朝井リョウ「どうしても生きている」よがり論
こんにちは、まいへいです。
今回は朝井リョウ先生の「どうしても生きている」を読んだよがり論を展開していこうと思います。
朝井先生は同年代という事もあり、勝手に親近感を持っている私ですが、もちろん彼のように上手な物語は書けないわけで。
だからこそ、私にとっては親近感と尊敬を同時に持っている数少ない作家さんです。
そんな朝井先生、個人的な感想ですが、ここ最近の描写がとにかく繊細。
もともと人の心の中を見透かす描写が得意な作家さんですが、最近はとくに顕著。
さらには、老若男女問わず物語の人物描写の幅を広げている印象を持っています。
今までも多く朝井先生の作品を読んできましたが、どちらかというと先生自身と年が近い同年代の問題や心情に寄り添うのが得意、という印象でした。
それがこの「どうしても生きている」で固定概念が大きく転覆。
繊細な年代の男女を書き分けられるほどに成長されていて、とても感動しました。(上から目線ですみません)
多様化が進む中でも、人々の悩みの変化はそんなにないわけで、あるとすればSNSなどを通して得る情報過多が故の葛藤ではないかと思います。
そんな「なんとなく生き辛い、でも上手く説明できない」現代人の心を物語を通して炙り出してくれる、そんな作品です。
物語は短編になっているので、区切りをつけて読むのに最適。
寝る前や仕事の休憩中、少し本が読みたいな、そんな一休み感覚で読むことができます。
しかし内容はディープなので、人によってはどんより落ち込んでしまうかもしれません。
作中の登場人物はさまざまな年代の男女。
みな日々を一生懸命生きているけれど、鬱積したものを抱えている。
まさに「現代の私たちに通ずる」ものがある人たちばかりです。
複数の話がある中で、私が特に気に入ったのが「そんなの痛いに決まってる」。
メインは転職をした30代と思われる男性。
結婚をしていて最先端のIT企業ベンチャーに勤めている。
妻はEC事業を展開する企業に勤めるキャリアウーマンで、はたから見れば羨ましい限り。
それでも、少し中側を覗くと黒々とした渦がゆっくり回っているのが見える。そんなお話。
私が気に入ったポイントは、読者の脳内変換ストーリーを快活に裏切るところ。
イケてるITベンチャーに勤め、妻もキャリアウーマン。そして休日を合わせて食事を摂る仲睦まじい情景が描かれている。
だからこそ、話の流れ的に妻と仲睦まじくやっているように見える。
誰もが働きたいと思うIT企業で働く反面、内情は全くの別物で、上司からの言葉に出さないプレッシャーや会社の沈みゆく船感。
前職場の尊敬する上司の意外な一面など
上手くいっているように見せて【実はそうじゃない】ポイントが盛りだくさん。
現実世界で起きていてもおかしくない事柄ばかりで、ゾクゾクした興奮とスリリングなミステリー感が味わえる。
あまり話すと実物の魅力が削がれるので、気になる人は本書を手に取ってもらえたらと思う。
この男性以外にも、鬱積した気持ちからSNS特定が上手くなる女性、妊婦なのに仕事に駆り出され思わぬ災難に見舞われる女性など、さまざまな状況下に置かれた登場人物がでてくる。
この本の中に出てくる人たちは、誰か一人は必ずあなたと似た、もしくはあなたの気持ちを代弁してくれる人物。
朝井リョウ先生のすごいところは、「分かっているし感じ取っているけれど、言葉にできない思いを物語を通して教えてくれる」ところ。
日々生活に追われ、目の前のことに精一杯になっていると、自分が少しずつおかしくなっていくことに気付かない。
しかも“少しずつ”だから、当人は気付かない。
でも、おかしくない状態で生きていくこと自体が難しい現代で、おかしいことをおかしいと言わず「それでも生きている」ことの重要性を教えてくれる。
それがこの「どうしても生きている」。
きっとこの本に出てくる人物たちは、無数にいる現代人の中でピックアップされた数少ない主人公たちなんだろうと思う。
だから、あなたも主人公になれる。
少しずつおかしくなっていっても、生きている。
どうしても生きている。
そんなことを朝井リョウ先生は伝えたかったのかな、と感じた本でした。
以上、「どうしても生きている 著者:朝井リョウ」を読んだ、よがり論でした。
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