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谷崎潤一郎のグダグダとした言い訳

それから、ここにもう一つ、私が貧乏している重大な原因は、遅筆と云ふことに存するものである。これは原稿の催促に来る記者諸君にはいつも訴えてゐるのだけれども、その程度が如何に甚しいと云ふことを本当に諒解してくれてゐるのは、私と起居を共にする家族の人達だけであって、記者諸君などはいい加減に聞いてゐるらしいのが残念でならない。
実は私も、凝り性とか彫琢の苦心とかを看板にしているやうに思はれるのが嫌であるから、くどくは説明しないのであるが、私の遅筆はそんな殊勝な理由よりも、主として体力の問題なのである。
私はじっと一つのことを考え始めると、精神的にも肉体的にも直きに疲労する。だからニ十分とは根気が続かない。
これは若い時分から糖尿病があるせゐなのだと思ってゐるが、兎に角そんな次第であるから・・・※延々と4倍は続くので略

      谷崎潤一郎「私の貧乏物語」より

「くどくは説明しない」としながらも、くどい「言い訳が」グダグダ延々と続く。

名作はともかく、家族にも編集者にも、苦労をかけた人だったらしい。

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