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健さん(26)「健兄さんをよろしくお願いいたします」

「健兄さんをよろしくお願いいたします」
静香の口から出て来た言葉は、予想外だった。
ひとみは「大家とか管理人としてかな」と思うけれど、胸はドキドキ、静香の次の言葉を待つ。

真剣だった静香の目が、やさしくなる。
「健兄さん、ひとみさんのことを、好きです」

ひとみは、その言葉で全身が真っ赤。
「え?・・・まさか・・・」
「そんな・・・雰囲気ないって・・・」
「それに健さん、この佃で人気者で」
「きれいなお姉さんからも、可愛い女子高生の集団からも」

「それにさ、こんな丸っこい・・・あの・・・ダイエットしようかなとか」
「お茶の淹れ方とか、料理も・・・まだまだって・・・」

静香は、笑って首を横に振る。
「ひとみさん、健兄さんは、子供の頃からですよ、きっと」

ひとみは、意味不明、首を傾げるばかり。

静香
「伊豆に、お母様が入院されていた頃、おそらく、ひとみさんの顔を見て」
「まあ、健兄さんのことだから、ひとみさんの正面に立つなんてことは無理」
「遠くから見ていたのかも」

ひとみは、ますます赤くなる。
「それ・・・言われても・・・恥ずかしいなあ」

静香
「健兄さんは、ほぼ毎日、ひとみさんのお母様に、花を摘んでは届けて」
「妹から見ても律儀で、どんな天候でも」
「お母様の一番の話し相手に」

ひとみは、下を向いた。
「知らなかった・・・それ・・・お母様と健さんが・・・」
それを思うと、涙も出て来る。

静香
「もちろん、健兄さんの性格だから、ひとみさんに恩を売るような下心はありえない」
「でも、好きになった人のお母様だから、誠意を尽くしたのかも」

ひとみが、驚いていると、静香はまた真顔。
「ひとみさんなら、実家の両親も長男も、大歓迎です」
「もちろん、私も大歓迎」
「後は・・・言わないでもわかりますよね」

ひとみは、胸がドキドキして、苦しい。
天にも昇る話だけど、わからないこともある。
それは、「どうして健が、自分を好きになったのか」が、全くわからない。
少なくとも、6年間隣で生活していて、大学でも顔をよく合わせた。
しかし、「特別な会話」もなかった。
デートなんて、全く考える余地がなかった。

「お見舞いで見かけただけなのに、どうして?」の疑問が消えない。

それでも、自分がお見舞いに行った時のことを思い出す。
「お母様の顔を見ると、いつも泣いた」
「早く元気になって、佃に戻ってって」
「すがりついて泣いたかも」

「時々、花を持った男の子がいて・・・あれが健さんだったのか」
「華奢な感じで、大学生の時には、立派な体格、その雰囲気はなかった」
「だから、わからなかったのかな」
「健さんも言わないし」

静香は、考え込むひとみの手を握る。
「決して同情心からとは思えなくて、好きです、きっと」
「ひとみさんと、お話をしたくて、ここにいるのかも」
「ひとみさんが好きだから、縁談に見向きもしないのかもしれません」

ひとみは、腰が抜けるくらいに動揺、それを察した静香に身体を支えられている。

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