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石碑がすり減るのは、ライトアップのせい。

あるところで、「インサイトとは何か?」の講義をする機会が最近ありまして、そこで久々に引用して話した、僕が大事にしている逸話。

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ワシントンDCにある、アメリカ建国の父【トマス・ジェファーソン】を称えた【ジェファーソン記念碑】なるものがあります。そこに、碑文が刻まれた大きな石碑があるのですが、その文字が最近、磨り減って見えなくなってきているということで、アメリカ政府は石碑の建て直しを検討します。予算占めて2億円。検討委員長にある男が任命され、建て直し計画は進みます。

ただ、その男は単に新しい石碑を発注するのではなく、「なぜこんなに石碑が磨り減るのか」ということに疑問を持ちます。そこで、個人的にその原因を”探偵ごっこ”のように究明し始めました。

ここ数年、急激に石碑が磨り減った原因は単純なことでした。「掃除夫の磨きすぎ」。男は磨く頻度を減らすよう、検討委員会に挙げることを検討します。人件費の削減にもつながるし、一石二鳥だと。でも、男は踏みとどまって、「なぜ掃除夫はここ数年、磨きすぎるようになったのか。」を考え始め、実際の掃除夫にヒアリングをします。

これまた、答えは単純なことで、「ハトのフンがここ数年、特にひどい」
ということでした。フンで汚れてしまって、掃除せざるを得ないと。空砲を撃って追い払う・エサやり禁止を厳格化するなど、お金はかかるけど、しょうがないと。でも、また男は踏みとどまります。「なぜ急にそんなにハトが増えてしまったのか。」 掃除夫だけでなく、記念公園によく来る一般の人たちにもヒアリングします。

答えはすぐに見つかります。「そういえば、クモがとても増えてきている気がする」。言われてみれば、木にクモの巣が蔓延っています。そしてそのクモは、ハトのエサになっているだろうと。では殺虫剤を定期的に撒いてクモを除去すればいい。お金はかかるけど、掃除が減ればそれもよしとしよう。委員会がそうなろうとしてもまだ、男は踏みとどまります。「なぜ、クモは増えたのか。」まだまだヒアリングは続きます。

小さい頃からずっとナショナルモールに通っている人にヒアリングして、その答えはようやく分かりました。「ここ数年、ガがとても多くなった」。クモはそのガをエサにし、そのクモをハトがエサにし、結果、糞害がひどくなって掃除夫は石碑を磨きすぎていたわけです。一件落着、ガを殺虫剤で殺すべし。ところが男はまだ粘ります。「なんでそんなに急にガが増えたわけ?」

この答えはヒアリングでも出てきません。考えすぎて夜になってしまったナショナルモールを歩きながら、男は気づきます。糞害がひどくなってきた3年前とちょうど同じタイミングで、石碑の周りのライトアップが始まったのでした。原因は、その灯り。灯りに引き寄せられてガが集まってきてしまっていたわけです。

では、解決策は??
男が委員会に出した答えは、「17時からのライトアップを1時間遅らせる」。ジェファーソン記念碑のライトアップは、ナショナルモールのほかのライトアップより早い時間に始まっていたのです。しかも夜行性のガが飛び立つ”ラッシュ時”にドンピシャでかぶってしまい、だから、そこだけにガが集まってきてしまっていた。

ライトを一時間遅らせると途端に、糞害はおさまり、石碑の磨耗もおさまりました。一時は石碑新調で2億円かかるはずが、ライトアップを毎日1時間短くすることによって、光熱費削減との相殺によって、計5000万円の支出で済んだそうです。


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この話は、うちがnoproblem school の二期生だったころ、特別講師として授業を持っていただいた当時Wieden + Kennedy TOKYO のストラテジックプランナーだった吉田透氏(現ネイキッド・コミュニケーションズ)が話してくれた逸話。細かいことが事実なのかどうかはあんまり重要ではなくて、吉田さんが言いたかったのは・・・

『物事の因果や真相は、どこでどうつながっているのか、分からない。だからこそ、面白い。この話だって、聴いてて面白いでしょ??「なぜ?」を繰り返すことによって、最善手は見出される。』

ということなんだろうなあと。慮るのって、大変なんだよね。でも、誰も気づけていないことに気づけた瞬間はサイコーに面白いし嬉しいと思う。「だったら、君はストプラに向いてるよ」って吉田さんに言ってもらえたのはとても心強かったんよね。頑張ろう、っていう自分のお話でした笑 9年前に聞いて、折を触れて思い出すことを改めて書いてみました。

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