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【新常識】「肥満になるほど乳がんになりにくい」という研究結果が出ました(医師解説)#178

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「新事実⁈ 肥満は乳がんになりにくい?」です。

動画はこちらになります。

先日、「太れば太るほど乳がんになりにくいって本当ですか?ニュースで見たんですけど、これなら予防のためにダイエットしなくていいですね!」と私の患者さんから聞きました。

「えっ!肥満ってがんのリスクになるはずなんだけど、本当なのかな?」と思って調べてみると、なんと2022年6月7日に、しかも東京大学から「45歳未満の女性の肥満は乳がんの低リスク」というプレスリリースが発表されていました。

この論文を詳しく読んでみると、確かにこれは本当のようでした。

このニュースを見た時に、先ほどの患者さんのように、痩せなくていいんだとか、太っててもいいんだ、とほっとする方もいるかもしれません。私が患者さんの立場ならおそらくそう思うでしょう。しかし、この考え方には大きな落とし穴があるのです。

今日は、先ほどのニュースを医師の立場から解説したいと思います。また、乳がんにならないために、本当に太っている方がいいのかという質問に対する、私なりの考えもお話します。

この記事は、乳がんになるのが怖い人、先ほどのニュースを深く考えたい方、乳がんについて詳しく知りたい人に、観ていただきたい記事です。ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。


乳がん予防で太らない方がいい4つの理由

それでは、先ほどのニュースを深く見ていきましょう。

東京大学の研究グループが、BMIと乳がん発生との関連を調査しました。45歳未満の女性約80万人のデータを解析した結果、BMIが22以上であると、乳がんにかかるリスクが低くなるという事実を初めて示しました。

皆さんBMIをご存じでしょうか。

BMIとは体重÷身長÷身長(kg/m2)で計算される体格の指標です。

日本では BMI が 22で標準、18.5未満でやせ、25 以上で肥満とされています。
グラフを見てください。

スクリーンショット 2022-07-19 20.27.06

BMIが22から低い部分はほぼ直線になっています。これは、BMI が22より低い人たち、つまり痩せている人たちは、乳がんリスクが変わらないということを示しています。

一方、BMIが22より大きい部分は、線が右斜めに下がってています。つまり、BMIが22以上の人たちは、肥満になればなるほど、乳がんリスクが下がる傾向になっているということです。

このグラフからわかることは、標準体重よりも痩せることは、乳がんになるリスクはさほど変わりませんが、標準体重よりも肥満になればなるほど、乳がんになるリスクが減るということです。これには私も驚きました。

ところがここで気を付けてほしいポイントは、この研究は45歳未満、つまり閉経前の方が対象の研究だということです。

このグラフからわかる事実は、閉経前の女性は肥満な人ほど乳がんにかかりにくいということです。

では、逆に閉経後の女性はどうなるのか、と思う方もいると思います。実は先ほどとは逆に、閉経後は肥満が乳がんのリスクファクターになるのです。これは、乳がん学会のガイドラインにも明確に示されています。しかも一度乳がんになった人は、肥満が再発のリスクにもなります。

つまり、閉経前の方は肥満になればなるほど乳がんになりにくいのですが、逆に閉経後では、肥満は乳がんのリスクになってしまうのです。不思議ですよね。

では「乳がんを予防するために、閉経前なら太っていた方がいいの?」と思う方もいると思います。でも、ちょっと待ってください。

実はこれからお話する理由によって、そう考えることはお勧めできないのです。

その理由はこの4つです。

1.閉経後は肥満の方が乳がんリスクは高くなる
2.肥満は他のがんのリスクになる
3.肥満はがん以外の病気のリスクになる
4.肥満により生活の質が下がる

BMIが18.5以上25.0未満を普通体重と言います。

私のお勧めは、どんな年齢であったとしても、普通体重を維持したほうがいいということです。 

それでは、これら4つの理由を詳しく解説していきます。


閉経後は肥満の方が乳がんリスクは高くなる

まず、乳がん学会のガイドラインにも明確に示されている、閉経後は逆に肥満の方が乳がんリスクは高くなる理由についてお話します。

乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンが大きく関係しています。閉経前の女性は、卵巣からエストロゲンを分泌するのに対し、閉経後の女性は、卵巣ではなく脂肪細胞から分泌するようになります。

つまり、肥満になると、脂肪細胞が増えるので、肥満の女性はエストロゲン分泌が多くなります。したがって、閉経後の女性は、肥満になると乳がんになりやすくなるということなのです。

逆に痩せて脂肪細胞が減ると、エストロゲン分泌も減少しますので、閉経後の女性は、肥満ではない人の方が乳がんになりにくいのです。

つまり、閉経前には太っている方が乳がんになりにくい。閉経後は太っている方が乳がんになりやすい。不思議ですが、肥満と乳がんは、このように矛盾した関係があるのです。


肥満は他のがんのリスクになる

次に重要なことは、肥満は他のがんのリスクになる、ということです。

がんになる原因としては様々あります。例えば、遺伝・喫煙・飲酒・ピロリ菌などです。もちろん肥満もがんになる原因です。

しかも肥満は、がんになる原因の35%程で、最も多いリスク要因です。喫煙はがんになる原因の30%といわれているので、実は肥満はタバコよりも高いリスク要因なのです。

また、がんは22種類あると言われていますが、その内の17種類が、肥満になるほどなりやすいのです。特に、大腸がん・肝臓がん・すい臓がん・子宮がん・これらに加え、先ほどお話した閉経後の乳がんがその代表です。

逆に言うと、今の所、太っている方がかかりにくいとわかっているのは、閉経前の乳がんのみです。肥満でいることは、がんになりやすいという事実を知ってください。


肥満はがん以外の病気のリスクになる

さらに肥満は、高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病になりやすいことがわかっています。その結果、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な病気になりやすくなります。

例えば、脳梗塞になると3分の1は亡くなり、3分の1は麻痺などの重篤な後遺症が残り、残り3分の1は良くなりますが、それでも何らかの後遺症は免れません。

また、糖尿病になり悪化すると、失明したり、指を切断しなければいけなくなったり、透析をしなければいけなくなることもあります。

透析をするようになると、週に何度か病院に行き、4~5時間ほどかけて血液のろ過をしなければいけません。

このように、肥満はがん以外の重篤な病気を引き起こす恐れがあるのです。


肥満により生活の質が下がる

肥満になると生活の質も下がってしまいます。

例えば、太っていると筋肉や骨格に負担をかけるようになります。その結果、膝などが悪くなりがちです。特に高齢になると、いつも膝の痛みに悩まされることになります。

さらに膝が悪くなると、入院・手術が必要になります。もし2週間入院した場合、筋肉が落ちるので、元の生活にすぐには戻れません。そのため、リハビリをしなければいけません。

しかし、このリハビリは高齢者にはとても大変です。さらにこれに加え、医療費も多くかかってしまいます。

このように肥満は、がんや脳梗塞などの大きな病気にかからなくても、肥満でない人よりも、生活の質が落ちるようになってしまうのです。

確かに、閉経前の女性は、肥満の人の方が乳がんになりにくいということは事実かもしれません。しかし肥満でいることは、先ほど説明したように、圧倒的に悪いことの方が多いのです。したがって、総合的に健康を考えると、普通体重をキープすることが大切なのです。

ただそうは言っても、なかなかダイエットを続けることは難しいと思う方は多いのではないでしょうか。実は私もその一人です。

普通体重よりもオーバーしており、家族から「痩せた方がいいよ」と言われても、なかなか実行できない私です。私もこの記事を機に、今の現実をしっかり見ることから始めようと思っています。

ぜひ私と一緒に、普通体重を目指し、維持することを目標にしてみませんか。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「45歳未満の女性は、肥満になればなるほど乳がんになりにくいという、驚くべき事実が発表されました。しかし、だからと言って太っていいと早合点しないでください。肥満は様々な病気のリスクファクターです。普通体重を目指し、それを維持できるようにしましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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