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コンサートの後で(1)

とにかくメチャクチャに疲れたコンサートだった。
何しろシューベルトの交響曲第9番、曲が長いなんてもんじゃない。
それに長いだけなら、まだ我慢できるけれど、同じフレーズが延々と続く。
管楽器なら時々休みがあるけれど、ヴァイオリン奏者の俺には、全く休みがない。
その上、指揮者は超几帳面。
少しでもいい加減な弾き方をすれば、あのギロッとした眼で、睨んで来る。
「だいたい、何でこんな、長ったらしい曲書いたんだ!」
シューベルトへの文句の一つも言いたくなる。

「さて、打ち上げも、なんだか面倒だ、今日はパスする」
どうも、コンサートの打ち上げパーティーは好きじゃない。
今日の演奏がどうのこうの、次は何とかとか、真面目な厳しぶった顔とか、希望に満ちあふれたエへラエヘラ顔の集団はゴメンだ。
OBが出て来て「俺たちの時代は何とか」も、聞きたくない。
結局、出不足料2千円払って出て来てしまった。

「口直しじゃない、耳直しにジャズでも聴くかなあ」
オーケストラ奏者だし、クラシックは好きだけど、何しろシューベルトの曲が長過ぎた。
結局ヴァイオリンを持って、いつものジャズバーに入った。

「あら、史君!」
美由紀が、にっこり笑ってお出迎え。
年は二つ上がハッキリした。
この間、強引に祥子がついて来てしまった時があった。
そして、そのスタイルの良さに祥子がメチャクチャ反発した。
今夜も、わりとボディを強調するドレス風を着ている。
何しろ、胸あきだし、谷間もクッキリだ。

「ほい!」
「最初は、水割りでいいや」

「あれ?今夜はコンサートでしょ?終わったの?」
美由紀は、少し前かがみで、水割りと、ピーナッツのお通しを置く。
ますます、谷間がクッキリ・・・ちょっとドキンする。

「ああ、終わったし、打ち上げ嫌いだから出て来た」
「何より、美由紀さんが見たいしさ」
少しはお世辞を言わなければならない。

「私が見たいの?」
「私、あの子よりおばさんだって」
「へえ、史君って年増趣味なの?」
「そうだったんだあ・・・笑える!」
美由紀が笑うと、ますます、ブルンブルンと揺れる。
コンサートで疲れた目には、まさに「目の保養」だ。
いや、少し「目の毒」かもしれない。

「・・・で、今日、彼は?」
少しドギマギしながら、いつもピアノを弾いているタケシがいないことに、話題を変えた。
そういえば、オーディオだけからの曲で、この店のウリの生演奏がない。

「ああ、今日風邪だって、残念だけど、他にも声をかけてなくてさ」
「でもさ・・・」
美由紀は、突然、イタズラっぽい顔になった。

「え・・・何ですか・・・」
ますます慌てた。

「史君、何かアドリブで弾いて!私、伴奏する!」
「史くんって、クラシックのジャズアレンジ上手だしさ」
美由紀は割と強引である。
手まで握って来た。

その時である。
「ガチャン」
ジャズバーの扉が開いた。

「え?」
振り向くと、祥子が立っている。

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