甘い?追憶

高校生の頃から、ずっと美容院で髪を切ってもらっている。

中学生まで通っていた床屋は煙草の煙が充満していて、3分も経たないうちに、吐き気を催していた。

美容院は姉の行きつけの店。
最初は姉と一緒に行った。
何しろ美容院なんて行くのが初めてだったから。


出迎えてくれた人は、当時22、3歳の、やさしそうな感じのきれいな人。
姉は「弟です、よろしく」といって、少しだけ世間話をして帰ってしまった。

床屋と違って柔らかい雰囲気に違和感を感じたけれど、今さら帰るわけにはいかない。
いろいろ話しかけられるけれど、15歳の男の子では、恥ずかしくてまともに応えられない。
きれいなお姉さんは、時々クスクス笑うけれど、対応できない。

シャンプーは床屋と違って後ろに倒れる体勢になる。
指の使い方も、すごく丁寧で、気持ちがいい。
ただ、問題があった。
時々頭を抱えられるたびに、お姉さんの胸に顔がむにゅっと埋没する。
呼吸も苦しいし、どうしていいのかわからなくて、顔を離そうとすると、お姉さんは「だめ」と言って、ますます強い力で、しっかりと埋没させる。

シャンプーが終わってお姉さんは一言
「どうしたの?真っ赤なお顔だよ」
と言って、またしてもクスクス笑う。

真っ赤な顔のまま、店を出ようとしたら、お姉さんは
「また、来てね」「来ないと、電話するぞ、はい指切り」
そう言って、いつもニコッと笑った。

結局、高校生の3年間通ってしまった。

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