見出し画像

【企業にPRが欠かせない理由】ブランドエクイティ活動フェーズとフェーズごとのPR目的と指標



~「タイミー」でのキャリアからブランド・エクイティ活動を振り返る~

前回の記事で「ブランド・エクイティ」の有用性について簡単に触れましたが、最初からこの概念を意識していたわけではありませんでした。この概念が日本に上陸したのは1994年ですが、ようやくここ数年で、ビジネスにおいて「ブランド・エクイティ」の重要性が問われ、少しずつ認知され、取り入れてきた印象があります。これまで事業の最大化というミッションに向けて、ブランディング、PR、マーケティングなどさまざまなことに取り組んできましたが、あくまでそれは「ブランド・エクイティ」向上のための“手段”でした(ブランド・エクイティ向上の必要性は前回の記事でお伝えしました)。

手段は事業フェーズなどに応じて、都度最適なものを実施していけば良いのですが、それが難しいですしイメージがつきにくいですよね。
そこで、これからの記事では私のキャリアを振り返りながら、ブランド・エクイティのフェーズに応じた取り組み方や手段など、具体的な内容をお話していきたいと思います。
その前に、タイミーでのBX(Brand Experience)部の簡単な紹介をします。

タイミーのBX(Brand Experience)とは

BX部の目的は、世の中から好意的に受け入れられ、世の中から嫌われないようにし、選ばれ続けるブランドでいつづけることです。

担当領域は、PR領域(ユーザー獲得につながる攻めのPR、クライシスPRなどの守りのPR含め)、ブランディング(ブランドマーケティング)領域、オウンドメディアや各種SNS、コーポレートサイト等の企画運営を担当するブランドエディター領域で構成されており、コーポレート、サービスのブランド戦略設計〜実行までを一気通貫でやり、社内外のタイミーの印象、表現の一貫性に責任を持っています。

ブランド・エクイティのフェーズは4つに分かれる

まず、私が考えるブランド・エクイティ活動は下記です。ここでは主にサービスブランドについてになります。コーポレートブランドでもこの図の流れで考えることが可能です。全てのフェーズで「理性(機能ということもあります)」と「情緒(心理的ロイヤルティ)」が両方とも必要になります。ブランディングでは特に「情緒(心理的ロイヤルティ)」に重きを置いています。なぜなら「理性(機能)」はマーケティングが注力しているからです。

企業フェーズ合わせた各ブランド・エクイティ活動
※こちらの図を使用の際は、事前に個別にご連絡ください。

①〜③のどこかのフェーズで、何かしらのきっかけがあり利用/購入がされます。また、継続的にブランドの良さを実感してもらえないと愛着・推奨(共有)されず、使われ続けたり選ばれ続けるブランドにはなりません
時系列に合わせたステップではなく、会社のフェーズによって、図のように全てのブランド・エクイティ活動は継続的に行い、積み上げていきます。例えば「ブランド認知」は100%になるまで(100%の認知はほぼありません)終わることはありません。

また、特に第二成長フェーズがきた時や業績不調、新規事業参入、競合など外部環境の変化によってリブランディングをする時があります。その時は、②のブランド名に紐づくイメージを変えるところに戻りながら③、④と続けるというサイクルになります。

上記の図には、各フェーズにおいて、プロダクト開発/商品開発、営業活動などさまざまな手法ももちろん含まれますが、ここではメインとなるそれぞれのブランド・エクイティ活動の手法を記載しています。

ブランドエクイティと「PR」の関係性

見ていただくと分かるように、ブランド・エクイティのすべての活動フェーズに「PR」が入っています。
「PR」と聞いて、人によって認識している印象はそれぞれだと思いますが、私はPRとは一言でいうと「世の中から信頼され、選ばれ続けるブランドでいるための活動」だと思っています。マーケティングと大きく異なるのは、プラスのイメージ創出・浸透・ユーザー獲得などという「世の中から好意的に受け入れられるようにする」に留まらず、「世の中から嫌われないようにする」要素が非常に重要となる点です。

よくPRは「事業貢献度が分かりにくい」とか「成果を評価しにくい」といった声を聞くことがありますが、そうではありません。フェーズごとのPRの目的が違うこと、フェーズごとにPR手法や指標が変わること、今の取り組みや結果が次のフェーズにどう接続するかを理解していれば、そうしたモヤモヤから抜け出すことができます。(PRパーソンだけではなく経営者や他職種の皆様にとっても)

PRはブランド・エクイティ活動の中では外すことができません。そこでまずは、「ブランドエクイティフェーズに合わせたPR」の目的をタイミーでの具体例をもってお話ししたいと思います。ブランドには主にサービスブランド、コーポレートブランドの2つがあります。今回は単一事業でコーポレートブランド≒サービスブランドに近い生活者に向けたブランド全般として読んでいただけたら幸いです。採用候補者向け、官公庁向けなどに関しては別の記事でお話ししたいと思います。

①ブランド認知

事業立ち上げフェーズでは、多くの企業の場合、資金はそこまで潤沢にありません。早々に事業をグロースの流れに持っていくためにも、PRの目的は「ブランドを認知してもらうために、なるべく多くの露出を獲得すること」になります。

ここでは代表(創業者や社長)の想いを伝える代表PR、ユニークなサービス/プロダクトである場合は、「これがあることで世の中の何の課題を解決するのか/解決できそうなのか」など機能や便益などを用いた事業/サービスPRをすることが多いです。

まずは事業(サービス/プロダクト/商品)の持つプロダクトアイディア/提供価値(機能や便益など世の中に新しい価値として提供できる事業の勝ち筋)をシンプルに整理し、なるべく同じような内容、メッセージを繰り返しPRしていきます。
toC向けのタイミーのプロダクトアイディア/提供価値は、「面接、履歴書なしですぐ働けて、すぐお金がもらえるスキマバイトプラットフォーム」です。もちろん「メディアに出してもらう=PR」ではないですが、ここでの優先順位は先述したようになるべく多くの人に知ってもらえるようターゲットに見られているリーチ量が多い影響力のあるメディアに対して「量(TVなら尺、新聞なら段数、雑誌など)」の指標が重要になります。
例えばタイミーの場合、
・代表の小川がタイミーを創った背景や想い
・日本の最優先課題である労働力の減少に対して、スポットワーク(単発バイト・スキマバイト)が有益であること
・スポットワークという働き方が、子育て中の方やシニア、学生などの潜在労働力を喚起できる社会的意義があること
などを切り口にサービス/事業PRにつなげています。

例えば代表の露出においては、当時小川が抱えていた課題ー自身の原体験である学生時代のアルバイトや単発派遣をした時の不(週5でシフト出しても週1しか入れず確保していた時間が無駄になったり、希望する額のお金が稼げなかったり、面接や履歴書、登録会など働くまでにやらないといけないことが多いことなど)といった、当事者しか持ち得ないストーリーは欠かせませんでした。
サービス/プロダクトローンチ時期は、「代表がなぜこのサービス/商品を創るに至ったか」の社会課題や時代背景、代表個人がこのサービス/商品が必要だと思う実体験などからくる想いを世の中に伝えることが露出に繋がります。

この時期のPRにおいて重要なことは、マスではなく限られた業界でも構わないので、それぞれの商品/サービスにとって影響度(「どこで伝えるか」が重要なため)が大きいメディアで社会や生活者にとってどのようなポジティブな影響があるサービス/プロダクトなのか。それを伝えるストーリーを創れるかです。
先述したように「ブランド認知」には終わりはありません。新規ターゲットなどターゲットを変えていくことでアプローチするメディアも変わり、それにより届けるメッセージも変わり、「ブランド認知」活動をしつづけます。

②ブランド連想

「ブランド認知」があっても「ブランドイメージ」がブランド名に結びつかないと、使ってほしい人に使ってもらう動機が伝わりません。資金調達などマーケティングをする資金力ができた時もこのフェーズに移行するタイミングになりますが、全ての企業でできることではありません。どこの企業にも当てはまる「ブランド連想」に注力フェーズを移行する判断軸は、ブランド名はターゲットにある程度知ってもらっているが、利用や購入に想定よりつながっていないと分かった時です。実際に定量データを持って現状把握し、そこから見えてくる課題を設定して、取るべきブランドイメージ、コミュニケーション施策に落とし込みます。また定量データを用いた方がマーケティングを始める必然性や戦略のロジックの精度アップにもつながります。

定量データには、下記のように主に3種類あります。③の情報が少なくても(もしくはなくても)①、②はどこのフェーズのどの企業でも数十万円〜の予算があれば把握することが可能です。

1.定量調査

自社のブランド認知率や競合のブランド認知率の把握、自社、他社ブランドを含めた、利用・購入経験や頻度、シェア、ブランドイメージなどの定量調査の結果から、自社のブランド認知率や競合よりも認知率が高いのに利用・購入経験や頻度が低いなどが分かります。差分が大きいファネルが課題と捉えられますし、現状いだかれているブランドイメージなども定量データで分かるため自社ブランドの強みや課題も見えてきます。

2.自社で保有するユーザーデータ

自社で保有している利用/購入が分かるユーザーデータから判断し、課題を設定することができます。具体的には、インターネットで検索した時に、自社ブランド名が何のキーワードと一緒に検索されているのかなどをGoogle Search Consoleなどで現状の生活者にいだかれているブランドイメージや自社ブランドの提供価値を把握することができます。

例えばタイミーの場合、「タイミー 中高年」で多く検索されています。ここから推測されることは、タイミーは若者向けのサービスというイメージがあり(実際に定量調査の結果でも多く想起されているイメージです)、タイミーに興味を持っていただいている中高年の方が自分もタイミーを使えそうかを調べていたりなどしていることが想像できます。
この結果からでも中高年の方にもニーズがある可能性があるため、中高年の方が見えているメディアで実際に使っている方のインタビューを出していき、「若者向けサービス」というイメージから、「中高年の方も含めた多くの皆さんに使っていただけているサービス」というイメージを取りにいくコミュニケーション戦略に舵を切ることもできます。

また、実際にアプリやWEBサイトへアクセスしたユーザーの動きが分かる行動データ(新規ユーザー数や表示回数など)をGoogle Analyticsなどのアクセス解析ツールで分析することもできますよね。例えばタイミーの場合、タイミーのHPを見にきてくれた人の回数や新規ユーザーなのか既存ユーザーなのかなどが分かります。それにより、まず見にきてくれた人が少ないのか、そこからアプリDLなどのクリックが少ない(興味を持たれていない)のか、そもそも流入数が低い(ブランド認知が低い)のか、ターゲットにリーチしていないのか、ページ内に知りたいコンテンツがないのかなどの課題が見えてきます。

3.その他:一次情報など

他社や他機関から開示されている業界シェアや業界の利用者数などのデータもあります。これにより、業界内の自社のポジショニングなどが分かり、競合を分析することで自社ブランドの課題を設定することができます。
この「ブランド連想」フェーズでのPRの目的は、設定しているターゲットに対してブランド名と合わせて提供価値やターゲットのイメージを伝えることです。

提供価値を伝えるためには、ブランド(企業・サービス・商品)の競合優位性がある提供価値を整理し、かつ時流や世の中的な関心ごとも踏まえて世の中に打ち出していきます。例えば、サービス利用者にメディアに出ていただき、提供価値をご自身の言葉で実感を持って伝えてもらうPR活動や、ある一定の人数が使っているサービス/ある一定の人が購入している商品など数字やデータを持って「人気・メジャー・みんなが使っている」などの「ブランド名×イメージ」を取りにいく事業/サービスPRがこれに当たります。

また、トップオブマインド(カテゴリ第一想起)は、次のフェーズ「ブランド品質」の「信頼」「共感」につながりやすいので強化できると良いです。ターゲットを絞り込んだニッチなカテゴリーでももちろん良いです。私は、クックパッド、GU、タイミーでもトップオブマインド(カテゴリ第一想起)を徹底的に取りにいくことを重視してきました

資本力があればマーケティングを仕掛けてカテゴリ第一想起を取ることもできますが、PRとして重要なことは前述にもあるように「○○○(ターゲットを絞り込んだニッチなカテゴリーでもOK)なら×××(あなたが携わっているブランド)」を取るために○○○を経営陣はじめ全社を巻き込んで設定し、徹底的にこの内容で露出の数を取ることです。マーケティング担当や部署があれば鬼に金棒なので一緒に取り組めるとさらに強いです。私はPR、マーケティングを両方同時に担当していたことも多かったのですが、「創業期」から「事業確立期」に会社のフェーズが移行する時に、PR、マーケティングそれぞれが、別の担当者になっていく(どちらかのプロフェッショナルがJoinする)ことが多いので連携が不可欠です。

「No.1」訴求について

No.1表記

ちなみに「○○業界でNo.1」というブランドイメージを付けたい企業が多いのは、競合がひしめく中でこのイメージをつけ、競合を引き離したい目的があります。ただし昨今は「No.1表記」自体の信憑性が厳しく問われており、生活者の信頼を著しく損ねてしまうことにもつながり兼ねません。訴求する際には、社会通念上および経験則上妥当な方法で、有識者や一般的に認められた客観的な調査結果に基づいて行うこと。調査範囲や期間、対象などの出典元は正確かつ明瞭に、誤解を与えないように表示することが求められるので注意した方が良いです。

タイミーの場合、タイミーを利用してくださる働き手の方が「面接、履歴書無しで自分の空いているスキマ時間にすぐ利用できて、仕事が終わったらすぐお金がもらえるというのが便利!」という声や、求人を出してくださる事業者の方からは、「必要な人手が必要な人数集まって売上も伸びたので助かった」という生の声を広く伝えることで、タイミーの提供価値がユーザー(働き手、事業者)を介してイメージが湧きやすくなり、さらにユーザー(働き手、事業者)が増える「サービス/事業に貢献するPR」ができています(私が一番会社に貢献できるサービス/事業をグロースするPRの具体的な事例と指標のリフトアップについては別の記事でお話しします)。

また「500万人が利用するサービス」という訴求や「スキマバイトでの導入社数・求人案件数No.1」というPRで「人気・メジャー・みんなが使っている」というイメージを取りにいくこともこのフェーズのPRに当たります。実際にタイミーでは第三者機関で「スキマバイトアプリに関する調査」を実施し、導入社数・求人案件数No.1を訴求していました。他にも、2022年に世の中の注目を集めた「相次ぐ物価高による値上げラッシュ」という事象においてスキマバイトをする働き手が増えたのではないか、という仮説を持ち、関係性を紐解く実態調査やワーカー数の伸びなどのタイミー独自のユーザーデータから導き出しました。この情報(PRコンテンツ)を「世相を表すことができるくらいスキマバイトが一般化してきたことをニュースバリュー」としてPRコンテンツを作成しリリースとして発表したところ、実際にNHK、フジテレビ、TBS、日本テレビなど多数の報道番組やWEBメディアでも取り上げていただき、実際に新規ワーカー数平常時の4倍以上などサービス/事業に貢献するPRとなりました。

この段階では、これまで説明してきた通り、企業としていだいてほしいブランドイメージの連想のため、データや時流などを踏まえ、多角的な切り口でアプローチをしていきます。
PR担当が1人もしくは少人数という企業もあると思いますが、このフェーズになると会社のフェーズも「事業確立期」や「成長期」となるため2名以上の複数人のチームとして動けると理想的です。またマーケティングチームとのリレーションなども積極的に取れるといいでしょう。私たちも優秀なチームのメンバーのおかげで、このファネル戦略を実現できています。コーポレートPRもサービスPRも1人で担っていて手が回らない...というPRパーソンは、まずは会社やサービスの現状を整理し、現状把握と必要なアクションを整理して優先順位を付け、リソースを必要なPR目的に集中させることをおすすめします。実際タイミーでは事業/サービスPRの優先度を上げて取り組んできました。

そしてPRパーソンがこのフェーズで注視すべき指標は、「ブランド認知」の指標に加え、ブランド定量調査(ブランドとして把握しておくべきブランド認知やブランドイメージなどの定点調査)で取りたいイメージの項目がリフトアップしているかという指標です。また、それぞれの商品/サービスにとって影響度(「どこで伝えるか」が重要なため)が大きいメディアで露出した「露出内容」がブランド連想には密接に関わってくるため、こちらの訴求したい内容(取りたいイメージの訴求)を紹介していただけたか、という露出の「質」も重要な指標になります。この指標は事業貢献および次の「ブランド品質」につながっていきます。詳しい指標については別の記事でお話しします。

「ブランド連想」にも終わりはありません。経営戦略の変更やブランドやサービス/プロダクトの成長、進化、また競合など外部環境によっても取りたいイメージは異なってくるので、「ブランド連想」活動もしつづけていくことになります。

③ブランド品質

ブランド側が私たちはこういうサービスで、使ってくれたらこんな良いことがあるとメリットを伝えるのは①、②でやってきましたが、ブランド側がいくら伝えても、生活者に信頼、共感を実感してもらえないと他サービス/プロダクトと併用されたり、リプレイスされてしまいます。

「ブランド品質」では、生活者が私たちブランドに対して感じてほしいイメージを実際に生活者に実感いただけるか、というブランディング活動に入っていきます。どこの企業にも当てはまる「ブランド品質」に注力フェーズを移行する判断軸は、自社で保有するユーザーデータから、売上トップラインの鈍化、利益率の低下などの業績不振、リピーター顧客が少ない、LTVが低い、利用/購入回数が少ないなどのFactが分かった時です。

他にも外部要因として、競合が激化してきたタイミング、資金調達などマーケティングをする資金力があり、さらなる事業成長を目指すタイミングもこのフェーズに注力するタイミングになります。このフェーズでリブランディングをする企業も多く、実際に私が携わっていたGUもこのフェーズでリブランディングを実施しました。詳細はまた別の記事でお話しします。

生活者に「実感」してもらうことが重要

②の「ブランド連想」である一定の人数が使っているサービス/ある一定の人が購入している商品など数字やデータを持って「人気・メジャー・みんなが使っている」などの「ブランド名×イメージ」を取りにいく事業/サービスPRを強化してきましたが、それによって生活者が「安心する」「信頼できる」「共感する」「○○というブランドが業界でNo.1である」と実感してくれるところまで態度変容できるかが重要になってきます。

このフェーズのPR目的は、こちらが伝えたいイメージと生活者のイメージのギャップを可能な限りなくすような、一貫性のあるコミュニケーションをしていく企業姿勢により信頼や共感につなげるPR活動です。
また何かインシデントがあった時でも変わらない一貫性のある対応や透明性、スピードなど、クライシス(危機管理)PRもこのフェーズでは特に重要になります。

このブランディング活動を積み重ねていくことで、生活者に信頼や共感が実感される状態になります。そのためには実感されている顧客はなぜ実感してくれているのか、実感していない顧客はなぜ実感してくれていないのかを定量、定性で調査して把握することが重要です。
このフェーズで注視すべき指標は、②のブランド定量調査の「実感」にまつわる項目(信頼している、共感している、満足している、安心できるなど)のリフトアップやダウンを把握することです。その結果を受けてグループインタビューやデプスインタビューなどの定性調査でどのような体験から実感されているのかを紐解き、ブランドコミュニケーション戦略に落とし込んでいきます。
もちろんマーケティングの指標としては、リピート顧客数やLTV、利用/購入回数などを見ています。PR指標、マーケティング指標、ブランド・エクイティ指標や関連性については別の記事でお話しします。

クライシスPRに関しては、もちろん対応の内容に一番重きを置きますが、対応スピードも指標とし、実際世間の反応がどうだったかを振り返って次回改善できる内容を整理します。対応方針はブランドアイデンティティやブランドパーソナリティを設定して一貫性のある対応ができるようにします。詳しくは別の記事でお話ししますが、このブランドアイデンティティやブランドパーソナリティの設定による一貫性のあるコミュニケーションや「実感」の項目をベンチマークすることが、次の「ブランドロイヤルティ」につながっていきます

スポットワークという新しい働き方のポジティブな世論形成

タイミーの場合、スキマバイト(スポットワーク)という今までにない新しい働き方を提案していたため、「安心安全に働けないのでは?」という不安が世の中からいだかれていました。当時「ギグワーク」と呼ばれた数時間単位のアルバイトは「Uber」が代表サービスで労災が保障されないことなどがメディアなどで問題視されていました(今は改善されてている部分もありますのであくまでも当時の報道です)。

現在、スキマバイト(スポットワーク)にはUberのような業務委託型ギグワークとタイミーのような雇用型ギグワーク(スポットワーク)の2種類があります。タイミーは後者の、事業者と働き手の方を直雇用の契約としてのスポットワーク(雇用型ギグワーク)を提供しています。それにより労災や最低賃金が保障されることで安心安全に働くことができ、また雇用主側からの一方的な評価ではなく労働者側も雇用主を評価できる相互レビュー機能があることなどを伝えることで労働者側、雇用主側のフラットな関係性でアルバイトができるという新しい働き方を提案しています。

メディアでの露出に加えて、オウンドメディアの「タイミーラボ」を通じて「スキマバイト(スポットワーク)ってこんな働き方なんだ」「タイミーなら今までの働き方の負を払拭して安心安全に働ける、自分らしく働ける」という土壌を作ってこれたのではないかと思っています。タイミーラボについてもまた別の記事でご紹介したいと思います。

またタイミーはスタートアップでも稀にみる速さでTVCMを実施しています。同じ内容をマーケティングで徹底的に「スキマバイトならタイミー」を訴求していました。

この一連のブランドコミュニケーションが生活者に安心感として伝わり共感していただけたおかげで、今日のワーカー数500万人(2023年6月現在)、事業者数46000社、110,000拠点と多くの皆様に活用いただけることにつながっているのではないかと感じています。

タイミーが運営しているオウンドメディア「タイミーラボ」

タイミーでのクライシスPR例

クライシスPRの例としては、「闇バイト」という短時間で高収入を得られるなど甘い言葉で募集され、法律に抵触するような犯罪行為に加担させるようなアルバイトが注目されてきた時に、働き手が誤って「闇バイト」に加担しないように「タイミーラボ」で記事公開し、タイミーアプリでもGWを含む約1ヶ月間に渡り啓蒙活動を続けたことがあります。特に学生が多く巻き込まれてしまうことがメディアで問題視されていたので、学生も多く働くGW時に啓蒙をしました。

働き手の方を1人でも多く「闇バイト」から守りたいという想いから実施し、記事のPV数は通常の50倍以上、記事に対するアンケート数は今までの記事で最も多く数百件のコメントをいただき、「タイミーは安全管理する会社だとよく分かりました」「今は手軽に単発バイトできる時代なので、何も疑わず闇バイトをしてしまうこともあるかもしれません。そのような中、タイミーさんからこのようなテーマのお話をいただき、気をつけて求人を見極めていかなければと思いました。今後ともためになる情報を教えてください」といったコメントをいただきました。タイミーの企業姿勢が伝わり、信頼・共感をいただいていると思えた反応でした。

「ブランド品質」にも終わりはなく、継続的に一貫性のあるブランドコミュニケーションをしつづけていくことになります。

アプリ内で訴求した「闇バイト」啓蒙

④ブランドロイヤルティ

ブランドに愛着を持っていただき、推奨していただき、継続的にブランド指名で使っていただけるようなロイヤルカスタマーが多い状態になることがブランドロイヤルティの高い状態といえます。どこの企業にも当てはまる「ブランドロイヤルティ」に注力フェーズを移行する判断軸は、マスでなくても、限られた業界、カテゴリにおいても競合サービスの中で第一想起されていたりなど、カテゴリの唯一無二のブランドになるためにさらなる事業成長を目指せるタイミング、資金調達などでマーケティングをする資金力があるタイミング、上場タイミング、外部要因として競合が激化してきたタイミングなどがこのフェーズに注力するタイミングになります。

行動的ロイヤルティと心理的ロイヤルティ

ロイヤルティには、行動的ロイヤルティ、心理的ロイヤルティの2つがあります。理性、感性など呼び方はさまざまですがほぼ同じ意味です。行動的ロイヤルティは「事実としてたくさん購入/利用しているサービス/プロダクト」、心理的ロイヤルティとは「心理的に好きだとかこのブランドを利用したい/購入したいと思っているサービス/プロダクト」です。

例えば、コーヒーを嗜好品としている人の一例です。あるコーヒーショップに平日毎日訪れているAさんという方がいるとします。週5日購入しているという行動により、「行動的ロイヤルティ」としては非常に高い状態ですが、Aさんは「コーヒーが好きだが導線上に1店舗しかないから仕方なく行っている」とすると、仕事場の変更等によっていつでもいなくなってしまう顧客だと言えます。Aさんは「行動的ロイヤルティ」は高くとも「心理的ロイヤルティ」の高いカスタマーとは言えません。
反対に、家から仕事場の導線にはなく「遠回りしてでも、ここのコーヒーが良い!この店舗でわざわざ飲みたい!」とそのブランドのコーヒーをわざわざ買ったり店舗で飲むBさんという人がいるとすると、Bさんは「心理的ロイヤルティ」の高いカスタマーと言えます。

パーパスの重要性

このフェーズのPRは③のブランド品質でお伝えした一貫した企業姿勢はもちろん、BX(ブランド体験)がよくないと継続的にロイヤルティを高く築くことはできません。サービス利用者(顧客)の体験を向上できる取り組み(機能や実態などのfact)を通じて、サービス/商品を体験してくださった利用者(顧客)の熱量の高い「実感」を広く感じてもらえるPRが求められます。
タイミーの場合、ブランドとして重要視しているのはパーパスをしっかりアクションにつなげること。タイミーのミッションである「『働く』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」サービスだと世の中(生活者)から思ってもらえることをブランドとしてとても重要に捉えています

タイミーのミッション

もちろんサービス/プロダクトや仕事をしている現場が1番のBX(ブランド体験)のタッチポイントなのですが、進化させていくにあたって一定時間がかかってしまう側面もあります。ですのでBXとしては他のアプローチとして、BXの向上を実感してもらえる様々な取り組みに注力してブランドづくりをしています。
タイミーでは下記の具体例があります。

「Timee Talks」

「Timee Talks〜飲食業界篇〜」受賞者発表

「Timee Talks」という昔あったTV番組の「マネーの虎」のような参加者の新しい道に一歩踏み出す機会の提供を目的に、ワーカーさんの夢や目標の実現を応援する<経験><学び><挑戦>の機会を提供する特別プログラムを実施しました。その取り組みや実際に体験してくださったワーカーさんの生の声として、「将来やりたいことが見つかった」「夢ややりたかったことに挑戦するきっかけになった」や、参加いただいた企業様の生の声として、「こんなに志の高い人たちに出会えて、自分たちがパワーをもらった、一緒に業界を盛り上げていきたいし、皆さんの夢ややりたいことを応援できる環境を用意したい」という実感の声をいただき、広く伝えることができました。

新店をアルバイト全員スポットワーカーという初のコンセプトである「THE 赤提灯」

新橋にある「THE 赤提灯」

「THE 赤提灯」というお店を「タイミー教育協力企業」のパートナー会社様を企画・運営し、独自のカリキュラムでスポットワーカーさんのスキルを可視化、スキルアップの機会をつくることで、飲食業界の人手不足を解消する新しい採用・育成モデルにも挑戦しています。こちらのお店もBXがメインとなってfact創りをしています。ワーカーさんからは「飲食の接客スキルが可視化されているので何ができればスキルアップができるかが明確で勉強になるし楽しい!」「スキルアップして経験者になっていくことで時給も上がるのでスキルアップをしていくのが楽しい」という実感の声や、パートナー企業様からも「飲食の接客を学ぼうとする志の高い方が来てくれ、即戦力になってもらえるよう独自カリキュラムを用意しているので店舗運営に支障はなくむしろプラスにこうじている」という実感の声をメディアでも広く伝えてきました。
他にも様々な取り組みをしていますので、タイミーでのブランド・エクイティ活動の詳細は、また別の記事で背景、指標を含めてお話ししていきます。

心理的ロイヤルティ=愛着・推奨が重要

この「ブランドロイヤルティ」というフェーズのブランディング活動を積み重ねていくことで、生活者に愛着や推奨される状態になります。そのためには愛着を持たれている顧客はなぜ愛着を持ってくれているのか、愛着を持っていない顧客はなぜ愛着を感じてくれていないのかを定量、定性で調査を繰り返して把握することが重要です。
このフェーズで注視すべき指標は、②、③で出てきたブランド定量調査の「愛着」にまつわる項目(好意を持っている、NPS<推奨する>、継続して使い続けたい、マストハブ<なくてはならない>など)のリフトアップやダウンの把握です。その指標を元にグループインタビューやデプスインタビューなどの定性調査、その内容を定量調査で確認し、どのような体験から実感されているのかを紐解き、ブランドコミュニケーション戦略に落とし込んでいきます。

自社のフェーズを踏まえ、PRの目的と指標を精査して注力することの重要性

このようにブランド・エクイティ活動のフェーズ(会社のフェーズや業界によっても異なります)によって同じ「PR」でも、PRの目的やPR手法、打ち出すPRコンテンツ内容も異なること、また目的が異なるためPRの指標も異なってくることが分かります。PRの露出価値を測る指標、PR部署全体の成果評価、PRパーソンの人事評価も全て同じ指標で把握でき、経営陣との共通言語にできていたものをクックパッド時代に策定しました。それをGU、現在のタイミーでも運用(その他個人事業主として関わらせていただいた多くの企業様にも活用いただいております)しており、一定再現性のあるものになってきていますが、こちらについては長くなりますのでまた別の記事でお話しします。

それぞれの会社のフェーズに合わせた、ブランド・エクイティ活動フェーズでのPR戦略のご相談や指標策定と事業へのつなぎこみ、PRパーソンの育成や部署立ち上げ等のお手伝いなど、何かお手伝いできることがありましたらnoteでもTwitterでも大丈夫ですのでご連絡ください。

このブランド・エクイティフェーズにおけるPR活動の全体像を掴めることで、PRパーソンとして、自分が今どこのフェーズのPRをしているのか、PR活動が何につながっているのか、どう会社や社会に貢献できているのかを認識することができ、PRパーソンとしてのさらなる自信やスキルアップにつながると信じています。

次からの記事では、私のメインキャリアである2008年〜2018年の約10年間携わった「クックパッド」での具体的な経験からブランド・エクイティの有用性についてお話ししてみたいと思います。


人生の可能性が広がる経験・学び・挑戦の場を提供する特別プログラム「Timee Talks〜飲食業界篇〜」受賞者発表のプレスリリース


新店をアルバイト全員スポットワーカーという初のコンセプトである「THE 赤提灯」のプレスリリース


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?