Pアイランド顛末記#44
★クジャク
クジャクが蛙じいさんを求めてしきりに鳴いている。蛙じいさんが死んで7日目。ローズ園芸パークの温室には、訪れる人影もなかった。クジャクは、時計草の花をついばみながらじいさんの現れるのをずっと待っていた。
温室のすみで音がする。人の気配にクジャクは頭をあげた。しかし、じいさんの匂いじゃない。もっと甘くて、生き生きしている。クジャクはその匂いを胸いっぱいに吸い込んでぼろぼろの羽を広げた。
イオは目の前に突然ひろがった孔雀のはねに戸惑ったが、すぐに微笑み、手をさしのべた。もうすぐヒロシがやってくる。
もちろん、この小さな島で、マルコムから逃げられるなんて考えてもいない。でも一応、追いかけっこしてみたかった。
「あっ孔雀じゃん。これ。」
ヒロシの声。
「なんか、いたのよ。」
「へえ、きれいだ。」
孔雀は、うれしそうにぴょんぴょんと飛びあがった。
「あっち、温室の隅に地下室があんのよ。」
「ボイラー室かなんか?」
「わかんないけど。」
ふたりは、枯れた蔓植物をかきわけ、地下室にむかった。
コンクリートのじめじめした階段をおり、錆びついたドアをこじあける。ぎしぎしとドアが開いた。かび臭い空気がひんやりと流れでてくる。十畳ほどのコンクリートの空間に、何年ぶりかで外の空気が吹きこんだ。錆びたダクトがからみあい、天井にとりつけられた、小さなあかり取りの窓から太陽の光がさし込んでいる。コンクリートのひび割れから侵入してきた蔓植物が弱々しく壁をはっている。ヒロシは湿っぽい床に座りこむと、紙袋のなかからお好み焼きのパックをとりだした。
イオは、なま暖かいお好み焼きを頬張った。
「まずいね、これ」
「そうか?」
「でも、なにかしらね。マルコムおじさんのほしがってるものって。あたし、ずうっと考えてるんだけど、なあんにも心当たりないのよね。」
「あのおっさん、何考えてんのかわけわかんねえからなあ。頭狂ってるし。」
二人は、夜になったら蛙じいさんの所を訪ねるつもりだった。イオの脳裏をテレビ電話のなかでニヤニヤ笑っているマルコムの顔がよぎった。イオは身震いをした。
その晩は月が出なかった。
イオとヒロシは、茸堂の地下室で蛙じいさんの腐乱死体をみつけた。ヒロシは吐き、イオは気をうしなった。
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