私がよく使う精神症状に効く4つの漢方薬(半夏厚朴湯,加味逍遙散,加味帰脾湯,抑肝散)【医】#53
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「精神症状に効く漢方薬」です。
動画はこちらになります。
向精神薬は、依存などの怖いイメージがあるので、飲みたくないという患者さんはとても多いです。そういう場合には、向精神薬を処方しにくい時も多いと思います。みなさんはそんな時はどうされますか?
私は、そのような時は漢方薬を処方することがあります。
今日は、精神症状に効き、向精神薬の代わりになる漢方薬のお話をします。
この記事の中では、具体的な漢方薬の名前を紹介し、向精神薬とどう使い分けるかについてもお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事は、漢方薬について知りたい医療者、向精神薬が嫌だと患者さんに言われ困った経験のある医師、若いドクターや医学生にも見ていただきたい内容です。今日もよろしくお願いします。
精神症状に対する漢方の考え方
先ほど申し上げましたが、漢方薬は精神症状にも効きます。その理由を知るためには、漢方とは何かを知る必要があります。
そもそも漢方は、漢の時代に伝わった東洋医学を「漢方」と名づけたことが由来です。それから日本の気候や風土、日本人の体質に合わせて独自に発展し、日本の伝統医療となりました。
漢方には「気」という概念があります。
「気」は気持ちや気力の“気”に通じており、人の心のバランスをコントロールしている存在とも考えられているのです。また同時に、「気」は臓器の働きや血流、ホルモンバランスなど身体のすべての機能をコントロールしている存在でもあるとも考えられています。
目には見えないけれども、人の心と身体を支えるすべての原動力のようなもの「気」なのです。したがって、心と身体を分けずに診るのが漢方の考え方なのです。
ストレスによって「気」のコンディションが乱れると、精神バランスが崩れるだけでなく、身体の機能も乱れやすくなり、身体自体にも不調が生じやすくなると考えられています。したがって、漢方薬は身体症状だけでなく精神症状にも効くことが特徴だといえます。西洋医学の症状に焦点を当て、その症状を取り除くという考え方とは、根本的に違うということを理解してください。
漢方薬を精神症状に使用する際のメリット・デメリットは何ですか、という質問を良く受けます。一言でいえば、漢方薬のメリットは、眠気が起こらず、依存性もないことです。症状が改善すれば、比較的すぐに減量、中止ができます。
逆にデメリットとして、多くの漢方薬には効果が出るまでに時間がかかり、苦くて量が多いので飲みにくいことです。
一方、向精神薬のメリットは、即効性があり、少量で飲みやすいことです。デメリットは、眠気が起こり、ぼーっとしたりする副作用が多いということです。
また、ベンゾジアゼピン系なら依存性もあります。依存性がない向精神薬でも、急に止めると退薬症状が起きやすく、減量・中止には時間をかけなければいけません。
つまり、漢方薬と向精神薬は、メリットとデメリットが逆なのです。したがって、漢方薬と向精神薬の使い分けがとても大事になります。
不安が強い人、うつや適応障害といった精神疾患にすでになっている人には早く効かせなければいけないので、基本的には向精神薬がファーストチョイスと考えます。
一方、精神疾患にまで悪くなっていない人や、症状が落ち着いてきた人には、漢方薬と向精神薬のメリット・デメリットをきちんと説明して、患者さん本人にどちらが良いかを選んでもらうことが望ましいと考えています。
また、漢方には「証」とよばれる独特の診断方法があります。
例えば、体力や抵抗力が充実している人を「実証」、体力がなく弱々しい感じの人を「虚証」と言います。同じ症状を訴えていても、「証」の違いで使う漢方薬は違ってきます。
その他にも舌診、脈診などの東洋医学独特の診察方法があり、総合的に診断していきます。
とはいっても、なかなかそこまですることは難しいかもしれません。私もまだまだ勉強中です。しかし、漢方薬を処方した結果、効くときはシャープに効く経験もあります。まだ漢方薬を使った経験のない方は、ぜひ選択肢の一つにしてみてください。
もし漢方薬を処方して、効果がないと思ったら、その患者さんには合わない漢方薬だったのかもしれませんので、早めにやめたり、他の漢方薬に変えるようにしてください。
私がよく使う精神症状に効く漢方薬
次に私がよく使う精神症状に効く漢方薬について解説します。
1.半夏厚朴湯
半夏厚朴湯は漢方の精神安定剤とも言われるくらい、不安、イライラ、焦燥感などの精神症状のある患者さんに良く使われる漢方薬です。特に不安感で喉の詰まったような感じ、喉が圧迫されるような感じがある場合に効果があると思います。
上部消化管症状があり、耳鼻咽喉科でも胃内視鏡検査で症状を説明できる器質的疾患がない、いわゆる機能性ディスペプシアの場合も、半夏厚朴湯を処方することがあります。
半夏厚朴湯は処方してから数週間以内に効果が出ることが多く、1カ月以上経っても効果がない場合は、私は処方を中止します。全ての患者さんに効くわけでもないような印象です。
2.加味逍遙散
加味逍遙散は、女性の生理不順や、更年期障害に伴う精神症状に効果のある漢方薬といわれています。ホルモンのバランスを整える効果があるためです。
身体が虚弱で疲れやすく、イライラや不安感を訴える女性によく処方します。肩こり、めまい、不眠などの症状にも効果が期待できます。
血液循環をよくして身体を温める一方、のぼせなど上半身の熱を冷まします。手足は冷えるのに、上半身はかっかするといった「冷えのぼせ」の症状がある人には効果があると思います。
乳がんのホルモン治療の副作用である更年期様症状にも、加味逍遙散は使います。更年期様症状には当帰芍薬散、桂枝茯苓丸も使いますが、当帰芍薬散はさらに虚弱な人に、桂枝茯苓丸は逆に「実証」の患者さんに使うことが多いです。
3.加味帰脾湯
加味帰脾湯は不安感や落ち込みが強く、不眠症状のある人に処方します。男性にも使ってもいいとされていますが、私は女性に使うことが多いです。私は向精神薬を飲みたくない人の不眠に使うことが多いです。
最近、動物実験で加味帰脾湯を投与するとオキシトシンというホルモンが増加したという報告がありました。オキシトシンは幸せホルモンといわれてます。
人はストレスを感じると、交感神経が優位になり不安や脅威を感じるようになります。オキシトシンは、その反応の逆である副交感神経を刺激し、気持を落ち着かせる作用があるのです。
4.抑肝散
抑肝散は、「イライラする」「興奮している」状態を落ち着かせてくれる漢方薬です。このように神経の高ぶりをおさえてくれるだけでなく、筋肉の緊張をゆるめてくれる作用もあります。
イライラして眠れない人に私は良く使います。認知症の人で、興奮や不穏の症状がある時にお勧めできる漢方薬といえます。また、子どものひきつけなどにもよく使われるそうです。
抑肝散は安全性が高く、老人や子どもに使いやすい漢方薬です。しかし、抑肝散には甘草が含まれており、低カリウム血症の副作用には注意してください。
興奮を抑える作用もあるので、せん妄の治療薬としても使われているようですが、私はせん妄の治療薬として抑肝散は積極的には使っていません。なぜなら、抑肝散は即効性に乏しいので、急に発症するせん妄の症状には、すぐに対処できないからです。
以上、私がよく使う精神症状に効く漢方薬について話してまいりました。精神症状に漢方薬を取り入れる際の参考になれば幸いです。
漢方薬と向精神薬との使い分け
最後に漢方薬と向精神薬との使い分けについてお話します。まずは向精神薬を使うときの話をします。私が向精神薬を使う時は、次のような時です。
このように、はっきりと精神疾患と診断できる場合は、向精神薬を処方します。
それでも向精神薬は嫌だという患者さんはもちろんいますが、私は説得して使うようにしています。このように話します。
「あなたはとても気持ちがおつらい状態なので、向精神薬が必要です。漢方薬はゆっくりとしか効果を現わさないので、今のあなたのつらさをすぐには取れません。ぜひこの薬を飲んでみてください。きっと楽になりますよ。症状が治まってきたら、向精神薬をやめて、漢方薬に変更したりもできますから。」と言います。
次に漢方薬を使う時です。
このような時には漢方薬を積極的に使います。
精神疾患で向精神薬を飲まなくてはいけない人でも、症状が落ち着いてくれば、漢方薬に切り替えることができます。そうすれば妊娠も可能ですので、患者さんとよく相談してください。
また、漢方薬の中には胎児に影響がないと確実には言えないものもありますので、妊娠を希望している患者さんに漢方薬を処方する場合には注意が必要です。
精神症状に効果のある漢方薬はまだまだたくさんあると思います。私もこれからも、もっと学んでいきたいと思っています。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
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