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グラン・パ・ド・ドゥの見方~アダージオ編~

 さて、それでは前回、「バレエの見方はある程度確立している」という私が、グラン・パ・ド・ドゥを見る自分の頭の中を文章にしてみたいと思います。

 バレエの見方は今までに様々な方が本にされています。それらは主に、演目ごとの解説が多いように思われます(そんなに読んでませんが汗)。

 最近では、海野敏さんという方が、「鑑賞のためのバレエ入門」という文章を書いていらっしゃいます。海野さんは、クラシック音楽を鑑賞する手法をバレエに適用し、「形式に注目して見る」方法を説明していらっしゃいます。

 ただ、バレエはダンサーの一挙手一投足を見るものでもあるので、形式はあくまでも作品理解の延長で終わってしまうような気がします。

 クラシックバレエは、筋をわきに置いておいて「踊り」だけを見せる、という部分が少なからずあります。グラン・パ・ド・ドゥは、そういった、筋とは関係なく踊りを見せるクラシックバレエの典型的な部分でしょう。

 今回は、バレエを踊る阿呆と見る阿呆両方やっている私が、グラン・パ・ド・ドゥの見方を自分なりに説明してみようと思います。

 取り上げる演目は、「くるみ割り人形より」金平糖の精のグラン・パ・ド・ドゥからアダージオです。

 なぜこれを取り上げるかというと、最も有名なグラン・パ・ド・ドゥの一つでありながら見るのが大変だからです(踊るほうも大変です)。

 映像を拝借したのは、「ヤマカイTV」ことヤマカイさんと「ネレアさんChannel」ことネレアさんの踊り。

 この映像はダンサー目線で語っているので、踊っている人が何を考えているのかというのも同時にわかります。グラン・パ・ド・ドゥが始まるのは1:50~です。

見方のまとめ

○グラン・パ・ド・ドゥにストーリーはない

 そもそもグラン・パ・ド・ドゥが踊られている時、物語の筋はわきに置かれています。金平糖のグラン・パ・ド・ドゥの場合、ダンサーは王子様とお姫様の風格を表現します。が、それ以上でもそれ以下でもありません。何を表現しているか、強いていうなら、喜びと幸せだと思います。ダンサーが常に上品に笑顔を浮かべて踊る作品だからです。それを頭に入れて、純粋に踊りを楽しみます。

①見ている時の意識はどこにあるか

 私たちは本を読む時に、本の中の主人公と一体化したり、離れて見たりしますよね。グラン・パ・ド・ドゥのアダージオを見る時もそれと同じです。自分はダンサーと一体化したり、たまに離れて見たりします。特に女性ダンサーに意識を向けているようです。これをしないと、だんだん頭がぼーっとしてきて、寝ます。アダージオはゆったりとした優雅な雰囲気で踊るものなので、華麗な回転や跳躍はまだ出てきません。女性がいかに爪先立ちで踊るか、男性に持ち上げられるかを見ます。

 また、ダンサーと一体化すると同時に離れて見て、動きを分析します。私は心の中で言葉にするくらい意識的に一挙手一投足を見ます。特に金平糖の演目はそれくらいやらないと眠くなります。

②注目の箇所

 見るのとやるのは大違い、という言葉があります。男性の支えがあっても片足爪先立ちでいるのは体幹と筋肉が必要です。何秒立っていられるか、どれだけバランスが安定しているか、というのも見るポイントの一つになります。

 また、動きをどれだけ滑らかにつなげられているか、また、どれだけメリハリをつけて踊っているか、ということに注目します。これはダンサーが踊りをどう解釈しているかを理解することにもなります。

 そして、「おお、すごい!」となってほしい部分があります。それが、リフトと呼ばれる、女性が高く持ち上げられる動きです。男性は女性を頭の上まで持ち上げないといけませんし、女性は体幹と筋肉を使って姿勢を維持しないといけません。二人の呼吸が合って初めて成立する部分で、息をのんで見てほしいです。

③感情はどうなるのか

 正直に言ってアダージオは感動させるためのものでも、技術を見せつけるためのものでもありません。終始見ている側の感情は盛り上がることなく、平坦のままです。私は1回だけ、アダージオを見て感動して泣いたことがあります。それは菅井円加さんというダンサーが「海賊」グラン・パ・ド・ドゥをどう踊ったかということに対して感動したからです。こういった体験は今のところ1回だけです。

④音楽を聴く

 アダージオは1音1音に対して振付けられている部分と、音を流して振付ている部分があると思います。音がどう表現されているのかを見ることも良いのかもしれません。

 それだけでなく、チャイコフスキーの音楽は非常に美しい旋律です。見るのに疲れたら音楽に耳を傾けるのもありです。ちなみに私は「白鳥の湖」の第2幕アダージオを見る時、「眠れる森の美女」の第2幕パノラマを見る時、それから「海賊」グラン・パ・ド・ドゥのアダージオを見る時は、楽器のソロを聴いています。見てますけど、耳は音楽に傾いています。

終わりに

 以上が、グラン・パ・ド・ドゥのアダージオの見方として私が考えたことです。見るのが難しいと言われている芸術は、どれだけ意識的に見ることができるかという問題なのだとわかりました。意識を持って見るとは、比較の視点もあるかもしれません。自分が過去に見て来た金平糖のグラン・パ・ド・ドゥと、現在見ているグラン・パ・ド・ドゥの踊り方を比較する。そこで初めて感想が生まれてくると思います。いやー難しいなぁ。

 ところで、私はクラシック音楽の聴き方がわかりません。クラシックの鑑賞通の方々にも頭の中を言語化して見せてほしいなと思っているのですが。

 ここからは参考までに頭の中をお見せします。この作業をやってみて、自分がグラン・パ・ド・ドゥでどこを見ているのか再確認できました。

アダージオは1:50~始まります。

1:50 意識はダンサーの登場にあり。どのように歩くか(もたついていないか、音楽に合っているか)、二人でそろっているか、衣装はどのようか、

2:09 女性ダンサーを見る。脚と甲の線が非常にきれいです。さすが、ローザンヌファイナリスト。右脚の動きを目で追います。

2:12 前脚を挙げるのは柔軟性と、床を押す力、上体を上に押し上げる力で行われます。ネレアさん結構脚上がりますね。

2:16 片脚で1回転して男性の肩に手を置くのがポイント。これを滑らかにやるのは大変なことです。ネレアさんはバランスが安定しており、音楽にもきちんと合っています。

2:22 ここで軽々と3回転していますね。これもしっかり立っていないとできないことです。

2:26 ここで気付いてほしいことは、女性ダンサーがやっと爪先立ちから下りたということです。左脚で立つ時間の長さは約17秒あります。立っている間に何回回っているでしょうか。立っていて大変なのは、床を押す力がだんだん弱くなってくることです。押す力が弱くなると、膝が曲がり、上体を押し上げる力もなくなるので踊りが続かなくなってしまいます。こうならないために姿勢を維持する筋力が必要なのです。

2:28 片脚で立つ前の動作も爪先が伸びていてとてもきれいです。

2:29 ここからはもう一度同じ動きになります。頭の中はさっきと同じことを考えているか、ぼーっとしているかです。

2:51 ここから女性ダンサーは別の動きに入ります。爪先立ちのまま移動します。滑らかできれいです。

3:01 このあたりで注目してほしいのは、男性に支えてもらう回転から脚を大きく上げる動きです。体柔らかいですね。3:06で正面を見て一度止まっています。次の動きです。女性ダンサーの動きを目で追います。

3:17 ここから男性に飛び込む振りが増えていきます。まず第1回目は、飛び込むのではなく・・・

3:20 横に上げました。この後は再び後ろに大きく上げて、ゆったりと脚の動きを見せます。

この辺から私は頭がぼーっとしてきます。動きを滑らかにつなげられるか、しかし、メリハリを持って踊っているか、というのがポイントになりそうです。

3:37 さっきの動きを左から。左右対称が美の基本だそうです。

3:50 ここの、右脚の曲げ方に注目。バレエは外に開くのが基本なのに、これは膝が軸脚に対してまっすぐ前を向いている!

4:02 ここからはずっと女性ダンサーと一緒に踊っているつもりで、目で追います。動きの終わりは全て脚を後ろに高く上げているようです。

4:14 このアダージオは見るのが大変な理由がわかりました。全て右と左を両方やっているからです。これ、踊るほうも大変みたいです。お教室の先輩が練習で苦戦していて、本番では諦めたような踊りをしていました。この踊りをキラキラしたものに見せられるのも、技術力と表現力と共に、解釈の力も必要なのかもしれません。

4:46 この辺まで来ると、あ、右やって左か、という流れがわかったような気がしてきました。

4:55 ここから少し動いてます。女性の動きを目で追って、頭の上まで持ち上げられて、下ろされて、回ったあと、どうやって止まっているかに注目してぼーっとします。

5:16 女性ダンサーが"This is more stressful"と言っていますが、ここから再び女性の動きを目で追います。回って、脚を挙げて、という動作を心の中で繰り返しました。結構ヨロヨロしているように思えますが、不安定に見せないのがプロですね。

5:46 アラベスク多いな

5:52 ここからリフトだ!これは振付を知っているので、こういった次の予測ができます。

5:55 持ちあがった瞬間、わ、すごい!と思いました。滑らかにできているな、という動きの流れを感じています。

6:03 はい繰り返しー

6:14 ここは見せ場、拍手をするところです、と頭で思いながら見ています。実際、止まるのは大変そうです。

このあとは音楽の盛り上がりに対して振りはつなぎとして入っているな、薄いなと思っていた自分がいます。

6:41 ここはバランスの見せ場だそうです。ダンサーの体力はすごいな、と思います。

6:57 この辺からは回転の見せ場です。完全に飽きている自分がいます。女性ダンサーは何秒立っているんでしょうか。

音楽に合わせて、ポーズを決めるダンサーを目で追います。女性しか見てないな(笑)

7:30 拍手ーーー!

これで終わりじゃないんです。グラン・パ・ド・ドゥは終わりのお辞儀も長いんです(笑)これは私もやったことがあるのでわかります。観客に向けたお辞儀は2回なので、ダンサーが観客に向いた時に拍手を強くする感じで見ます。

~終了~

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