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人生という旅の果てに、失ったものと取り戻したもの。

祖母が療養する寝室に、さわさわと涼しげな風が吹き抜ける。


脳出血に倒れた祖母が失ったのは、右半身と言葉の自由だった。

おしゃべりやみんなのお世話が好きだった祖母が失ったものは大きい。

言葉につまり、たどたどしく伝える祖母の意図は容易に伝わらない。

そのもどかしさは計り知れない。


でも、取り戻したものもある、と私は思う。

それは祖父との絆だ。

歳を重ね、共に長い人生という旅をしてきた夫婦は喧嘩が絶えなかった。

減っていく会話、失っていく信頼。


けれど入院中、祖母は祖父に会いたいと泣いた。初めてしっかり発したのは祖父の名前だった。

祖父が言葉をかけると、祖母は穏やかにほほえむ。会話できない代わりに祖母の大好きな演歌歌手の歌を共に歌う。

まるで祖母は少女のよう。

一度離れた2人の心は、今再び寄り添っている。

2人はまだ旅の途中なのだ。


若き日の祖父母とアルプスの山々が、写真の中から手を取り合う2人を静かに見守っている。

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