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【ガン在宅医療】自宅で幸せな最期を過ごすために守ってほしい3つの約束#180

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん・ご家族の全ての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「自宅で幸せな最期を過ごすために守ってほしい3つの約束」です。

動画はこちらになります

がんになり、治療ができなくなり、どこで最期を迎えたいかを考えた時に、やっぱり最期は住み慣れた家で過ごしたい。そして大切な人に見守られながら旅立ちたい、もしくは旅立たせてあげたい、と考えている人は多いのではないでしょうか。

今日はそんな方に向けた記事、特にがん患者さんをサポートするご家族に向けてお話をします。


多くの人が抱える不安

でもそうは言っても、「実際どんなことをしてあげれば、自宅で幸せな最期を迎えることができるのかわからない」と不安になる方は多いのではないでしょうか。

まだまだ最期を考える状況ではないけど、そのことを考えると何から手をつけていいかわからない、という相談を受けることもよくあります。

私にも高齢の父と母がいます。私の両親は生まれてからずっと同じ地元で過ごしてきて、他の場所に住んだことはありません。

両親はがんではありませんが、もし最期のことを考えると、病気の身では多少住みにくくても、やっぱり最期まで住み慣れた自宅で暮らすことが、両親にとって幸せなことなんじゃないかと常々考えています。

この話は私だけが直面しているわけではなく、多くの方が考えているのではないかと思います。

ではがん患者さんが自宅に帰ろうと決めたときに、具体的に何を準備したら、幸せな最期を迎えることができるのでしょうか。なかなか難しいと思いますよね。

実際に、自宅に帰って幸せな最期を迎えることのできた方はたくさんいます。しかし一方、希望を持って自宅に帰るまではよかったけれど、症状緩和ができずに苦しんで亡くなっていく患者さんを見るしかなかったと、つらい思いを抱えるご家族も少なくありません。

「病院ではなく自宅に帰らせてしまった自分が悪かった」
「なんでこんな選択をしてしまったんだろう」
「私が苦しめてしまった」

患者さんが亡くなった後、こんな後悔を長年抱え続けるご家族もいます。私はそんなご家族を見るたびに本当につらく思っています。そして今、この記事を観てくださっているあなたにはこんなつらい気持ちを抱えてほしくありません。

しかし、今回お話しする3つの約束を知っておき、事前に準備しておくことで、そんな苦しい思いをする方を確実に減らせます。それどころか、幸せな最期を迎えることだって可能になるのです。そういう意味では、まだ先のことだなと思っている方にも今から観ていただきたい大切な内容です。

今回するお話は、私の実体験を基にしているので、あまり他では学べないお話かもしれません。

私は多くの患者さん・ご家族と関わる中で、幸せな最期を迎えたご家族をたくさん見てきました。今日はその方々から私が学んだ共通点のお話でもあります。

私も、自分の両親がこのような状況になった時には、今回お話しする内容を実践しようと考えています。

今回は「自宅で幸せな最期を過ごすために守ってほしい3つの約束」というテーマですが、noteやYouTubeでは、がんのこと、緩和ケアのこと、患者さん・ご家族にとって役に立つ内容を発信していきます。

他では聞けないような内容もお話していきますので、見逃したくない方は、ぜひ今のうちにフォローをしておいてもらえればと思います。


守ってほしい3つの約束

結論から申し上げます。

自宅で幸せな最期を過ごすために守ってほしい3つの約束とは、

1つ目、良い在宅医を見つける。
2つ目、急変時、救急車を呼ばない。
3つ目、ご家族であるあなたにとっての3種類のサポーターを見つける。

この3つです。

この3つを守ることで、あなたの大切な人が自宅で幸せな最期を過ごせる可能性が確実に高くなります。

それでは具体的にお話します。


良い在宅医を見つける

まずあなたにしていただきたい1つ目の約束は、良い在宅医を見つけることです。しかし良い在宅医といっても、あまりにも漠然としていて、どう探せばよいかわかりませんよね。

ここでいう良い在宅医とは、あなたの大切な人が最期まで家で過ごすために、責任をもって最期まで診てくれる医師のことを言います。もっとはっきり言うと、最期の看取りをしてくれる医師のことです。在宅における主治医だと思ってください。

そう考えると、良い在宅医に当たるか当たらないかは、とても大事なことですよね。

例えば、普段からアンテナを張って、フェイスブックなどのSNSなどで、あなたの住む地域の在宅医にどんな人がいるのか注意しておくこともいいかもしれません。

がん患者さんの在宅医療を発信している医師もたまにいます。そんなところではその先生の治療に関する考え方がわかったり、素顔がかいま見れたりします。

口コミも有効です。近くの方で在宅でがん患者さんを看取ったご家族がもしいたら、どんな在宅医に来てもらったのか教えてもらうのもいいでしょう。

広報などを見ていると市民講座などで地域の医療者が講演することもありますので、そういった場所に行ってお話を聞いてみるのもいいかもしれません。

在宅医は治療中の病院のソーシャルワーカーや相談員の人も紹介してくれますので、まずはそういったソーシャルワーカーなどを病院の主治医から紹介してもらってください。がん患者さんの在宅での看取りに評判のいい先生を紹介してもらいましょう。

ここで重要なのは在宅医を本格的に探し始める時期です。結論としては、患者さんがまだ抗がん剤の治療中の段階から、在宅医を探し始めましょう。

がん治療の時期は大きく分けて3つあります。

1つ目の時期はがんが見つかり、手術や抗がん剤治療、放射線治療などで治療が可能な時期です。この時期の治療の目的はがんが完治することです。

  • 2つ目の時期はがんの再発・転移などがみつかり、抗がん剤治療はできる時期です。この時期の治療の目的は、完治を目指すのではなく、抗がん剤治療などでがんを小さくして、できるだけ今までの生活を続けることです。

3つ目の時期はもう抗がん剤治療を続けることの方が生活の質を下げてしまうので、もう抗がん剤治療はやめる方が良い時期です。

在宅医を探し始めるのに最適な時期は、2つ目の時期です。3つ目の時期になって、もう治療がこれ以上できないと言われ、抗がん剤をやめた後、病状が急に悪化することもあります。

病状が悪化してから探し始めると、症状緩和をすぐにしてもらわなければ在宅で過ごすのが難しくなってしまうので、すぐに在宅医を決定しなければなりません。そうなると、病院のソーシャルワーカーなどから紹介された在宅医が、突然家に来るようなことも十分にあり得ます。その際、期待していた医師とは全く違った、ということになってしまうこともあるのです。

そうならないためにも、患者さんがまだ治療中の段階から在宅医を探すことが重要なのです。

具体的には、2つ目の時期に病院のソーシャルワーカーなどから複数の候補を挙げてもらい、その先生方と直接面談してください。できれば、顔を合わせて話せれば一番良いのですが、在宅医の先生方は忙しいことが多いので、たとえ会えなくても直接電話で話しましょう。長い時間話せないこともありますので、質問することをあらかじめ決めておくとよいでしょう。

私は次の4つの質問をすることをお勧めします。

1.最期まで家で看取れるか
2.今後終末期になった時の症状・見通しはどうなのか
3.その時在宅医がしてくれる対応と家族ができる対応法は何なのか
4.急変時にどう対応してくれるか

これらの質問に対して、誠実に答えてくれる在宅医なら、最期まで安心して自宅で過ごせるでしょう。

4つのどの質問も大事ですが、最も重要な質問は一番目の質問です。「最期まで家で看取りたいと家族は思っています。お願いできますか」とはっきりと聞きましょう。

この質問に、即座に「はい、できます」と答えられるかどうかが、希望を叶えてくれる在宅医かどうかの重要なポイントです。

本当は在宅医の探し方については、もっと詳しくお話したいことがあるのですが、長くなってしまいますので、この4つの質問の具体的な解説については、この記事で詳しく説明していますので、参考になさってください。


救急車を呼ばない

次の約束は、急変時に救急車を呼ばない、ということです。

終末期になったがん患者さんは、予期せぬ病状悪化がしばしば起こります。これを急変といったり、オンコロジー・エマージェンシーといったりします。そんな状態になると多くの場合、救命が困難です。

終末期後期のがん患者さんが急変によってなくなるケースは、1割~2割あるということが報告されています。ところがそのことを知らないで、患者さんが急に、心臓が止まっている、呼吸をしていない、意識がないというような状態になると、ご家族は慌ててしまい、救急車を呼んでしまいます。

こう思ってしまうことは仕方がないことかもしれません。しかし、そんな状態で救急車を呼ぶとどうなるでしょうか。

救急車に乗っている救急隊員は、必ず蘇生措置をします。彼らは、救命救急をすることが仕事だからです。

さらにどの病院に運ばれるかも、基本的には指定できません。そしてそうなると、搬送先で挿管、ICU管理になる可能性が高いのです。蘇生措置とは、心臓マッサージ・挿管・電気ショックなどの医療行為を行うということです。

しかし、それが本当に患者さんのためになるのでしょうか。

特に終末期後期のがん患者さんの場合、骨が弱っていることが多く、心臓マッサージをすることで肋骨が折れることがよくあります。挿管は気道に太い管を入れる行為ですので、患者さんにとっては非常に苦しいものです。

さらに、終末期後期の患者さんはこのような蘇生措置をとっても、そのまま亡くなってしまうことが多いのです。蘇生措置を行っても、患者さんが苦しみのまま亡くなってしまう結果にしかならないことがほとんどなのです。

この事実は知っておいて欲しいことです。

では、どうすればよいのでしょうか。

在宅療養中に患者さんが急変したときには、まず先ほどお話した、在宅医の先生に連絡してください。あるいは、担当の訪問看護師さんに連絡してください。そしてその指示に従うことが大事です。

良い在宅医であれば、あなたが言わなくても急変時にどうすればよいのかを言ってくれるとは思いますが、ぜひあなたのほうからも、前もって急変時の対応について相談しておいてください。

また、患者さんが元気なうちに、患者さんともあらかじめ急変時にどうするかを相談しておくことも必要です。患者さん本人の意思が大切だからです。

さらに他のご家族とも話あっておいてください。そうしないと、あなたがいないときに患者さんが急変したら、他のご家族が救急車を呼んでしまう可能性もあるからです。

患者さんが自宅で幸せな最期を過ごすためには、急変しても絶対に救急車を呼んではいけません。

今お話した内容の詳しい解説はこの記事でもお話していますので、参考にしてください。


3種類のサポーターを見つける

あなたの大切な人が自宅で幸せな最期を過ごすために守ってほしい約束の最後の約束は、ご家族のあなたをサポートしてくれる3種類のサポーターを見つけることです。

実は患者さんを在宅で看取るためには、心身共に大変なエネルギーが必要です。1人で介護をして、燃え尽きてしまったご家族を私はたくさん見てきました。ぜひ、あなた1人で抱え込まないで、サポートを受けてください。

それでは、3種類のサポーターについてお話します。

1つ目のサポーターは、あなたのかわりになって患者さんを助けてくれる人です。

この方たちは、患者さんの食事を作ってくれたり、患者さんを病院などに運んでくれたりする人です。家族・友人でできれば良いですが、これは介護保険をうまく活用すると、かなりの部分を補ってくれます。そのためにも退院前に病院の主治医に介護保険の意見書を書いてもらい、介護保険を申請しましょう。

患者さんの食事や患者さんのお部屋の掃除などの家事はヘルパーさんが手伝ってくれますし、介護タクシーが病院の送迎をしてくれます。介護保険が使えれば、ケアマネージャーがつきますので、その方に相談すればよいでしょう。

2つ目のサポーターは、あなたの知らない情報を教えてくれる人です。

あなたの今、知りたい情報は何ですか?

患者さんの病状がこれからどうなっていくかでしょうか。
患者さんが、あとどれくらい生きられるかですか。

在宅ならば、在宅医の先生・訪問看護師さんに来てもらった時、それらのことを尋ねてください。医療者はその時その時の患者さんの病状をあなたに教えてくれます。今の治療、ケアの状態、そしてあなたがなすべきことを教えてくれるでしょう。

また、相続のこと、葬儀のことなども、いずれ知っておかなければいけませんよね。そういったことに相談に乗ってくれるような人を、あらかじめ決めておけばいいですね。

3つ目のサポーターは、あなたの気持ちを癒してくれる人、情緒的な部分のサポーターです。

このサポーターを見つけることはとても大事なことですが、実は知らない人が多いのです。

患者さんが家で頑張っているんだから、自分も頑張ろう、弱音を吐いたらだめ、などと思っていませんか?

大事な人の弱っている姿をみるのは、誰だってつらいものです。気持ちのつらさを口に出すことは、決して悪いことではありません。むしろそのことを、分かってもらえる人に話してつらい気持ちを手放すことで、気持ちが楽になったり、勇気をもらえることがあるんです。

あなたの気持ちを手放してください。

気持ちを手放すことは、女性に比べ男性が苦手な人が多いように思います。家族・友人に言えない方は、専門家にご相談下さい。在宅では、ケアマネージャーや訪問看護師などがこのサポーターになってくれますし、必要であれば、私のような心療内科医や臨床心理士に相談することもよいです。

繰り返しますが、つらい気持ちはあなたの情緒的なサポーターに話して、手放しましょう。

3種類のサポーターをまとめると、

1つ目のサポーターは、あなたのかわりになって患者さんを助けてくれる人
2つ目のサポーターは、あなたの知らない情報を教えてくれる人
3つ目のサポーターは、あなたの気持ちを癒してくれる人

いざというときのためにこの3種類のサポーターを見つけておきましょう。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

『自宅で幸せな最期を過ごすために、ご家族のあなたに守ってほしい3つの約束があります。1つ目は、良い在宅医を見つける。2つ目は、急変時に救急車を呼ばない。3つ目は、3種類のサポーターを見つける。この約束を守って、ご家族で良い時間を作っていきましょう』

今回お話した3つの約束は、事前に準備しておくことで、ご家族のあなたが安心して患者さんと最期の時間を過ごせるようになります。それに加え、幸せな最期を迎えることだって可能になるのです。

この約束はそのための最低限のルールだと思って、頑張ってみてください。

そうは言っても、サポートするご家族だってつらい時はあります。そんな時は無理せず、休息も必要です。つかれた時は頑張っている自分を褒めてあげてくださいね。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。この記事があなたのお役に立ったと思っていただけたら、コメント欄に感想や意見、記事にいいねをしてくだされば嬉しいです。

また次回お会いしましょう。お大事に。

ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。