突き抜ける「推し」のカタチ【マンガ3選】
今の世の中は、多様な「推し」対象で溢れている。
マンガの世界においても、「推し」は無数に存在し、そのジャンルや扱い方は多岐にわたる。
今回は、連載中のマンガで、「推し」の追求がテーマでありながら、全く異なるジャンルと構成の、とんでもなく面白い3作品を紹介する。
①オフ会したらとんでもないヤツが来た話
題名が表す通り、オフィスBLゲームを「推し」とするオフ会にヤバいヤツが来たのだけど、話してみると愛が深く、普通にオタ友になり、そこからトラブル続出となつつ、どんどん「推し」を拗らせていく面白ストーリーだ。
ただし、逆カプ、地雷解釈、同担拒否といった専門言葉が多く、同人誌やBLに馴染みの薄い自分にとっては知らない用語で、当初は読み解くのに苦戦した。
幸い第二巻の冒頭に用語集が掲載されてるので、上の用語に馴染みのない方は、そこを見てから、読み始めることをお勧めする。
即売会やイベントに参加経験のある方には、ヤバい人がいる状況でのトラブルの「あるある」が笑いを誘うことだろう。
また、この世界を知らない人にも、「推し」があればオタクは大抵のことに順応できる、という世界観を存分に楽しめる作品だ。
②AR/MS(エーアール・マルチプルサヴァイブ)
AppleのVision Proは、現実世界を完全に取り込みつつ、視野内にAR(拡張現実)を組み込むことで、デジタルと現実が融合する新しい体験を提供してくれるヘッドディスプレイだ(2024年2月時点で日本未発売)。
このマンガは、このAR技術が大きく進化し、立体画像を身体に直接投影することで、究極のコスプレを可能にした未来を設定している。
そこでは、プレイヤーが、アニメキャラや獣人になりきって剣や魔法で戦闘するという架空のゲームが存在し、高校でもそれが部活動となっているのだ。
主人公は、普段は内向的なのだが、幼い頃から憧れていた「推し」の魔法少女になりきり、その感情を爆発させ大魔法を放つ。
その心情は味わい深く、かつプレイそのものはコミカルに描かれていて楽しい。
セリフもキャラクターも、ものすごく尖っていて魅力的だ。
原作者については詳しく知らないのだが、非常に熱心なゲーマーであるか、もしくはゲーマーに対して徹底的に取材を行なったと考えられるほどに、そのゲームの楽しみ方の描写が精緻だ。
このマンガを読んだ後で、書籍や画面の中の魔法ではなく、自分が実際に魔法を唱えられるAR体験をしたくなり、 AppleのVision Proを入手したくなったのは言うまでもない。
③悪役令嬢の中の人
悪役令嬢転生ものでは通常、転生者やその周囲の人物が運命を変える努力をして幸せを目指すのだが、この作品はその定石をあえて外している。
物語は、日本人女性エミが「推し」である悪役令嬢に転生し、その運命を変えようと努力を積み重ねていくが、周囲に裏切られて断罪の日を迎え絶望するところから始まる。
良くあるスタートではあるが、転生者のエミがショックで意識を失った後に、本来の悪役令嬢の人格が覚醒する、というのが意外な展開だ。
実は、彼女は転生され封じられている間、身体の中から全てを見ていたのだ。
最初は自分を封じ込めたエミに憤りを感じていたが、彼女の純粋な「推し」としての自分への愛情を知り、徐々に彼女に対する感情が変わり始めた。
自分の幸せのために無茶をして奮闘するエミに傾倒し、このまま自分の代わりに幸せになって欲しいとまで考えていたのだ。
それだけに、その想いを台無しにする断罪への怒りは凄まじかった。
肉体に戻った彼女は、エミがこれまで追求してきた聖女の振る舞いを演技として続け、味方を増やしていく。
一方で、内面では悪女のまま、エミを陥れた者たちに冷酷な復讐計画を進める。
この二重構造は、悪役令嬢モノとして、とても新鮮だ。
聖女の演技に人々が心から感動する様子に、「推し」を褒められることを内心で喜ぶ悪女の姿が、復讐物語でありながらも爽やかな印象を与えて読者を引き込んでいく。
第4巻が最近刊行されたばかりだが、復讐のカタチが段々と見え始めてきており、早くも続きが読みたくなっている。
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