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僕はその朝、何度も「うりゃあーーー!」と叫び、絶望を乗り越えました!

この記事の続きです。


僕は、8月に予約した、椎間板ヘルニア手術専門の病院には、行かなかったのです。
その年の春に、別の病院で手術を受けました。


◆尿意

朝、目覚めたのに起き上がることができませんでした。
起き上がるための初動で、腰に激痛が走るのです。

そのうち痛みは軽くなるだろうと、そこまで深刻に考えてはいませんでした。直面している問題はお漏らしの危機でしたし。
尿意で目覚めたので、いち早くトイレに行きたいのです。

5分経過すると尿意がヤバくなりました。
でも、立ち上がるどころか座る姿勢にさえなれません。

「38歳、男盛り、オシッコを漏らすワケにはいかない」

誰もいない一人暮らしのマンションで、己を鼓舞しました。
36歳のお漏らしは笑い話にして昇華させましたが、38歳でまた漏らしたなら、話し手も聞き手も、苦笑い100%です。

寝室からリビングを通って廊下に出て、そしてトイレまで。
立ち上がることができたなら、後は壁を伝い歩きすればいい。

しかし立てない。

漏れるまで、待ったなしの感覚があります。
ほふく前進しました。これしか方法がないのです。
それも、腰に「ズキンッ!」と痛みが走るたびに止まります。

そ~っと、そ~っと進むしかありません。
イメージが大切です。
カタツムリになり切ります。僕は、カタツムリです。


◆ドアノブ

トイレまでは全て、吊り下げ式の引き戸でした。
つまり、ドアの下で開けることができたのです。
問題は、トイレのドアです。

ドアノブに手が届きません。

ここまで来たのに、結局は漏らすのか。お漏らし記録更新か?

「あきらめてたまるか!」
「うりゃあっーーーーー!」

激痛を覚悟で、手を伸ばしドアノブを下げました。

バタン!
「ウグググ……」

激痛です。

便器を見て、絶望にめまいを感じました。

「こんな高い位置に、どうやって尻を乗せろと言うのだ…」

もらしてもイイのではないか。
いや、せっかくココまで来たじゃないか。
こんなんじゃ、会社に遅刻するな。電話しないと。
まずい、漏れそうだ。

「うりゃあっーーーーー!」
「ウグググ……」

「うりゃあっーーーーー!」
「ウグググ……」

「うりゃあっーーーーー!」
「ウグググ……」

激痛を覚悟して動き、何度目かのトライで便座に座りました。

僕は、漏らしませんでした。

腰の痛みは、目覚めた時がMAXの100だとすると、95くらいに、わずかに楽になっていました。

この調子なら、やがて楽になるハズだ。
そう思いました。


◆遅刻報告

便座に座ったまま、会社に電話しようと思ったのですが、携帯電話がありません。
携帯電話は、きっと寝室です。

「また、あんな遠くまで戻るのか?」

戻るしかありません。


来たときと同じような苦労をして、寝室に戻りました。
リビング横の和室で、ベッドではなく布団で寝ていました。

枕の近くに携帯電話がありました。
会社に電話して、遅刻を告げました。


30分、横になっていましたが、痛みが変わりません。
少しでも動くと激痛が走るのです。

その30分で考え、出した結論は、

「119番通報しよう」

です。


◆119番通報

住所、名前を伝え、事情も伝えました。
「命の危険はないので、サイレンは鳴らさないでほしい」という注文も、言うだけ言ってみました。

「ふっ、我ながら冷静じゃないか」

ほどなくして、インターホンが鳴りました。

「あっ! モニター画面っ!」
「メッチャ、位置、高い…」
「急がないと、イタズラ電話と思われて帰られてしまう…」

焦りました。
「何が冷静だ。頭、回ってないじゃないか」

何度目かのインターホンに、やっと応じることができました。

「14階の○○号室です」
「激痛で速くは動けないので、玄関を開けに行くまで時間がかかります」
「でも、必ず開けに行きますから、遅くても帰らないでください」

今度こそ冷静でした。

玄関は、トイレの先にあります。
ほふく前進するには長距離です。

「あっ!」

絵が浮かびました。
玄関の映像です。

最後はドアノブという【高さの壁】があります。


長くなったので、その3に続きます。







おしまい


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1318話です


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