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サントリー学芸賞授賞式(の付き添い)

サントリーは最高のコンサートホールや文化財団という組織を持っていることからもわかるように、学術や芸術などの事象に対し出しゃばらないのにその道に勤しむ人たちに向けて驚くほどフィットした支援を続けている。
その中のひとつ、若手の研究者に対する奨励となっているサントリー学芸賞の第39回思想・歴史部門を、大好きな友達が受賞した。彼女はかつてジプシーと呼ばれた移動する民の研究をしている。主にフランスのポー地域をフィールドに、キャンピングカーでキャラバンを作り移動するマヌーシュと呼ばれる人々の中に数年間入り込んで(今も年に3回くらい出かけている)論文を書く、というサイクルで仕事をしている。それらの論文はアカデミックなところで大きな評価を得ているが、今回の受賞理由は彼女の2冊目の本がきっかけだった。

一般の人の目にも留まりやすい書籍化の話が出ている、と聞いたのはもう3年くらい前になる。たまに会った時に最近のマヌーシュ話を聞くのは非常に楽しかったので、積極的に勧めて励ました。
その頃、既にシリア難民のトピックもヨーロッパのニュースでは頻繁になりつつあり、まだ日本には到達していないにしても、定住地を捨てた人たちが移動を続け新たな定住地を見つけるという行為は地球上でひとつのうねりとなり始めていた。現代の人間は基本的に定住という概念のもとに生きており、それは折にふれて価値判断や思考に現れる。移動して生きる人はその周縁に置かれ(あるいは認識されていないと言っていいのかもしれない)、かつての世界のように境界より向こうのものにあたるため「悪」「未知」として捉えられる。そんな流れの中で、独自の組織(に対する価値観や考え)や生活形態を持っているマヌーシュは、定住概念の私たちがそれ以外の世界を捉える時、何かのフィルタになるのではないかという期待があったのだ。

本の詳細についてはぜひじっくり読んでいただくとして、授賞式にあたって受け取った冊子には、受賞各人とその論者という2人1セットのテキストが書かれていた。
彼女の論者は仏文学者の鹿島茂先生で、学生の頃先生の謝肉祭やどちらかというとグロテスクな中世の描写を好んで読んでいた私にとってはパーフェクトな人選だった(何様だ・・・)。ちなみに鹿島先生の読書日記はこちら
その中で先生は、このマヌーシュの視点が現代の私たちの生き方を見るフィルタとして有効だということを書かれておられた。確かに彼らのもつ家族の概念 ーーいつでも戻ってくることができて出発ができる場所として家族(と場所)を捉えるその軽やかな飛躍ーー は旅を手段としているマヌーシュならではだが、そこを通して今の私たちの世の中を見てみると、例えば「個」と「コミュニティ」「組織」「共同体」との関係づけに必要以上に意識を向けなければ日々の生活が少しずつずれてしまう、微細なストレスが発生する、といったことにヒントがもらえるのかもしれない。

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