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【家】在宅療養中に救急車を呼ぶか、呼ばないかについてのポイント#126

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「在宅療養中に救急車を呼ぶか、呼ばないか」です。

動画はこちらになります。

今日は、在宅療養をしているがん患者さんのご家族にお話します。

あなたの大切な人の容態が急に変わりました。そんな時にあなたはどうしますか?
救急車を呼びますか。あるいは呼びませんか。

実は、在宅療養中に救急車を呼ぶかどうかにはポイントがあるのです。

この記事を見ることで、在宅療養をしているがん患者さんのご家族が、緊急時に救急車を呼ぶかどうかの判断ができ、冷静に対応できる人たちが増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


救急車の悲劇

始めに、私がホスピスで働いていた時の苦い体験についてお話します。10年以上前のことです。在宅医の先生から紹介された、70代の肺がんの男性でした。

その患者さんは奥さんと一緒に診察に来られました。今は元気なので家で過ごしたい、いずれ家でしんどくなったらホスピスに入院したい、最期はホスピスで安らかに終えたい、と患者さんは言いました。

「それでは、その時のために、まずは入院登録をしておきましょう、入院希望の時はこちらに連絡してください。今は在宅の先生に診てもらいましょうね。」とお伝えしました。

それから数日後の朝、隣の県の病院から電話があったのです。

「夕べ入院した患者さんがICUにいる、良くなったらそちらで引き取ってほしい、」と担当医からの電話でした。

そうか、救急車で搬送されたんだな、と思いました。私はベッドを用意して待っていましたが、結局数日後、入院先のICUで亡くなりました。私は、とても反省しました。

在宅医の先生が、急変時に行く病院を指定しているだろう、と勝手に思っていて、私は急変時にどうするべきかを、患者さんとご家族には言っていなかったのです。
さらに、在宅医の先生もその時の指示をしていなかったのです。おそらく、ホスピスに紹介したので、こちらでやってくれるだろうと思っていたのでしょう。急変時には、こちらにちゃんと連絡するように言っておけば良かった、と思いました。

その結果、急変時、ご家族がどこに連絡をしたらいいかがわからなかったので、救急車を呼んでしまったのでした。最期はホスピスで安らかに終えたいと言っていたのに、本人が思ってもみなかったICUで、しかも挿管の処置をされた状態が、患者さんの最期でした。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。


救急車を呼ぶ意味

皆さんに知って欲しい事実があります。

それは、もしご家族が在宅で急変して、心臓が止まっている、呼吸をしていない、意識がない、といった状態で救急車を呼べば、救急隊員は必ず蘇生措置をするということです。彼らは、患者さんの命を助けることが使命だからです。少なくとも、私の住んでいる奈良県はそうです。

さらに、どの病院に運ばれるかも、基本的に指定できません。もしそうなると、この例のように、搬送先で挿管、ICU管理になる可能性が高いのです。

先ほど、救急車を呼ぶと必ず蘇生措置をされると言いました。蘇生措置とは、心臓マッサージ、挿管、電気ショックなどの医療行為を行うということです。

しかし、それが本当に患者さんのためになるのかどうかを考える必要があります。特に終末期のがん患者さんの場合、骨が弱っていることが多く、心臓マッサージをすることで肋骨が折れることがよくあります。挿管は気道に太い管を入れる行為ですので、患者さんにとっては非常に苦しいものです。

終末期の患者さんはこのような蘇生措置をとっても、そのまま亡くなってしまうことが多く、その場合、単に苦しみのみを、最期に与えてしまう結果になってしまいます。

したがって、終末期の患者さんが在宅療養をしている場合、救急車を呼ぶか、呼ばないかについての判断が必要になってきます。患者さんを苦しめる延命処置をしたくないと思っているのなら、患者さん本人と、患者さんが元気な時に、あらかじめ急変時にどうするかを相談して決めておく必要があります。

もし在宅医の先生、訪問看護師がいるのであれば、どのような時に救急車を呼ぶのか、呼ばないのかを相談しておかなければなりません。そして、急変時に救急車を呼ばない時は、最初に在宅医に電話するのか、訪問看護師に電話するのかなど、具体的に約束をしておくことが大事です。病状が悪化したときに行く病院を在宅医に決めておいてもらうことも必要です。

また、病院で患者さんが外来で治療中の場合は、急変時の対応については主治医の先生に確認しておきましょう。夜間、休日でも、治療中の病院に連絡していいのか、そうでないならどこに連絡すればよいのか、主治医の先生を呼べばよいのか、主治医がいない時は誰に連絡したらよいのか、細かく聞いておくことが大事です。
そして、確認、確約を取っておいてください。

医療者が当然考えてくれているだろうと思わずに、救急車を呼ぶ意味を知り、必ず患者さん・ご家族が確認することを強くお勧めします。


救急車を呼ぶ時、呼ばない時

それでは、どんな時に、救急車を呼ぶべきか、あるいは呼ばないのかについて基本的な考え方をお話します。

1. 救急車を呼ぶべき時

①抗がん治療中の場合
在宅で、患者さんの状態が急に悪くなった時、救急車を呼ぶべき時は、まず患者さんが抗がん治療中の場合です。多くの場合、患者さんは元気であり、病状の悪化が原因というよりは、抗がん剤などの治療による副作用の場合が多いからです。これに関しても、主治医の先生とよく相談しておくことが大事です。

②オンコロジーエマージェンシーの場合
次に、オンコロジーエマージェンシーの場合です。オンコロジーエマージェンシーについては以前の記事で詳しく説明しています。それぞれリンクを張っておきますので、参照してください。

オンコロジーエマージェンシーの場合は、治療することで回復できることが多いです。このことも主治医の先生、在宅医の先生と相談しておいてください。

③患者さんの希望
3番目には、患者さんが救急車は呼んでほしいと希望している時です。患者さんの気持ちはその都度、その都度変わる可能性があるので、話し合いは何度もしておきましょう。


2. 救急車を呼んではいけない時
それでは、救急車を呼んではいけない時についてお話します。

①終末期後期の急変時
がん患者さんが終末期後期を迎えた時に急に悪くなった時は、まず救急車は呼ばない方が良いと思います。この場合の終末期後期とは、患者さんの元気さや活動性が急になくなった頃を指します。

がんの場合、おそらく1週間ごとに状態が変化してきます。そのような時は、おそらく患者さんに残された時間は数週間~1ヶ月くらいだと思われます。ご家族でわからない方は在宅の医療者に聞いてみてください。この時期の救命措置や延命措置は、患者さんを苦しめるだけの結果に終わることが経験上多いのです。

②本人が望んでいない時
次に、本人が望んでいない時です。ただ、救急車を呼ばない場合でも、在宅医か訪問看護師に連絡はしておきましょう。

以上、救急車を呼ぶべき時、呼ばない方が良い時についてお話してきました。ただし、ご家族だけの判断では決めない方が良いと思います。在宅医の先生、訪問看護師がついているときは必ず連絡しましょう。在宅医、訪問看護師にお願いしていない時は、主治医か治療病院に連絡しましょう。


判断するための準備

最後に、在宅で急変時に救急車を呼ぶかどうかの判断をするためのご家族の準備についてお話します。これはぜひ、退院前にしておいてください。

まず、退院時カンファレンスまでに在宅医、訪問看護師を決めることです。退院時カンファレンスはできるだけした方がいいのですが、もし、事情があり退院時カンファレンスできなくても在宅医、訪問看護師は決めておいてください。病院のソーシャルワーカーが相談に乗ってくれます。

本人の意向をしっかりと聞いておいてください。これはACPでもあります。ACPについては以前の動画で詳しく説明しています。リンクを張っておきます。


そして、医療者には遠慮せず、希望をしっかり伝えることが大事です。

また、オンコロジーエマージェンシーの危険性があるかを、外来の主治医に聞いておきましょう。具体的な症状や、どんな時に連絡したらよいかについて相談しておいてください。

終末期のオンコロジーエマージェンシーの場合についても、どうするかをあらかじめ相談し、決めておくことが大事です。なぜなら、終末期のオンコロジーエマージェンシーは、救命できないことも多いからです。電話、緊急時の連絡先は忘れずに、見えるところに貼っておきましょう。

以上、救急車を呼ぶか、呼ばないかの判断について話してまいりました。皆さんのお役に立てば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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