お父ちゃんの夢を見て、神様への文句を思い出してしまった
お父ちゃんの夢を見ていた。
朝、目覚める直前の夢だった。
お父ちゃんが夢に出たものだから、お父ちゃんのことを色々と思い出した。
お父ちゃんのお兄さん(本家の伯父さん)は、高倉健さんにソックリだった。お父ちゃんも、やや、高倉健さんに似ていてハンサムだった。
残念なことに、僕は、お母ちゃんに似ている。
僕が将来、天国へ行ったなら、ひと言くらいならば神様に文句を言っても許される気がする。
文句を言った僕の頭を、天国のお母ちゃんが「バシッ」と強めに叩くだろうけど。
🍀🦖🍀🦖🍀
お父ちゃんは、物欲も少なく、見栄を張ることもなかった。
他人と比べるという思考が欠如していた。見たり聞いたりした記憶が一切ない。
若くして達観していた、そんな気がする。
お金よりも自由を愛していた。
そして、より自由になるために、より多くのお金を得ようとは、決して考えない人だった。
「多く得なくても、極力、使わなければ良いのだ」
そう考えて生きていた。
お父ちゃんの遊び場は自然。
だから、お金は、そこまで掛からない。
チョットは掛かるが、食費が浮くので、タダに近くなる。
魚釣り(磯釣り)、山菜採り、キノコ採り、家庭菜園。それらがお父ちゃんの趣味だった。
お父ちゃんの心の中で、仕事に近い趣味だったのか、それとも遊びに近い趣味だったのか、果たしてどっちだったのかは分からない。
ある日、僕と弟は、畑仕事を手伝っていた。
僕は小学3年生で、弟は1年生。
お父ちゃんは、トマトを1つもぎ取った。ズボンの腿のあたりでシャシャッと拭いてトマトにかぶりついた。
「じゅるる」と、トマトのゼリー状の部分をこぼさないように、上手にすすって食べた。
「美味い! おまえたちも食ってみろ」と、お父ちゃんは言った。
僕は、トマトは嫌いだった。残しはしないが、いつも我慢して食べていた。
「トマトは、美味しくない」と僕は言う。
「わっはっはー! いつも、不味いトマトを食ってんだなぁ~。
まあ、いいから、もぎたてを食ってみろ。うんめぇ~ぞ~」
確かに、お父ちゃんのトマトの食べっぷりは美味しそうだった。
僕は、赤くなったトマトをもいだ。ズボンの腿のあたりでシュシュッと拭いて、かぶりついた。
「ムシャ、じゅるる」と、ひと口、一気に食べた。
弟と顔を見合わせた。
「うんめ~え!」
声が出ていた。弟も目を丸く見開いた。
トマトの概念が変わった。甘く、みずみずしく、本当に驚いたのだ。
🍀🦖🍀🦖🍀
僕は、お父ちゃんのせいで、小学4年生にして、足が速くなることをあきらめた。
お父ちゃんが、海に連れってくれた。
やはり弟と一緒だった。
お父ちゃんが、「二人で競争してみろ」と、駆けっこを提案した。
僕は、クラス1の鈍足だった。
お父ちゃんが、砂浜にスタートラインを引いた。
そして離れて行く。
たぶん、30メートルか40メートルか、そのくらい離れた。
そこがゴールだと分かる。
2回、走らされた。
お父ちゃんは、「見てろよ」と言った。
走って見せるから良~く見ておけ、という意味だ。
お父ちゃんは、30~40メートル離れたスタートラインに着いて、
「見てろよ~!」と叫んだ。
お父ちゃんは走った。
お父ちゃんが走るのを、初めて見た。
正面から見た。
内股だった。
女の子走りだ。
腕も、やや横振りだ。
ヒザが、内へ内へと入る。
このお父ちゃんのランニングフォームを見て、
(僕の足が遅いのは、遺伝だったんだ…)
(僕、足は速くならないな…)
と悟ったのだった。
🍀🦖🍀🦖🍀
朝、目覚める直前に見ていた夢は、この、お父ちゃんのランニングフォームだった。
「ムハハ」
という、僕の笑い声で僕は目覚めた。
「ムハハ」と笑ったのは、お父ちゃんのランニングフォームが、可愛く思えたからだった。
🍀🦖🍀🦖🍀
その夢を見た日から、しばらく後のこと。
僕は、リラックスした超~カッコイイランニングフォームで走った。
僕は、決して内股ではない。
しかし、それを目撃した妻のゆかりちゃんと娘に、僕は大爆笑された。
「カエル走り」とか「アヒル走り」とか、そんな言葉の暴力まで受けた。
腕の振り方がオカシイらしい。
①カッコ悪いランニングフォーム
と、
②自分の酷いランニングフォームをカッコイイと思い込んでいる
この2つは、確実にお父ちゃんの遺伝だと思う。
遺伝ならば、なぜ、高倉健さん似の顔じゃないのだ!
やはり、神様に、文句のひと言くらい言ってもイイんじゃないかな。
「スマンかった」って、神様もミスを認めるんじゃないかな。
おしまい
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