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医師に聞いて欲しかった4つのこと(終末期,在宅医)【家】#176

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「終末期・在宅医の探し方」です。

動画はこちらになります。

現在の日本で、がんになる人は2人に1人、また、がんで亡くなる人は3人に1人と言われるほど、がんは私たちにとって身近な病気になっています。それほど、がんになる人が多くなっている中で、最期は住み慣れた自宅が良いと思われている患者さんは多くいます。

また、このご時世でもあるので、病院や施設ではご家族と面会が充分にできず、最期の看取りができなかったと言われるご家族も多いのが現状です。それゆえ、最期は自宅で家族に囲まれて亡くなりたいと思われる方も増えてきています。もちろん、患者さんだけではなく、ご家族もその願いをかなえてあげたいと思うのは当然でしょう。

では、その願いの通り、最期に在宅で穏やかに看取るためには何が必要なのでしょうか。最も重要なことは、良い在宅医の存在なのです。

今日は、患者さんの希望を叶えるための良い在宅医を探すための、重要なポイントについてお話します。この記事の中では、いつから、どのようにそんな良い在宅医を探せばいいのかの具体的なお話もしますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


4つの質問で良い在宅医を選ぶ

最期まで家で過ごしたいと思っている患者さん・ご家族が良い在宅医を選ぶ際の、重要なポイントについてお話します。

まず大事なことは、患者さんがまだ治療中の段階から在宅医を探すということです。患者さんの病状が進行し、状態が悪化し始めてからでは、探す余裕もないからです。

病状が悪化してから探し始めると、すぐに在宅医を決定しなければなりません。そうなると、病院の相談員やケアマネージャーから紹介された在宅医が、突然家に来るようなことも十分にあり得ます。

その際、期待していた医師とは全く違った、と思う患者さん・ご家族も多いです。そのようなことにならないためにも、患者さんがまだ治療中の段階から在宅医を探すことが重要なのです。

次に、良い在宅医を探すために、後でも説明しますが、病院のMSWから複数の候補を上げてもらい、その先生方と直接面談しましょう。たとえ会えなくても、直接電話で話すことが大事です。しかし、在宅医の先生方は忙しいことが多いので、時間は限られることもあります。

まず、ご家族が医師に一番初めに伝えることは、「最期まで家で看取る決意」です。そして、その次に、次の4つの質問をしてください。

1.最期まで家で看取れるか
2.今後終末期になった時の症状・見通しはどうなのか
3.その時在宅医がする対応と家族ができる対応法は何なのか
4.急変時にどう対応するか

これらの質問に対して、誠実に答えてくれる在宅医なら、最期まで安心して自宅で過ごせるでしょう。

どの質問も大事ですが、最も重要な質問は一番目の質問です。「最期まで家で看取りたいと家族は思っています。お願いできますか。」とまずはっきりと聞きましょう。

この質問に、即座に「はい、できます」と答えられる在宅医なのかどうかが、希望を叶えてくれる在宅医かどうかの、まず最初の見極めポイントです。

終末期に在宅で過ごし始める時、ほとんどの患者さん・ご家族は大きな不安を抱えた状態にあります。その時に最期まで診ますと言える医師は、頼りがいがある医師と言えるでしょう。

患者さん・ご家族の決意を聞いて、はっきりした返事をしない、曖昧な態度を取る医師では、最期まで自宅で安心して過ごせるかどうかはわかりません。「家で看取れますか」という質問に対して、自信をもってはっきりと答えることのできる医師は、終末期を迎えるがん患者さんにとって、良い在宅医の第一条件です。

したがって、良い在宅医かどうか判断するために「最期まで家で看取りたいと家族は思っています。お願いできますか。」とはっきりと質問しましょう。

それでは残りの3つの質問について詳しく解説したいと思います。


今後終末期になった時の症状・見通しを聞く

「今後終末期になった時の症状・見通しはどうなのか」という質問に、良い在宅医ならしっかりと答えられます。なぜなら、在宅看取りができる医師ならば、終末期の患者さんが今後辿る経過はおおよそ予測できるからです。

それがわからなければ、良い症状緩和はできません。したがって、ご家族は終末期になった時に起こる症状・見通しを聞き、それにしっかり答えてもらうことが大事です。

それらのことを前もって知っておけば、病状が進行し、様々な症状が出現した時にも、慌てずに冷静な対応ができるからです。したがって、良い在宅医かどうか判断するために「今後終末期になった時に起きる症状と見通しを教えてください」とはっきりと質問しましょう。


主治医がする対応と家族ができる対応法を聞く

次にそうした症状が起った場合、在宅医はどのような対応ができるのか、つまりどのような症状緩和の手段ができるのかを聞いてください。

例えば、呼吸困難の症状が悪化し、内服ができなくなった時、モルヒネの持続皮下注をします。イレウス、つまり腸閉塞になった時には、口から胃管を挿入したり、腸液の分泌を抑える薬を皮下注します。また、最期に苦しみが取れなくなったら鎮静という手段があります。このようなことを、良い在宅医なら答えてくれるでしょう。

さらに、ご家族ができる、あるいはしなければいけない対応法も聞いておきましょう。

例えば、患者さんの呼吸困難が出てきたら、頭を少し上げて風を入れること。痛みが出た時は、レスキュー薬の投与やPCAポンプを押す、といったことです。それらのことがあらかじめわかっておくと、患者さんの症状が出た時に慌てずに対応できます。

次に見通しへの対応に関しては、在宅医が終末期の余命がわかるのかを聞きましょう。その理由は、患者さんにとっては、大切な最期の時間を有意義に過ごすためですし、ご家族にとっては、先々の準備をしっかりするために必要だからです。

したがって、良い在宅医かどうか判断するためには、「今後起きる症状は何ですか。その時に先生はどう対応してくれますか。また、家族にできることはなんですか。」これに加え、「終末期になったら余命は分かるのでしょうか。」とはっきりと質問しましょう。


急変時にどう対応するか

看取りができる在宅医は「急変時は救急車を呼んで、病院に行ってください」とは言いません。もしこのようなことを言う在宅医ならやめておいた方が良いと思います。

住み慣れた家で最期を迎えたいと患者さんが願っているのに、急変時にもし救急車で運ばれてしまったら、家に戻れないどころか、してほしくない蘇生行為をされたり、ICUで最期を迎えることになる可能性が高いのです。

しかも、今のご時世では面会もできず、家族にも会えないで一人で病院で最期を迎える可能性が高くなってしまいます。

詳しくは別の記事で解説しています。

そして、そのようなことを言う在宅医なら、患者さんに何かあった時にすぐに駆けつけてくれないかもしれません。このことに注意してください。

良い在宅医は、急変とは何かを明確に伝えられ、その際の対応について詳しく説明してくれます。そして、「救急車を呼ぼうと思ったら、まずは連絡してください」と言うはずです。「急変時には医師か看護師に連絡してください」とも言うでしょう。

したがって、良い在宅医かどうか判断するために「急変が起こった時にはどうすればいいですか」とはっきりと質問しましょう。


在宅医の具体的な探し方

今までの話を聞いて、「じゃあどうやってそんな在宅医を探せばいいの?」と思われる方もいると思いますので、最後に具体的な在宅医の探し方をお話します。

1.いつ頃在宅医を探し始めるか

良い在宅医を探したいのなら、探し始めるのは早ければ早いほど良いですが、遅くとも抗がん剤の効果が乏しくなり、病状が進行し始めた頃には考えてください。

この頃には、ADLが低下し、痩せたり、食欲低下といった症状が出現します。そして、どんなに遅くても「抗がん剤を止めましょう」と主治医が言ったときには必ず探しはじめてください。

その前にご家族は、患者さんと「もし病気が悪くなった時、最期をどこで過ごしたいか」といった話し合いをしてください。このような話し合いは、医療者にも援助をもらうことも可能です。

その際は医療者に「ACPをしたいので、援助してください」と頼んでみてください。このような話し合いの中で、「できるだけ最期まで家で過ごしたい」という思いが、患者さん・ご家族にあるなら、在宅医を探す準備を始めてください。

2.誰に聞くか

それでは、誰に在宅医のことを聞けば良いのでしょうか。まず主治医に「今後在宅で過ごしたいと思っていますので、在宅医を紹介してくれるところを教えてください。」と聞きましょう。

そうすれば、病院のMSWを紹介してくれるので、彼らに相談してください。MSWとは、病院にいるソーシャルワーカーで、相談員という言い方をする病院もあります。

MSWには、緩和ケアのできる在宅医を3人以上は紹介してもらってください。その時、「がんの患者さんの看取りに慣れていて、評判のいい在宅医を紹介してください」と言いましょう。

また、訪問看護師も必要ですので、MSWに良い訪問看護ステーションを紹介してもらうか、在宅医が決まればそこから紹介してもらうようにしてください。良い訪問看護ステーションについては別の動画でお話する予定です。

緩和ケアのできる在宅医を紹介してもらった後は、実際にその在宅医に会いに行きます。もし会えなくても、直接電話をして話をしましょう。

3.在宅医と話す時に確認すること

在宅医と話す時のポイントは、まず家族の決意を話し、最期まで家で過ごせるかどうかを確認することです。次に先ほどの4つの質問をして、誠実に答えてくれるかどうかです。直接話して、気が合いそうかどうかという点も考慮に入れて判断してください。

さらに聞いておくべき点としては

24時間対応可能か
看取り件数はどれくらいか
皮下注をしたことがあるか
皮下注をしたことがなくても取り入れてくれるか

などは聞いてください。

終末期に在宅で良い最期にしたいと思っているなら、良い在宅医の存在は欠かせません。そして、そんな良い在宅医を、患者さんが終末期になる前から見つけなくてはなりません。

そのためには、先ほど説明した4つの質問を在宅医にしてください。その4つの質問に明確、かつ即座に答えられる在宅医が、最期まで責任をもって在宅で診てくれる在宅医でしょう。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「最期まで自宅で過ごさせてあげたいと思っているなら、4つの質問をしましょう。これらの質問に誠実に答えてくれる在宅医なら、最期まで安心して自宅で過ごせるでしょう。そのような在宅医を治療中から探しましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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