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Q-Tip

 NYCで私がしていたことといえば、昼間はジョギングや近所散策、セントラルパークのプールでぼーっとしたり映画見たり、なんとなく音楽制作、夜は歌ってチップをもらって酒飲んで寝る、という感じ。よくお金続いてたなぁと今更ながら感心してしまうが、思えば、お金使わなくてもいい事ばかりやっていた。

NYはそこに居るだけでエネルギーが足の下から湧いてくるのを感じる。ものすごいパワー。歩くだけで音楽が鳴る。ビルだらけのはずなのに視界は広くて明るい。全身全霊で生きてるって実感できた。1ブロック歩くだけで何人の人に声をかけられただろう。会う人はみんなお友達みたいな気分だけど距離は上手に保ってる。私って最高!NY最高!!って毎日思ってた。
だから、ピアノバーで一緒に働こう、楽だよって日本人の女の子に言われた時は頭の中が???だった。楽って何?楽になりたくてNY来てるの?なんでNYまで来て日本人相手にキャバクラ勤めしなきゃいけないの?別にお金に困ってなかったし興味はない。同じ時間を使うなら私は歌っていたい。

NYの人は良い歌をうたえば、それに見合ったチップをくれる。チャンスだってそこらへんにごろごろ転がっている。バーで飲んでいて、お店の人やお客さんとの会話の中、日本人でソウルミュージックを歌ってるって言ったら、「じゃぁ、ちょっと歌ってみる?」と、軽いノリで声がかかる。それがチャンス。私はいつでもどこでも歌えるように準備だけはしっかりして出かける。絶対にチャンスは逃さない。あとはそこでお客の魂を掴めるかは自分次第。拍手喝采で良い時もあったし、全然聴いてもらえない時もあった。
NYの人は何が好きで、何を求めているのか。その場の雰囲気を感じて選曲して構成を練って、たまには実験的な事もして、常に貪欲にパフォーマンスの質を上げる事を考えていた。日本語で歌うのは特に好まれてたかも。意味はわからないけれどマーヤの魂は伝わるよ、と感想をもらう事が多かった。コメディクラブの転換の合間に歌うのもアメリカっぽくて好きだったな。一回のショーで500ドルくらい稼いだ時もあった。ボイトレは一回400ドルだから、それとほぼお酒に消えてしまったけれど。

 ある日、ブルックリンのバーでいつものように歌って、気分も良くて一人で外を散歩していた。私はただ黙々と無心になって歩く癖があって、どこにいるのかわからなくなる事がたまにある。その時もそうだった。
いつのまにか危ない通りに入っていた。とにかくここを出なければ、と勘に従って周りに十分注意しながら早歩きで通りを渡った。しかし、気づいた時には遅かった。一瞬、ふわっと体が浮いた。大きな男に担がれたのだ。あぁ、もう私の命はないかも、と恐怖がよぎった。力も入らずぐったりした。すると突然笑い声と共に、「さっきバーで歌っていた子だね。ここは君のような子が一人で歩くには危ない場所だよ。見つけたのが僕たちでよかったよ。」と独特なとても良い声で話しかけてきたのがQ-Tipだった。

NYのgood vibesを感じながら過ごした日々についてかいた曲。

https://youtu.be/_X7Wl_LscOE

#NY #mahya #エッセイ #ニューヨーク


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