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【ネタバレ有】映画「市子」感想

川辺市子は不幸である、とは思えなくて、
幸せでもないけど、
長谷川義則さんに救いを見出した私でした。

市子には戸籍がない。これは母親がちゃんと届け出をしていればよかっただけのことだが、そもそも論を言い出すと全てが崩壊するのでやめます。
ちっちゃい頃は幸せだった。家族4人で幸せだった。戸籍という誰もが「普通」に持っているものが無くてもとりあえず幸せに暮らせたけど、あくまでも「とりあえず」だった。
筋ジスを患っている妹の月子を殺して、小学校からは月子の戸籍を使って生きてきた。ただし年齢を偽っているため実年齢より3学年下になっているので、本来なら4年生になる年からということ。

医療器具を用意してくれた義父から性的虐待を受けていたのが高校生の時、つまり実年齢だと大学生くらいの時。義父を殺して、学校で彼女と親しかった北秀和も協力して、事件は自殺で片付いた。

長谷川くんに焼きそばをもらって、市子と名乗って、浴衣かわいいって言った。それが初めて会った日のこと。プロポーズの時には浴衣をプレゼントされた。いや、長谷川くんヤバいよ、そのチョイスはヤバい。
人と一緒に生きる幸せを知った。長谷川くんと一緒にいた3年間は幸せだった。
花火もそうだし、焼きそばもそう。何でもないものに対して「好き」と言っているのが印象的でした。長谷川くんも、何というか、ザ・普通という感じの人だったから、市子はとにかく「普通」が欲しいのだろうな、と。
ただし、普通になるためには戸籍が必要で、戸籍を得るために過去を調べられたら一層「普通」は市子から遠ざかる。市子は「普通」になれない。無戸籍であるせいで、生まれてからずっと「普通」でいられなかった。

けだるい夏の暑さと対比して、結末で殺されたのは北と冬子、ですよね?
長谷川くんと出会ったのも別れたのも夏で、月子を殺した日も義父を殺した日も全部夏だったけど、これからは冬子として生きていく。

自分が川辺市子であるということは本当なのに、川辺市子として生きるためにたくさんの罪と嘘を重ねた。俺しか救えないと言っていた北でさえ、嘘はいつかバレるって市子に面と向かって言っていた。
あれは最悪の言葉だな……
義父を殺したすぐあとに市子を抱きしめてくれたのが北だった。あれは、その時は救われただろうけど、ケーキ屋さんまで来て最悪の台詞を吐いていきました、うん、君はただのストーカーだね。てか、罪を知っているから、ストーカー以上に邪魔だよ。

市子として自分を見てくれる人は長谷川くんだけだった。その長谷川くんは、市子本人がそのことを知っているかどうかは分からないけど、探しまくってくれたし、真実を知った時には泣いてくれた。長谷川くんだけは、本当の意味で市子をわかってくれていた。長谷川くんの手をよじ登る弱ったセミみたいに、市子はまた長谷川くんと一緒に暮らせるって、信じたい。

記憶頼りだから多少ニュアンス違うと思うが、以上。

戸籍を作って全ての人間をリスト化できることを「普通」と捉えるのって、変なのかもしれない。市子は「普通」を求めていると思うけど、市子にとって「普通」とは何? 戸籍は本当に「普通」のものなの?
そもそも戸籍自体人間が作り出したものであって、昔は存在しなかった。全ての人を紙にまとめると便利でもあるけど、弊害も出てくる。その弊害に対処するための300日間はどーのーこーのという制度によって、また弊害が出てくる。市子は戸籍制度の犠牲となってしまっているけど、、
殺人はダメです。市子にとっては、邪魔者を排除したり都合の良い人を利用したり、生きるためには必要だと思っているんだろうけど、殺された人たちにだって人生があるんだから。
「普通」になるのは罪を償ってから、と思った。

ねえ、冬子なんて似合わないよ。


画像引用元
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/index.html


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