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治療の難しいがんの倦怠感のポイントは「病気の時期」【医】#63

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がんの倦怠感の具体的な治療・ケア~中級編~」です。

動画はこちらになります。

倦怠感は最も多くの患者さんを悩ませているのにも関わらず、医療者はそれを見逃してしまいがちです。前回の記事では、倦怠感をどのようにアセスメントするのか、原因がはっきりわかる二次的倦怠感の治療方法を具体的にお話しました。

今回は、さらに少し踏み込んで、原因がよくわからない一時的倦怠感や、治療の難しい二次的倦怠感に対して、どのように考えて治療を行っていけばいいのかについて詳しくお話します。

この記事は、がん治療医の先生、がん患者さんとよく接する機会のある先生、がんの倦怠感について詳しく知りたい方に観ていただきたい記事です。ぜひ、最後までご覧いただき、実際の臨床に役立てていただければ幸いです。

今日もよろしくお願いします。


倦怠感は病気の時期によって変化する

がんが進行すると、多くのがん患者さんは倦怠感を訴えます。

倦怠感は一次的倦怠感、二次的倦怠感に分類されます。

一次的倦怠感は、がんが進行することで起こりますが、はっきりとした原因がわからないのが現状です。

一方、二次的倦怠感は、はっきりした原因があることが多いです。

したがって、がん患者さんの訴える倦怠感をアセスメントするには、まず原因がはっきりしている二次的倦怠感がないかどうかを調べ、もしあるならその治療から行う必要があります。それでも取れない倦怠感は悪液質による倦怠感、または一時的倦怠感だと考えます。

このことはとても大事なことなので、まずしっかりと押さえてください。

詳しくは以前の記事で説明していますので、参考にしてください。

さて、今日はもう少し踏み込んだ、がんの倦怠感についてお話します。

結論からお話すると、がん患者さんの訴える倦怠感は、積極的抗がん治療を行っている時期、終了の時期、終末期、それぞれの病気の時期で変化します。したがって、その時期によって治療方法も変わってきます。

今回の記事では、積極的抗がん治療を行っている時期、終了の時期、終末期、それぞれの倦怠感について、その特徴とその治療法をそれぞれ説明します。

それぞれの病気の時期によって、倦怠感の対応は全く違ってきますので、その違いをとらえて、適切な治療を行い、患者さんの倦怠感を少しでも軽くしてあげてください。


積極的抗がん治療を行っている時期

まずは、積極的抗がん治療を行っている時期の倦怠感の対応についてお話します。
この時期のがん患者さんのADLはおおむね良好なことが多いです。したがって、倦怠感の訴えも「動くのが億劫になった」「最近疲れやすい」「動くとだるいので、休みがちになる」などの比較的軽い訴えが多いです。

また、この時期の倦怠感は、一次的倦怠感というよりも、原因がはっきりとした二次的倦怠感が多いことも特徴です。しっかりと二次的倦怠感の原因を特定し、治療することが重要です。

特に抗がん剤治療を行っている場合には、抗がん剤が原因で倦怠感になることが多いです。

この場合の倦怠感は抗がん剤直後の数日から1週間程度で回復し、一時的なものなので、特に抗がん剤をやめる必要はなく、倦怠感については経過観察でいいです。

ただ、抗がん剤を繰り返すと蓄積性の倦怠感が起こることもあります。蓄積性の倦怠感とは、抗がん剤の1クールが終わっても倦怠感が回復せず、どんどん倦怠感が悪化する状態のことです。その場合は、抗がん剤を一旦やめることが倦怠感の治療になるので、次の抗がん剤を続けるかどうかを、患者さんと相談して考えなければいけません。

また、積極的抗がん治療を行っている時期には、がんの進行に伴い悪液質も進行することがあります。倦怠感の原因が抗、がん剤なのか悪液質なのか、鑑別することも重要になります。悪液質の診断と治療は少し難しいので、別の記事を作って解説する予定です。

積極的抗がん治療を行っている時期に起こる倦怠感は、抗がん剤の副作用や、それ以外の原因による二次的倦怠感が大半を占めます。倦怠感が続き悪化すると、抗がん治療の継続にも関ってくるので、この時期の倦怠感は、まず二次的倦怠感かどうかをアセスメントし、その原因が治療できるものならば、しっかりと治療することが重要です。

一方、倦怠感が悪液質によるもの、あるいは一時的倦怠感であると考えられるならば、積極的抗がん治療終了の時期にさしかかっているとも考えられます。これらの倦怠感の治療としては、ステロイドやエドルミズ®などによる治療を考える必要があります。

それでも倦怠感が良くならない場合は、現在行っている抗がん剤治療は継続するのか、いったん中止するのかを患者さんと相談してください。


積極的抗がん治療終了の時期の倦怠感

次に積極的抗がん治療終了の時期の倦怠感の対応についてお話します。

積極的抗がん治療を終えた後の患者さんが訴える倦怠感は、早期であれば、治療中の患者さんが訴えるものとそう大差はなく、特に治療の必要のない場合が多いです。

しかし時間が経ち、がんが次第に増殖してくると、多くの患者さんの倦怠感の訴えは強いものになっていきます。

「だるいので、横になっている時間が増えた」「横になってもしんどさは変わらない」「少し動くだけで体中が気怠い」などの訴えに変わっていきます。この時期でも二次的倦怠感によるものも多いので、しっかりとアセスメントする必要があります。

この時期に多い二次的倦怠感の原因としては、高カルシウム血症などの電解質異常、貧血、感染などがあります。

しかし、積極的抗がん治療終了の時期になると、明らかな原因のわからない一時的倦怠感の割合も増えてきます。そういった倦怠感に対しての治療には、私はステロイドをよく用います。

この時期の一時的倦怠感の治療の特効薬と言ってもよいと思います。ステロイドの使い方も悪液質の治療と同様に少し難しいので、別の記事で詳しく説明する予定です。いずれにしても、この時期の一時的倦怠感の治療にはステロイドが効果的であるという事は、覚えておいてください。

ステロイド投与によって倦怠感が改善できれば、ADLを保つことができるので、患者さんは自分のやりたいことをある程度自由にすることが可能になるのです。


終末期の倦怠感

残された余命が1カ月を切る頃になると、患者さんの訴える倦怠感がさらに強くなってきます。「だるくて、一日のほとんど横になっている」「横になっていても身の置き所が無い」といった訴えに変わってきます。

もし今までステロイドを使用していたとしても、ステロイドの効果がないな、と感じるようになるでしょう。

経験的に、ステロイドを使っていても、倦怠感が増していると感じるようになると、私は患者さんの残された時間はだいたい数週間だと思っています。

したがって、終末期にはステロイドを継続するかどうかを考えなければいけません。なぜなら、効果のないステロイドを続けることが、むしろ患者さんの不眠やせん妄の原因になる場合があるからです。

ステロイドの中止は、患者さん・ご家族とよく話し合って、決めてください。そして、終末期になると、倦怠感を取るというよりは、倦怠感とうまく付き合うという事を目標にすることが重要となります。

エネルギー温存療法という言葉があります。エネルギー温存療法は、普段はできるだけ横になった状態で、主として休息を十分に取りながら、患者さんにとって大事な活動をしたいときに動くということです。エネルギー温存療法は休息すること自体が治療だと思ってください。

また、この時期は特にアロマセラピー・マッサージも効果のあるケアです。終末期には、患者さんが気持ちが良いと思えることをすることが、倦怠感を取る最も良いケアです。

また、患者さんの余命が1週間未満となった場合、倦怠感が増し、身の置き所のなさが十分に取れないことがしばしばあります。その時には鎮静も考慮する必要があるかもしれません。鎮静に関しては詳しい記事(医#4,医#5)がありますので、参考にしてください。

倦怠感は患者さんの病気の時期によって特徴やその治療法が変わります。

次回以降はより具体的に、悪液質が原因で起こる倦怠感、そして、一時的倦怠感に対しての薬剤の使い方についてもお話しますので、それもぜひご覧ください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「治療の難しいがんの倦怠感は病気の時期によって変化し、その治療方法も変わってきます。積極的抗がん治療を行っている時期、終了の時期、終末期、それぞれの時期の倦怠感について、特徴とその治療法を理解し、患者さんのつらさを取ってあげてください。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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