俳優志望の女の一日
女、鏡をみていた。
机の上のノートパソコンには俳優講座のホームページをみている途中であり、
フライパンには作りかけのチャーハン。
ジグザグの髪の毛は一部緑色に染めている。
俳優講座には人一倍詳しくなっていったが、
実際に通ったことはなかった。
鏡を見つめながらため息をついた。
机の上の通帳を手に取り、眺め、タバコに火をつけた。
永久に貯まっていく貯金。
タバコはやめられない。
なのに貯金は貯まっていくのであった。
俳優に憧れたのは下北沢の小劇場で演劇をみてからであった。
そのことを知っているひとは、親友のみだった。
最近は、誰とも口を聞いていない。
通帳を眺めながら女は、今まで、使い道など考えることはなかった。
お金は貯めるものだと思ってきた。
それに、特別欲しいものはなかった。
しかし、俳優講座のホームページを時々みてしまう。
今日も仕事に行く。
高校を卒業してから最初に就いた職を続けていた。
安定した仕事。溜まりゆく貯金。毎日、規則正しい生活。
しかし珍しく、やりたいことがあった。それは、もう一度演劇をみることだった。なんでもいい。
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