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好きなことを集めて書いて残す場所

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  • サビアン小説集

    サビアンシンボルから着想を得た小説集です。 360のシンボルを題材にしたショートショートを書くことが今の目標ですが、楽しく続けるのが大前提です。よかったら見守ってください。 ひとつひとつのサビアンシンボルは、松村潔著『サビアン占星術』を参照していますが、占星術の知識は生半可です。

最近の記事

Short messages to D

Thank you so much for your beautiful words and photos💗 I love Iceland💗 I wish I could visit there again sometime. It was funny but since the new moon in cancer on July 18, I have regained my energy😂 Now I am fully happy with my daily life

    • 石の博物館

      石はどこにでもあるありふれたものだ。しかし、ひとたび足元の石を拾い上げると、それは特別な意味を持ち始める。角のないすべすべとした楕円形のもの、古艶を帯びた表面に一筋の白い線が弧を描くもの、灰色から濃い灰色を経て薄い青緑に変化していくもの。石を拾い上げると、その石は、時にどこか私を別の場所へ連れていってくれる。 石を探しに行こう。ある日、私は同僚に誘われて奥多摩へ向かった。 7月の初旬、まだ梅雨は明けていないはずなのに、日差しが容赦なく照りつけていた。石を拾うには少し暑すぎ

      • 練習

        お掃除ロボットのルンバの大群が渋谷のスクランブル交差点の道ゆく人を次々と襲っている。というよりルンバはただ、道をお掃除したいだけなのだが、あまりにも通行人が多すぎて掃除もままならず、苛立っているように見えた。ルンバ同士は我先にゴミを一掃しようと小競り合いをしながら火花を散らして戦いを繰り広げている。人々は逃げ惑うばかりだが、ルンバも必死だ。

        • 全惑星意識

          ここ最近、自分の中の問いとして、 「日々、楽しく過ごすには、どうしたら良いか」 と考えていた。 生きていると、バイオリズムというものがあり、感情というものがあり、それまで楽しくやっていたことへのやる気が急に無くなったりする。 その変化に対して、それまでのやり方に固執しようとすると、苦しくなって、日々が楽しくなくなってゆく。停滞感を感じるわけだ。 どうも、私は定期的にこの罠に嵌まりがちな人生だった。 停滞感をなんとかやり過ごし、次の波を待つ。その繰り返し。それでも、

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        • サビアン小説集
          6本

        記事

          サビアン小説 1-6

          遥か遠い星からやってきた7人の生命体が夜の海を航海していた。一人は水先案内人であり、一人は船そのものであり、そして残る五人は客として招かれた船の乗客だ。海は至るところで渦を巻いている。この渦に飲み込まれると船は沈没してしまうわけだが、水先案内人と船は上手に渦を避けながら夜の海を航海した。 空はとても明るい。青い流星群が次々と光っては消え、遠くに見える穴から白い雷が海に向かって落ちる。赤、黄色、紫、青色の渦を作った大きな星が、上空をジグザグに移動している。五人の乗客は、この景

          サビアン小説 1-6

          サビアン小説 1-5

          夏の終わりの夜、首都高を自動二輪車で走った。私の望みはなんだろう。この夜がずっと続けば良いと思った。遠いビルとビルの間に、小さく花火が見えた。まる、ほし、まる、二重まる、さんかく、ほし、まる、さんかく、さんかく。かすかに花火の音が聞こえる。視界の先に映る小さな形を眺めながら、そうだ、今日は花火大会の日だ、と気がついた。一昨年まで、あの川沿いの家に住んでいたから、花火大会の日には毎年必ずビルの屋上で、みんなで花火を見たのだ。ほとんど幻の、はるか昔の出来事のように感じられた。時速

          サビアン小説 1-5

          サビアン小説 1-4

          人けのない路地裏に建つ、3階建てのアパートの屋根裏部屋に住む老人は、毎日飽きもせず、小さな窓から外の景色を眺めていた。新月の夜、普段以上に暗闇が立ち込める路地裏では、いつも奇妙なことが起きた。ある日は、目から光線を放つこの辺りで見慣れない黒猫4匹が、パトロールをするみたいに列をなし、四方八方に光を放っていた。またある日は、象の大群が路地裏を埋め尽くし、お互いの体を擦り付けあって、今晩食べる晩御飯についてひそひそ話をしていた。 とある真冬の新月の夜には、雨の降りしきるなか、一

          サビアン小説 1-4

          サビアン小説 1-3

          彼の祖国は、南太平洋に浮かぶマンゴーの形をした孤島だった。彼はその国で一番栄えていた村の漁師の息子だった。両親は、自分達の息子が漁師の後継ぎになると信じて疑わなかったが、彼はというと、幼い頃は海にはあまり興味を示さず、その代わり、村で唯一の図書室に通っては考古学の本を一日中読み続けた。島が所持する考古学の本を一冊残らず読み終えるほど、古代の叡智に入れ込んでいた。 しかしその後、島の人々は近くの大陸への移住を余儀なくされた。彼が成人を迎える頃には、島は海面にすっかり隠れて見え

          サビアン小説 1-3

          サビアン小説 1-2

          幼い頃から、人の前に立って芸をしたい衝動があった。ある時は美しい音楽を演奏すること、ある時はピエロのようにおどけること。 小学生の頃、当時学年で一番やんちゃだった牛尾君を誘って、学芸会で同じ役を立候補しようと誘った。じゃま草隊という、ただひたすらに主人公の道を阻む、草の役だ。黄緑色、緑色、茶色の服を身に着けて、顔を泥色に塗って、じゃま草隊は踊って歌を歌う。やんちゃな牛尾君は、私の誘いに二つ返事で乗った。私も牛尾君も、とにかく舞台の上で誰よりも目立つために張り切って演じた。道

          サビアン小説 1-2

          サビアン小説 1-1

          女は海の中では自由でいられた。女は地球上で唯一のえら呼吸ができる人間だったが、その事実を女は誰にも打ち明けることはできなかった。もし誰かに自分が二種類の呼吸ができると打ち明けてしまったら、命を狙われるだろうことは誰の目にも明らかだった。 マダガスカルから少し離れた海で、女はいつものように泳いでいた。穏やかな波が心地良い。ぷかぷかと波に乗りながら、思うがままに水中を泳いだ。いつまでもこの時間が続けばいい、と女は思った。この場所は、とても落ち着くのだ。まず、人間がいないことが素

          サビアン小説 1-1

          マケドニアの友達

          彼女と初めて出会ってから、1年が経とうとしている。2022年の5月頃、神保町にある英会話カフェでわたしは初めて彼女と会った。 大手町にある会社から神保町まで歩くことが時々あって、前を通りかかった時になんだろうと思って調べたことがあったから、カフェの存在は前から知っていた。ガラス扉で部屋の中まですっかり見える。所狭しと並べられたテーブルに人々がひしめきあって座っていて、何やら外国語を熱心に話しているようだった。なんだか気味が悪い。こういう場所は苦手なんだ。そんなことを考えた。

          マケドニアの友達

          アレクサンドリア

          少し前の朝、いつものように起き抜けにiPhoneを手に取った。2010年から細々と続けているTwitterアカウントを久しぶりに見たら、どういうわけか2、3ツイート置きにアラビア語のツイートが流入している。フォローしていないツイートがタイムラインに上がってくるのはTwitterでは日常的な現象だけど、最近、アラビア語について調べた覚えはない。 気になって、いくつかアラビア語でツイートするアカウントを見に行った。すると、何人かの位置情報のところに「Alexandria, Eg

          アレクサンドリア

          BTSと遊び

          2023年4月9日、東京は快晴の心地よい春の日、わたしはお台場まで2度目のYet to Come in Cinemasを見に行ってきた。ScreenXという3画面の立体感を味わえるスクリーンであの素晴らしいコンサートをもう一度体感したかったのだ。 BTSのコンサートを見るとき、わたしはいつも、これは今、自分自身と向き合っている時間なんだと感じる。わたしは映画館の大きなスクリーンに映る映像と響き渡る音に包まれて自分に向き合う時間がとても好きだ。わたしの内側にいるBTSというひ

          BTSと遊び

          無題

          三日間、太陽は一度も昇らないままだった。太陽は本当に消えてしまったようだった。電気は通っていたので灯りをつければ相手の表情や身体の輪郭はどうにか確認できたが、いつも光合成をしていた植物たちは、どうやら太陽を求めてひたすら上へ上へと伸びていっているようだった。私たちは皆、まるで深海の底に立っているみたいだった。

          そこまで悲しくなかった

          それは、中三の先輩が最後に演奏する時間だった。この演奏会に向けて、一生懸命練習して、ようやく披露する日を迎えたのだった。たった一人の打楽器奏者である私は、一番後方で全体が見える位置にいた。指揮者の顧問の先生が、演奏の途中で指揮をするのを止めた。そして、隣に置いてあった椅子を放り投げて、あばれだした。先輩たちは全員泣き出した。同級生も泣き始めた。

          そこまで悲しくなかった

          石おじさん

          小学生3〜4年生の頃、同級生のO君にほんのり恋心を抱いていた。 O君はその年齢にしては少し大人びた雰囲気だった。学校の帰り道、年下の子供たちと一緒に「良い石」を探し出すのが流行って、O君は「石おじさん」と呼ばれて慕われるようになった。 教室で隣の席になった時、休み時間にふたりでユニットを組もうという話になった。たぶん、音楽ユニットのようなもの。もちろん、曲はない。コンセプト先行型だ。 O君は、当時はやっていたMr.Childrenから着想を得て、Ms.Adultと命名す

          石おじさん