Pアイランド顛末記#38

★ステレオボイス

 真っ赤なタイル張りの床。ピカピカ光っている。マルコムのウエスタンブーツが音をたててその上を歩いた。床いっぱいに散らかったウオッカの瓶。古い絵はがきやパンツ、ハイヒール、様々なゴミ屑が、とがったブーツの先に引っかかってはヒステリックに払い落とされる。マルコムは、またウオッカのグラスを空けた。もう何杯目なのかもわからない。そんなことはどうでもいい。これは祝杯じゃないが、その一歩手前ってとこだ。グラスに氷をひとつかみぶちこみと、とろりとした液体をなみなみとそそいだ。

 ピッとアラームがなって、壁の液晶画面が光った。画面のなかには、おそろいの体操着を着た色白の二人の男が、顔面を緊張させて立っていた。一人は左目の下にでかい泣きぼくろがあり、もう一人は右のほおが始終ぴくぴくけいれんしている。ふたりは兄弟。マルコムの手下のなかでも、もっとも腕っぷしが強いといわれる、ステレオボイスブラザースだ。マルコムは、焦点の定まらない眼でふらふらと画面をなめまわし、疸のからんだ声でどなった。

「カム!イン!」

 鋼鉄製のドアが開き、二人がはいってくる。
 マルコムは部屋の中央にかしいでつっ立ち、横目でステレオボイスの二人をにらみつけた。二人はその眼つきに震えあがった。

「遅かったな、ずいぶんとよ。おかげでまた空き瓶がふえちまった。」

 兄の泣きぼくろがおそるおそる口を開く。

「すんません。あの、ボス…でがけに、Dを一発キメようか、どうしようかって、こいつともめてて…。」

 マルコムは、手でその言葉をさえぎった。

「五日間やる。イオを連れてこい。」

 弟の頬がひときわけいれんした。

「イオ?」
「そうだ。蛙じじいの茸の胞子は、絶対イオが隠しているに違いねえ。」
「でも、ボス…。」
「もし、五日間の間につれてこれなかったら、おまえらのおふくろの命はないと思え。」

 ふたりは凍りついた。
 蛙じいさんが死んで3日目の深夜だった。


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