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健さん(28)ひとみは、勝負料理「金目鯛の煮付け」を作る

ひとみが意を決して始めたのは、金目鯛の煮付けだった。
「これはお母様の得意料理」
「私も大好きだった」
「とにかく、しっかり作って健さんに食べさせる」
「健さんだって、伊豆の人、絶対に食べる」

本棚から亡き母のレシピを引っ張り出し、料理を始めるた。

「金目鯛は平たいざるにのせ、熱湯を上から両面にかけ、ぬめりとくさみを取る」
「フライパンに、醤油とみりん、生姜、お酒、お水を入れて、煮立たせる」
「金目鯛の皮を上にして、その中に入れて・・・」
「アクを小まめに取るのを忘れずに」
「また煮立ってきたら、煮汁を回し掛け」
「アルミホイルで落とし蓋をして強めの中火で煮て・・・」
「煮汁は途中で数回、回し掛けをして、煮汁が1/3から1/4の量になるまで煮つめる」
「えのきと貝割れを、金目鯛の脇に入れて、また少し煮る」

とにかく、夢中になって作るので、途中で覗いて来る父良夫には対応しない。
「健さんに、どうしても食べさせます」
「お父様は、コロッケで十分」
ただ、その言葉で、父良夫がニヤリとするけれど、ひとみには、わからない。

そして、出来上がった金目鯛の煮付けを、一旦冷蔵庫に入れ、ジリジリと健の帰りを待つ。
当然、父良夫の夕食は、コロッケ定食となる。
ひとみは、気持ちが高ぶっているので、とても食べる気がしない。

夜7時になった。
ひとみは窓越しに帰って来る健の姿を確認。
何もためらわなかった。
玄関を飛び出て、健に声をかける。

「健さん!寄ってください!」
「どうしても、食べてもらいたいものが!」

健は「え?」と目を丸くしている。

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