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村上ソングズ④On A Slow Boat To China

 村上さんには 同名の短編があるので、どんな曲なのか気になった。

 村上さんのお勧めはビング・クロスビーとローズマリー・クルーニーが掛け合いで歌う楽しいバージョン。残念ながら音だけ。画像は動かないけど雰囲気は伝わってくる。古きよきアメリカのミュージカル映画みたいな感じ♪

 On a slow boat to chinaというのは「のんびりやる」みたいな成句だということも聞いたことがある。また「時間をかけて口説き落とす」というニュアンスもあるらしい。

村上さんの訳は、こんな具合。

中国行きのスロウ・ボート
中国行きのスロウ・ボートに
君を乗せられたらな。
そして僕だけのものにできたらな。
腕の中に君を抱いて
いつまでも離さない。
他の男たちなんぞ
岸辺で涙にくれていればいい。
・・・略

 ビング・クロスビーの歌の裏で「あら、そうはいかないわよ」とローズマリー・クルーニーが絡むのがとてもお洒落だと村上さんは絶賛している。

 タイトルのことだけど、「中国行きのスロウ・ボート」はどんな船なのかいろいろと村上さんは調べたり考えたりしたらしい。日本で言うボートみたいな小さな船ではないみたい。

 こんなのじゃ、アメリカから中国まで行くのは無理~~~。かと言って、この曲の発表当時(1950年代)定期航路の客船は存在しなかったらしい。だから村上さんは言う。

ゆっくり進んでいく船であれば、どんな船でも結局はかまわないということになってしまうのではないか。だからスロウ・ボートはあくまでもスロウ・ボートなのだ。それは人の心の中だけにひっそりと存在する、親密な夢の乗り物なのだ

ああ、なんて素敵なんだ!

しかし、村上さんの「中国行きのスロウ・ボート」とどんな関係があるんだ?
・・・と考えていたわたしは「え?」と声をあげた。

・・・略
生まれてこの方、短編小説なんてひとつも書いたことがなかったから。しょうがないからまずタイトルを決めて、それから小説を書こうと思った。とりあえず題さえできてしまえば、中身の方もそれにあわせてまあなんとかなるだろうと。そしてそのとき頭に浮かんだのがこの「中国行きのスロウ・ボート」という曲のタイトルだった。

 小説との関連がある記述はこれだけだった。

 で・・読み直してみたんだよね。在日中国人と僕とのいくつかのエピソードが綴られた小説。なにか胸がチクンと痛むような、引っかかるような物語
 とてもじゃないが、ビング・クロスビーとローズマリー・クルーニーの歌とはかけ離れている。口説くためのスロー・ボートではなく、日本と中国とを隔てている海をいつまでたってもわたることができないスロウなボートなのではないかとため息が出た

 なんだかしんみりしてきたので、もう一つ。
村上さんが初めて出会った「中国行きのスロウ・ボート」ソニー・ロリンズの方を聴いて締めくくることにする。