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健さん(20)ひとみは、行動開始

翌朝、ひとみは早速行動を起こした。
健が出かけるのを確認して、静香が残っているアパートのドアをノック。
「おはようございます、ひとみです」
「静香さん、いらっしゃいますか?」
この時点のひとみとしては、昨日いただいた緑茶のお返しで、佃島特産の佃煮セットを届けるだけのもの。
決して厚かましく、長居することは、考えていない。
あくまでも、静香ともう少し関係を深める、友達になるための、第一歩と考えている。

その静香は、「あ・・・はい・・・」と、すぐにドアを開けた。
ひとみが、「これ、つまらないものですが」と、お返しの佃煮セットを渡すと、静香は「あら・・・これでは、ご丁寧過ぎまして・・・」と困ったような顔。

ひとみは、「いえいえ、お気になさらずに、下町佃の味を」と、もう少し静香の表情を観察する。
そして、見る限り、静香は目の下にクマがあって、疲れ顔。

ひとみは、少しためらったけれど、声をかけてみた。
「ご体調がすぐれないとか?」
「もし、何でしたら、近くに懇意の医者がおりますが」

静香は、途端に目が潤む。
「いえ・・・お医者様にかかるほどではなく」
それでも、ひとみを、そのまま帰せないと思ったようで、
「あの・・・よろしかったら、お茶でも」
と、ひとみを誘う。

ひとみにとっては、「渡りに船」にはなるけれど、静香の表情があまりにも暗い。
「はい、お言葉に甘えまして」と、お誘いに乗る。

さて、リビングに入り、静香はお茶をひとみの前に。
ひとみは、まず、その美味しさに感心。
「さすが・・・伊豆のお茶ですか?淹れ方でしょうか」
「私、まだまだ下手で」

少し沈んでいた静香が、ようやく微笑む。
「いえいえ、私も、親に言わせれば、まだまだです」
「それから、佃煮ありがとうございます、楽しみです」

ひとみも、やさしく返す。
「下町の独特の甘辛で、元気になってもらえればと」

静香の目が、また潤む。
「ごめんなさい・・・つい・・・やさしい言葉をかけられると」

ひとみは、ためらったけれど、勇気を奮って、静香の手を握る。
「あの・・・差し出がましいようですが・・・」
「もしかして・・・お兄様の健さんと何か?」
静香が、頑固な健と話が合わずに、苦しんで夜も眠れなかったのかな、と心配になる。

静香は涙を拭きながら、ひとみの顔を見る。
答えも、素直だった。
「あたりです、ひとみさん」
「頑固者で・・・意地っ張りで・・・」
「すごく心配して来たのに・・・」

ひとみは、うんうん、と聞く。
健の頑固と意地っ張りは、ひとみも、よくわかっている。
それ自体は、嫌いではない、健を好きなことは、ひとみ自身否定しない。
しかし、今は、この美人大学生の妹を苦しめる健が、それ以上に気に入らない。

ひとみは、ここで腹を決めた。
「ここは、東京の下町、佃島」
「腹に一物無しの土地柄」
「何でも聞くよ、気にしないでいいよ」
「ご実家とか、健さんには、正面切って言えないことも、遠慮しないでいい」

静香が、また潤んだ。
「ひとみさん・・・お姉さんみたいで・・・」
「すごく安心します」

ひとみが少し腕を広げると、静香はその胸に飛び込んでいる。

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