見出し画像

【小説】坊ちゃん団子のおもちゃ箱


坊ちゃん団子は、世界で活躍するヘアアーティスト。

その昔、東京の小さなアパートで、自分のヘアスタイルをアレンジして写真を撮ることに夢中になり、貯まった写真でヘアカタログを作り自費出版。

そのカタログがたまたま日本好きで有名なイタリア人ジャーナリスト マルコビッチ氏の目にとまり、
オー!ファンタスティックボーイズカタローグ!
と、ツイッターで紹介されたことで、爆発的に売れたのでした。

カタログは重版を重ね、ついに坊ちゃん団子はパリコレからのオファーを受けるまでになり、パリコレでの成功で坊ちゃん団子の名前は世界中のアーティストの間で広まっていきました。

さらに、東京のアパート時代からの友人が、そのヒストリーを処女作「坊ちゃん団子のヘアカタログ」として発表。(※現在は絶版)
当時読者は僅か二名でしたが、小説家としての一歩を踏み出すきっかけとなりました。

そんな坊ちゃん団子。
最近スランプ中のようで、お布団で過ごしがち。

なんだかこう…あの東京の部屋にあったものが足りないんだよな。
今は3部屋もある庭付きの団地に住んでいるんだし、仕事も充実していてお金もある。
でも、やっぱりなんか足りないものがあるような気がしてるんだ。

そんな時、ふとあの小説家が書いた小説のことを思い出したのです。

あの頃の僕は、ヘアアレンジの他に何をしていたんだろ?
たしかあの小説には、僕がスーツケースをお団子でパンパンにするシーンが度々描かれていた。
そう、たしかに僕の荷物はいつもパンパンなんだけど、スーツケースということは、旅に出ていたんじゃなかろうか?

そうだ、旅をしよう!

これは、現実と架空の世界が入り混じったマーブル模様のような物語。

小説のことを思い出し、初心に戻ってみようと旅することを決意した坊ちゃん団子。

仕事では世界中を回ってきたけれど、一人旅となると何処がいいんだろう?
ま、とりあえず荷造りして家を出よう。
いや、スーツケースは空っぽでいいや。

行き先も決めずに家を出るという、この行動力は、周りから驚異的だと評判を呼ぶくらい。

坊ちゃん団子は、家を出て、辺りを見渡しました。

団地の外では、子供たちがサッカーボールを蹴りながら遊んでいます。

子供たちは自由でいいなぁ。

坊ちゃん団子がそう言った途端に、スーツケースの中から赤くて四角い箱が飛び出しました。

坊ちゃん団子は驚いて、こんなものを入れた覚えはないのにとその箱を調べ始めました。

赤い箱には蓋がついており、蓋を開けると中には白い紙が一枚。

取り出して見てみると、

「おもちゃ箱」

と書いてあります。

坊ちゃん団子の頭の中がハテナマークでいっぱいになっていると、何か小さくて丸いものがシュン!と箱の中に入っていくのが見えるではありませんか。

ますますハテナな坊ちゃん団子は、その小さなものを覗き込み、

これはサッカーボールのミニチュアだ…

と、呆然としてつぶやきました。

あまりの不思議に旅先の決まらないまま呆然と立ちすくむ坊ちゃん団子。

旅のことを忘れて家に帰ってしまうのではないかと心配です。

自分のスーツケースから見覚えのない箱が飛び出し、その中に小さなサッカーボールのおもちゃが入っていく光景を目の当たりにした坊ちゃん団子は、ハテナにハテナを重ねながら考えました。

家を出たときから旅は既に始まっているんだ。
と、いうことは、この箱もサッカーボールのおもちゃも、既に僕の一人旅の一部なんだろう。
旅を続ければ何か分かってくるかもしれない。だなんて、いつかの小説家の考えそうなことだけど、そうするしかなさそうだな。

坊ちゃん団子は箱の蓋を閉めてスーツケースに戻してから、旅を続けることにしました。

そういえば、一度福岡に行ってみたかったんだった。

こうして最初の目的地は福岡に決まりました。
坊ちゃん団子はこう見えて世界的なヘアスタイリストなので、グリーンシートで豪華な新幹線の旅を楽しみました。

販売員さんが駅弁や飲み物を売りにやってきたので、坊ちゃん団子は鯖弁当とお茶を買って食べ始めました。

鯖弁当か。あの、仕事帰りに毎晩半額弁当を買って帰っていた頃、残り物の弁当から好きなのを自由に選ぶことが唯一のストレス解消だったな。

坊ちゃん団子は、なんだかピリッと嫌な予感がしましたが、特に変わったことは起こらず駅弁を食べ終わりました。

博多〜博多〜

博多駅についた坊ちゃん団子は、駅のホームに着いてからすぐにスーツケースを開けて箱の中身を確認しました。

これは、チキン南蛮弁当のミニチュアだな。
半額シールまでついている。

スーツケースを閉めて歩き出した坊ちゃん団子は、箱のことはひとまず置いておいて、初めての福岡の街を歩くことにしました。

見知らぬ街を歩くのは久しぶりで、新しい景色を見たり、好きなお店に入ったりと、観光客気分を満喫することが出来たようです。

福岡の街歩きを堪能した坊ちゃん団子は、夕食にはもちろん豚骨ラーメンをと決めていました。

福岡でラーメン屋さんに入り、メニューに「ラーメン」とだけ書いてある場合、それは100%豚骨ラーメンを指します。

福岡出身の人が他地方で「豚骨ラーメン」というメニューに違和感を感じるのはそのためです。

坊ちゃん団子は、噂に聞いた屋台のラーメン屋さんに入り、大盛り豚骨ラーメンを満喫しました。

二人で一つのカップラーメンを食べた思い出ってなかなか忘れられないな。カップラーメン一つ買うお金すらなくても、楽しかったからそれでいいんだ。

坊ちゃん団子は屋台のおじさんに別れを告げて、今夜はこの辺りに宿を取り泊まることにしました。

よし、今夜はこの宿にしよう。
その日の宿をその日に決める。
こんな自由な気分は久しぶりだ!

案内された部屋で浴衣に着替え、畳の上でゴロゴロしていた坊ちゃん団子は、

そうだ、忘れてた。

と、スーツケースの箱を開けました。

サッカーボールとチキン南蛮弁当のフィギュア、そしてこれは…まさに今僕が来ている浴衣と同じ模様のミニ浴衣だ。

坊ちゃん団子には、もうこのおもちゃ箱のからくりが分かっていました。
このおもちゃ箱は、最近の坊ちゃん団子が心のどこかで求めているものを集めてきているのです。

さて、坊ちゃん団子が求めているものとは?

坊ちゃん団子は一人旅を満喫中。
旅先の旅館で目が覚めたところです。

ええ朝や!飯を食いに行かねば。

坊ちゃん団子は食堂に向かいました。
朝食はビッフェ形式。
食いしん坊な坊ちゃん団子には最適です。

好きなものをもりもりとお皿に盛った後で、
坊ちゃん団子はあるコーナーに気がつきました。

それは地元の名産コーナーで、博多ラーメンや高菜、辛子明太子などが置いてあり、
「ご自由にお取り下さい」
とのこと。

そもそもビッフェなのに、このコーナーだけさらにご自由にとは、自由の二度漬けかいな。
と思ったものの、ご飯をおかわりして高菜や辛子明太子を口にした坊ちゃん団子は、

さすがご自由にだ、こりゃ美味い!

と、感激して何杯もおかわりしたのでした。
 
食いしん坊の坊ちゃん団子は、お腹をパンパンにして部屋に戻りました。

最初の計画ではいろんなところを旅する計画だったけれど、あの辛子明太子を毎朝たらふく食べられるのなら、この旅館に長居するのもいいかな。

食べ物基準だけで宿の延泊を決めた坊ちゃん団子は、

ほな、フロントで滞在延長の手続きしにいこか。

と、フロントまで行って延泊を申し込みました。

部屋までの帰りに本棚があり、書籍の無料貸し出しが行われているのを見つけた坊ちゃん団子は、その中から三冊を適当にピックアップして部屋に戻りました。

今日は一日中雨だし、久しぶりに読書でもするか。
読書なんて家でも出来そうだけど、旅先ではなんか乙で、良いものなんだよね。

坊ちゃん団子はまず、宇宙百科大全という本から読み始めました。
坊ちゃん団子の宇宙好きは少年の頃からなのです。

雨音を聴きながら旅先でのんびりと読書。

坊ちゃん団子は、

あー、贅沢な自由だなー

と、のびのびして本を読み進めていきました。

あ、そや、あの箱どうなったかな?

坊ちゃん団子がおもちゃ箱を開けてみると、

サッカーボール、チキン南蛮弁当、浴衣のミニチュアに加えて、ミニ明太子と宇宙百科大全のミニチュアが入っていました。

さて、もうお分かりですよね?
このおもちゃ箱のカラクリを。


坊ちゃん団子は、出発するときに突然現れた、奇妙な箱について分析を始めたところです。

コイツは、僕が『自由』を感じる瞬間に目に浮かぶモノをミニチュアにして勝手に集めてくるおもちゃ箱なんだ。
どの場面を思い返してもそうだったから間違いない。

僕は今回、今の自分に足りないモノを探しに旅に出た。
自由。これがその答えなんだ。
毎日が新鮮だけど慌ただしい日々の中、自由を見失ってたんだな。

何故こんな不思議な箱が僕の元へ飛び込んできて、どういう仕組みでこんなものが出来上がっているのかについては、たぶんずっと分からないままだろう。それはそれで構わないさ。

坊ちゃん団子は、大切なことを伝えようとしてくれていたおもちゃ箱に感謝してトランクにしまい、また読書を始めました。

みなさん。
自由とは何だと思いますか?

例えば、坊ちゃん団子は団子でサッカーをしている子供たちに自由を感じました。
その時の坊ちゃんが見ていた光景は、子供たちが自由に遊んでいる姿でした。

さて、自由って何だと思いますか?

「自由と感じたら自由や。
頭でっかちになったらアカン。」

そう、自由とは感じるものです。
これ以上の難しい説明は要らないんじゃないかな?

さて、坊ちゃん団子に自由を求める心を気付かせてくれたこの不思議なおもちゃ箱。
カラクリが分かった坊ちゃん団子にとっては、今後は旅の思い出を記録してくれる、便利な小道具になることでしょう。

あなたは今、自由ですか?
普段から、自由を感じる瞬間がありますか?
例えば、こうやって物書きをしている時はとても自由な気分だったりします。
自分の世界に浸ることもまた、その人の自由なのだと思います。


旅先で読書をしている坊ちゃん団子。
子供の頃に読書の虫だったので、もう三冊読んでしまい、次の本を借りに行こうとロビーに出ました。

やあ、こんにちは!

坊ちゃん団子はロビーで見知らぬ男性に声をかけられました。年齢は同じくらいでしょうか?

こんにちは。君は誰?

僕はこの旅館の跡取り息子で今は一応副支配人をしている、博多天神。変な名前やろう?

博多も天神も福岡の地名だもんね。僕は坊ちゃん団子。ヘアデザイナーって仕事をしてる。

坊ちゃん団子??苗字が坊ちゃんなのかい?
じゃあ坊ちゃん君だね。
僕、坊ちゃん君と話してみたいなと思って声をかけたと。
ほんとはいかんことばってん、僕は旅するお客様からいろんな話を聞くのが好きでね。
よかったらしばらく話し相手になってくれんね?

うん、いいよ。
坊ちゃん君じゃなくて坊ちゃんでいいから。

やった!じゃあ、そこのロビーのソファに座って話そう。

坊ちゃん団子は、この博多君から福岡の生の方言が聞けることが密かに嬉しかったので、喜んで話すことにしました。

僕、旅に出る機会があんまりなくてね、旅館で働いてると、お客さんである旅人が羨ましかと。
坊ちゃんは今までどんなところを旅してきたと?

実は僕、仕事ではわりと有名人なんだ。
だから、世界中を仕事で回ってるよ。
今はラスベガス、パリ、東京辺りに部屋を借りていて、仕事で滞在するときに使ってるかな。
普段からヨーロッパやアメリカ、日本辺りを行ったり来たりしながら仕事してるんだ。

ウヒョー!!坊ちゃんは世界人なんだね!!
バリバリ羨ましかー!
今までで行った国で一番不味かった食べ物とかあるん?

不味かったかどうかは分からないけれど、熊の手は苦手だったかな。あとは蛙の唐揚げとかイナゴの佃煮なんかは、また食べようとは思わないね。

うんうん、そうなんやぁ!
見た目からして食欲を失うようなモンはまた食べたいと思わんもんねぇ。
ばってん僕も一度は食べてみたかばい。

せっかく行った先での食べ物との出会いなんだからね。経験は貴重だよね、何ごともさ。

うんうん、僕もそう思ってるばい!
そしたら、今度朝食のビュッフェに蛙の唐揚げを出してみようかな…

いやいや、あれはたぶん日本人が好き好んで食べるようなモノではないと思うよ。
博多君はけっこうチャレンジャーなんだね。

単調な旅館の仕事をしていると、時々何か新しい風を吹き込ませたくなるんよね。
やっぱり旅館も毎日同じじゃつまらんばい。
実は僕、本当は旅館の支配人になんかなりたくないとよ…

話は博多天神君の悩みへと進展していきます。

博多君は、旅館業が好きじゃないの?

そうね、たまたま旅館の息子に生まれただけで、職業選択の自由がなかったのが不満なんかな。
かと言って、他にどうしてもやりたいと思う仕事もなかけん、ずっとこのままなんじゃろなぁって半ば諦めてると。

ふーん、旅館の仕事って、やっぱり毎日同じって感じなの?

お客様は皆旅人さんやけん、本当は同じじゃなかはずばってん、僕には同じに見える。
僕はもっとたくさんの人たちと、日本中、世界中のいろんな場所で出会いながら生きて行きたい。そういう生き方に憧れているとよ。
僕はこの旅館の中で、坊ちゃんみたいなキラリと光るお客様を見つけては、自分の知らないことを教えてもらって、旅行気分を味わっているとよ。

アハハ、僕は光ってたのかい?

うん!旅館を長年やってれば、そのお客さんがどのくらい旅をしてきた人なのかだいたい分かるけんね。
職業病のようなモンかな?
しかし、坊ちゃんみたいな世界人は、この福岡の小さな旅館にはあまり来ないからかなりレアなお客さんばい。

そうなんだね。
ねぇ、博多君が言ってた、たくさんの場所で出会いながら生きて行きたいってのは博多君の夢でしょう?
僕はね、自分の好きなことやってたらなんだか世界的な有名人になってたんだけど、そんな自分にも夢があるんだ。
けれど、そのために今の仕事や人との繋がりを捨てることは出来ない。だから、夢は夢で終わらせようかなーと思ってはいる。
なんだか博多君と似ているような気がするんだ。
やっぱり気になるんだ、どうしても。
自分にはまだやり残したことがあるって気持ちが消えないの。
分かるかな?

そりゃもう、ぎゃん分かるばい!!
そう、どうしても気になるとよ。
夢、か。
僕はこれが自分の夢ってヤツなんだとはっきりとは気がついていなかったんだけど、僕には今の仕事の他に夢があるんや。
坊ちゃん、ありがとう!
この気づきは、僕にとってとても大きな出来事だ。
僕は今まで、夢のない生活だと働きながら、立派な夢を見ていたんだ。
これからは、そう思って毎日を過ごしていこう。
そうだ、僕には夢がある!!

ふふふ、男が夢を見た瞬間に立ち合えてとても嬉しいよ。僕もこの仕事を始めた頃そんな風に、ひとまずは目の前のことを頑張ろう!って決めたことを思い出した。
だから今の僕があり、きっと当時の僕の夢は、今でも僕のことを支えてくれているんだな。
うん、僕も夢を持ち続けていこう!

坊ちゃんの夢ってなんね?

タクシーの運転手だよ。

世界的有名人の夢がタクシー運転手!
やっぱり坊ちゃんはキラリと光る良い男ばい!!
あのさ、僕、もう仕事に戻るけど、また話せるかな?

うん、ひとまず明日までははお世話になろうと思っているから大丈夫だよ。

良かった!
じゃあ、今日はありがとう!!

こちらこそ。
あ、この本、読んでみたら?

分かった!

坊ちゃん団子が博多天神に渡した一冊の本。
それはあの…


博多天神との会話を終え、また本棚で本を借りてきた坊ちゃん団子は、雨が上がっているのに気がついたので、辺りを散策することにしました。

ところで前回博多天神に渡した本。
タイトルは『夢見る小鳥』
坊ちゃん団子が何気なく選んだこの短い小説は、特に陽の目を見ることはありませんが、今もこうして夢を持つ人の間を渡り歩いているようです。
なかなか不思議な本ですね!

浴衣に下駄で旅館を出た坊ちゃん団子は、夕暮れ時の福岡の街をぶらぶらしながら、自由について考えていました。

忙しかったとか、そんなことが理由なんじゃない。たしかに慌ただしい日々だけど、仕事も人付き合いも上手くいって、自分の生活に満足していたはずだったんだ。
だけど、なんだか自由を見失っていたんだなぁ。
そのことが、布団に入りがちな毎日にまで自分を追い詰めていたことを考えると、自由を感じるって、思うよりも大事なことなんだな。
あのおもちゃ箱のおかげでその事に気がつけた訳だけど、あれさファンタジーってことにしといて、自由についてもう少し考えながら歩こう。

本当の自由は金では買えない。これは間違い事実だと思う。
僕が自由を感じる瞬間、サッカーボール、半額弁当、旅館の浴衣、辛子明太子、宇宙百貨大全…あのおもちゃ箱のおかげで、自由を感じた瞬間を忘れずにいられる。
それにしても、僕の自由ってかなりお安い気がするぞ。えへへ。

坊ちゃん団子はどんなにお金持ちになっても貧乏性なので、こういうお得感に弱いのです。

おもちゃ箱の中には、チキン南蛮弁当のように過去に感じた自由も入っていた。
僕は忘れやすいというか、過去を捨てて生きているようなモノだから、こういうのってありがたいよな。

そう、それに、今僕がヘアデザイナーとして働いているのは、そもそも自分の髪型で自由に遊んでいたからだったんだ。
毎日毎日飽きることなく、ブラシ一つで鏡と向き合っていた。
あの時の僕には無限の自由があったような気がする。いや、たしかにあったんだ。

初心忘るるべからずや!
次のヘアスタイルのコンセプトは
"A ll you need is a free"
なんか良いかもしれないな。
みんなにもっともっと自由なヘアスタイルへの提案をするんだ!

小さな川辺を歩きながら、仕事のコンセプトまで考えついて、坊ちゃん団子は本当に自由で良い時間を過ごしているようですね。
旅もまた人を自由にさせるものなのです。

散策から帰った坊ちゃん団子は、部屋で夕食を味わい温泉に入り、布団の中で本を読みながら眠りにつきました。

翌日の朝、ビュッフェでまた辛子明太子をモリモリにお皿によそってお得気分を味わい、部屋に戻りしばらく寛いでいると、部屋の内線電話が鳴りました。

坊ちゃん、おはよう。博多だけど。
今日は時間あるかな?

うん。明日帰ろうと思ってるけど、今日はまだ何の予定もないよ。

よかった!
今日僕仕事休みやけん、二人でどっか遊びに行ってまた話させてもらえんかな?

うん、もちろんいいよ。

坊ちゃん団子と博多天神は、キャナルシティ博多というショッピングモールのような場所に行き、博多天神に案内されモールを周りました。

一人じゃ行かなかっただろうし、観光気分になれてすごく良かったよ。

それは良かった!福岡って田舎であんまり観光スポットないのに、ラーメンと辛子明太子でバンバン人が集まるけんね。不思議な街たい。

ムーミンカフェに入り、並んで街行く人を見ながらお茶していると、博多天神がこう言いました。

この前の夢の話ばってん、僕、あの日からなんだか毎日が楽しゅうなってね。
ふと、また毎日同じ…みたいな暗い考えに陥るとき、
そうだ、僕には夢があるんだ!
って思い出しては、また楽しい気分に戻れるようになったと。
それにあの小鳥の本。
「叶わない夢を見てもいいと思う。
だって、夢の世界はもっと自由なはずだもん。」
て、書いてあった。
叶わない夢を持つ自分には、初めてそんな自分の夢を誰かに認めてもらえたように感じて、じーんときたばい。

そうか。なんかへんてこりんで不思議な本だなと思って渡したんだけど、役に立って良かったよ。
でもさ、僕は旅館業については分からないけど、博多君の夢って、本当に叶わないものなのかい?

このまま僕が動かなきゃ何も叶わないやろうね。
僕が外の世界に出ていくには、旅館を辞めなきゃいけん。ばってんうちの跡取りは僕しかいないし、僕がやらなきゃうちは父の代で終わってしまう。それは僕も望まないことだから。

跡取りかぁ。それはきっと、絶対に変えられないことなんだろうね。博多君は外の世界には出ていけない…か。なんだかさみしいよな。
でもさ、たくさんの人に会って話をするって事は出来そうじゃない?

外に出ることが出来なくても?

うん。世界中から呼べばいいんだからさ。
ごめんね、良く知らないのにこんなに簡単に言ってしまって。
でも、僕には策があるよ。

えっ、なんか良か方法があると!?

うん!まず一つはね、

坊ちゃん団子は博多天神にもっと自由を、と思っています。
つい先日まで自分も自由を見失って身動きが取れずにいたのだから、博多天神の心境がよく分かるような気がして放っては置けなかったのです。

坊ちゃん団子は博多天神が彼の夢に希望を抱けるようにと考え、旅館の運営について自分の考えを話してみました。

まず一つはね、天神君の旅館をインターナショナルな感覚で運営すること。
イメージ的には、日本人より外国人の方が多いんじゃない?くらいの感じ。
それで、旅館に談話室を作るんだ。ミーティングルームね。
海外からお客さんが来るような宿には大抵談話室があって、旅人たちが一期一会のお喋りをするんだ。

うーん、僕は他の旅館のことは全然知らんとばってん、なんか坊ちゃんの言うことが難しいことに聞こえる。インターナショナルな感覚?僕の旅館にそげなお客さんたちが集まってくれるやろか?

言い方がいきなり過ぎたみたいだ、ごめんね天神君。
まず僕は、博多君が外の世界に出ることは、今のところ一旦は諦めた方が良さそうだと思ったの。
でも、たくさんの人と話をするということは、今の仕事を続けながらでも叶うんじゃないかな?
逆にこれが旅館業だから出来ることだとしたら、博多君はラッキーってことになるじゃない?

うん、職場にいて今までみたいにコソコソお客さんと話さなくても良かなら嬉しいし、世界に出なくても世界中から来てくれるなら、それはもう旅してるのと変わらないやんね!

そうそう、そういうこと。君の夢は旅人だね。
さっきも言ったように、インターナショナルな感覚がないと、談話室なんて発想は出てこないし、談話室もないなんて、と、海外のお客さんは客離れしてしまうと思う。
僕は今まで世界中の宿に泊まって来たから、これからもその辺りはアドバイス出来ると思うよ。
いつか立派なインターナショナルな旅館になった暁には、僕も世界中の友達に君の旅館をオススメするよ。

それはすごか話ばい!!
本当にそうなれば、うちの旅館は変わるんやね。
僕は僕の旅館に良い風を吹かせることが出来る。
それにしても、坊ちゃんはどうしてまだ会って少しの僕に、自分の友達を紹介するとかアドバイスしてくれるとかまで言ってくれると?
僕、こんなに人に親切にしてもらったの初めてかもしれんばい。

ははは。親切は僕の性格なんだよ。
たまに度が過ぎるんだけどね。
それに、博多君。僕たち、もう友達でしょ?
友達が困ってたら、助けたいのが普通じゃない。

友達…そうだよね!!
坊ちゃんはお客様でもあるからちょっと難しく考えてたけど、僕たちもう立派な友達ばい!
ありがとう、坊ちゃん団子。
僕のこと、旅館のことを一緒に考えてくれて、どんなにチカラ強いことか。
僕の夢は半分叶うかもしれん。
数日前の僕は、風呂場の掃除でデッキブラシ持ちながら、この先も自分の望む世界には決して届くまいと遠い目で星を見ていた。
そんな自分が…坊ちゃんとの出会いで変わったんや。

半分でも全然構わないさ、この世には夢見ることを知らない人だってたくさんいるんだ。
夢を見るということは、とても人間らしい、素晴らしい生き方だと僕は思う。
博多君も、結局夢や憧れを諦めて捨てたりしなかったから、今に繋がってるんだよ。
話を聞いていると、博多君は、僕が思うよりもきっとさみしい人生を送って来たんだと思うんだ。
何か役に立ちたいんだよ。
僕は明日福岡を発つから、それまでに出来る話は限られてる。
もう少し、僕なりのアドバイスを訊いてくれるかな?

もちろん!よろしゅうたのむばい!


博多天神と坊ちゃん団子は、旅館の未来について打ち合わせ中です。

博多君の旅館は、例えば談話室を作ろうと思ったら、やっぱりお父さんの許可がいるの?

うん。ただ、僕の父親は九州男児の頑固者ばってん、きちんと話をすれば分かってくれる男ばい。
単に僕が海外のお客さんと話がしたいからという理由だけで、旅館のシステムや設備を変える訳にはいかん。お金や次回のかかる話やけんね。
要は、僕が旅館をどうしたいのか?そして、そうすれば旅館にとってどんなメリットがあるのか?についてしっかりと考え抜いてから父親に話ば持っていくことが肝心とたい。

そうか、それはこれから時間をかけて博多君が考えを纏めていかなきゃね。
博多君は、自分の旅館で、国内はもちろん、海外のお客さんが自由に談話室で団欒出来て、自分もそこに入れちゃうなんてことになったらどのくらい嬉しい?

そりゃもう、嬉しくて月まで行けそうばい!

あはは!君、今とてもキラキラしてるよ!
その気持ちがあればきっと大丈夫だ。
やりたいこと全部やらなきゃ人生もったいないよね。
一つ提案があるんだけど、
天神君は、これから自分の休みの日を利用して、安くて外国人が集まるような宿に泊まるようにしたらどう?例えば、ユースホステルとか。
家の近くで旅費を出して宿泊だなんて、と思うかもしれないけれど、とても良い経験が出来るし、知り合いや友達も作れる。
もしかしたら未来のお客さんとも出会えるかもよ。

なるほど、近場での旅も乙なものたいね!
僕、英語苦手なんやけど…

それは必須です。頑張れ(笑)

そやね、がんばるばい!!
あー、なんか夢持ったら、退屈するヒマがなくなってもうたばい。

ふふ、その感覚、良く分かるよ。

こうして坊ちゃん団子と博多天神は友情を深め、その翌日坊ちゃん団子は帰路に向かったのでした。

結局福岡のあの旅館だけで今回の旅は終わってしまったな。
でも新しい友達も出来たし、自由を満喫して、また明日から新しい髪型と向き合うことが出来そうだ!

坊ちゃん団子は、旅の終わりにおもちゃ箱を丁寧なに開けました。

小さなサッカーボール、チキン南蛮弁当、浴衣、辛子明太子、宇宙百貨大全…その他にも小さなミニチュアおもちゃがたくさん入っていて、その数はこの旅で感じた自由を象徴しているかのようでした。

坊ちゃん団子は、その中からふとある白いプレートに手をかけました。
裏返してみると、

『談話室(meeting room)』

これは博多君の自由が紛れ込んだみたいだな。
あの旅館は今でも十分良い宿だから、きっと博多君なら上手くやれるさ。
僕も辛子明太子が食べたくなったらまた泊まりに行こうっと


あらためまして、こんにちは。
坊ちゃん団子です。
最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。

本作品では主人公の僕が、作者に変わってみなさんにお伝えしたいことをお話したいと思います。

この小説のテーマは、
【自由と人の成長】
です。

みなさんは、実はよく意味を知らない言葉をわりと簡単に使っていることってありませんか?

僕は、そんな言葉の中には、知れば人の人生を決める程の力を持っているものが数多くあることを知っています。
それは、例えば夢であり自由であり、愛や命といった言葉たちです。

そのような言葉の中で今回選んだのは『自由』という言葉でした。

自由と感じたら、それが自由や。
頭デッカチになったらアカン。

これは昔ある人がブログに書いていた文章です。
僕はこの文章を読み、初めて自由という言葉を感覚的に捉えることが出来ました。
自由は感じるもの。
そして、自由はいつもあなたの視界のどこかに存在しているものです。

そして、もう一つのテーマである『人の成長』

人に会う
本を読む
旅をする

これは、人の成長に繋がる3つの行動です。

人に会う
出会いとは、時にその人の人生を大きく左右するくらいのもの可能性を秘めているものです。
旅先での出会いは基本的に一期一会ですから、ご縁を大切にしていきたいですね。旅先で友達が出来たらラッキーですよね!

本を読む
本とは、それまで知らなかった世界への扉のようなものだと思います。どんな扉を開くかを選ぶのは各々の自由ですし、先は誰にも読めません。
良書との出会いは、その人の人生を豊かにするためのエッセンスだと思います。

旅に出る
旅先では、未知の経験や様々な出来事が待っています。新しい土地に赴けば、全てが初体験です。
美味しいものを食べ、景色や街を眺め、たくさん写真を撮って、人に会い、楽しい思い出を作りたいですね。

この小説では、僕が旅をして読書をし、人と出会いました。
旅とおかしなおもちゃ箱のおかげで、自由を取り戻すことが出来たのは大きな収穫だったし、少し見失いかけていた本来の自分を取り戻すことが出来ました。

それでは、僕は本日からG7広島サミットの各国首脳のヘアスタイルを担当しますので、この辺りで失礼致します。

またどこかでお会い出来ることを願って。

See ya!

【完】

2023 written by Maiko Kishibe

Thank your for my kindly friend and dear family.

読んでくれてありがとう(*´д`)b





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?