作用と、その対処法について述べます。

1. 更年期様症状

副作用として1番多いのが、更年期様症状でしょう。ホルモン療法を受けている患者さんの半数以上が経験すると言われています。ほてり、のぼせ、冷えや発汗などの、いわゆるホットフラッシュといわれるものです。

血中のエストロゲンが少なくなることによって起ります。更年期に起こる症状とほぼ同じなので、更年期様症状と言っています。

通常、症状は自然に軽快していくことが多いですが、長期間続き日常生活に影響する患者さんも少なくありません。つらい時には我慢せず、医療者に相談してください。

私はこのような症状が出た場合、漢方薬を良く使います。加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などをその方の体質に合わせて処方します。夜が寝られなかったり、精神的なつらさがひどくなった場合には、抗うつ薬や安定剤などの向精神薬を使うこともあります。

また、自分でできる対処法も色々あります。

冷えやのぼせの対策として、まず温度調節ができる服装を心がけることです。カーディガンなど脱ぎ着ができる、体温調節のしやすい服装を心がけ、吸水性の高いスカーフ等を使用することもおすすめです。

また、イライラや気分の落ち込みに対しては、食事、睡眠をしっかりとり、生活にリズムをつけ、趣味や軽いスポーツなどでストレスを解消しましょう。

2. 関節痛・関節のこわばり・筋肉痛

関節痛・関節のこわばり・筋肉痛は、ホルモン療法をしている患者さんの15~47%に起こると言われており、この症状も患者さんを悩ませます。ホルモン剤開始後2〜3カ月以内に起こることが多く、ホルモン治療をしている間ずっと続く患者さんも少なくありません。閉経後5年以内の患者さんに発症しやすいと言われています。

私はこのような場合、消炎鎮痛薬に加え、漢方薬を併用します。冷えを伴った痛みの時には、牛車腎気丸や八味地黄丸は効果がありますし、芍薬甘草湯は即効性が期待できます。

ホルモン剤の変更がなされることも多いようです。また、鍼灸が有効だったというアメリカの論文もあり、試す価値はあるでしょう。

3. 骨粗しょう症

エストロゲンが低下すると骨密度は減少します。そのため、ホルモン療法を開始すると、エストロゲンが低下するので、骨密度が減少し、骨粗しょう症のリスクが高まります。

一般的な骨粗しょう症の予防をするとともに、年1回骨密度を測定しましょう。もし骨粗しょう症を発症してしまった場合には治療が必要です。

4. 体重増加

ホルモン療法を行うと体重増加もよく起こります。これは残念ながら有効な治療法や対処法は確立されていないので、適切な食事と運動で体重コントロールをしていきましょう。

肥満は乳がんの再発リスクを高めます。再発予防のためにも、体重を増加させないようにしましょう。

5. 不正出血

ホルモン療法の中でもタモキシフェンという薬を使っている場合、「不正出血」の副作用があります。子宮内膜を傷つけるので子宮内膜がんになるリスクが出てきます。しかし頻度は非常に低く、発見されたとしても軽度でありごく初期に発見されることがほとんどです。

ホルモン療法は、5年間の服用で40%以上の乳がん再発を防ぐわけですから、子宮がんになるリスクよりも、再発を防ぐメリットのほうがずっと大きいのです。タモキシフェンを服用されている方で、不規則な性器出血や血液が混ざったおりものなどがある場合には、婦人科を受診して精密検査を受けるようにしてください。


副作用を誰に相談したらいいのか

以上、ホルモン療法の副作用と、その対処法について述べてきました。最後に、つらい副作用が出た時に誰に相談したらいいのかについて、お話します。

まずはしっかり、主治医に相談していただくことが大事です。もし、ホルモン療法のみに治療が切り替わり、乳腺科以外の主治医になった場合でも、まずは今の主治医に相談してください。

そして、それで解決しない場合なら、「前の乳腺科の先生を紹介してください」と言ってください。あなたの主治医は、以前に手術や抗がん剤をした乳腺科の先生に連絡してくれるでしょう。

あるいは、あなたの病院に緩和ケアチームがある場合は、紹介してもらっても良いと思います。緩和ケア医や専門知識を持った看護師が相談に乗ってくれるはずです。もちろん、ご主人やご家族にも率直につらさを打ち明け、理解してもらうことは大事なことです。

長期にわたるホルモン療法はあなたの周りの人たちの理解なしには継続できません。自分で説明するのが難しい場合は、乳腺科の先生から説明してもらいましょう。我慢せず、サポートを受けることが重要なのです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「乳がん患者さんの7割以上が行うホルモン療法はとても有効ですが、副作用に苦しむ人も少なくありません。しかし、この副作用はコントロールできます。副作用をコントロールして、安心して治療を続けましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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