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春の通い路

まだ寒いのに、美佳と散歩することになった。

「ほら、さっさと靴はいて!」
何も靴をはくことまで、お世話されたくないけれど、言ってくるのは、なかなか止められない。
何より美佳はせっかちだ。

外に出ると、山には雪が残っている。

「うっ、寒!部屋に戻る!」
戻りかけると

「このアホ!」
むんずと腕をつかまれ、寒空の下に引き戻される。

「そんな寒くないって!」
「年寄りじみたこと言わないで!」
美佳は、腕を強く組んできた。
そう言えば、それほど寒くはない。
空も晴れている。

でも、それほど寒くないのは、美佳のピッタリ、ムチッとした体温だと思う。

「でね、あっちの空を見て!」
また、美佳に命令される。

「え?あっちの空?」
少し、霞がかかっている。

「わかった?春が来ているの」
「だからさ・・・」

美佳の次の言葉は、聞かないでもわかる。

ちょっと歩いた先の フルーツパフェだ。
ほんと美佳って甘いもの好きだ。

※式子内親王様 御歌からの創作してみました。

峰の雪も まだふる年の 空ながら かたへかすめる 春の通い路


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