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『自分の人種について考え始めた/『マスター・オブ・ゼロ』を見て(前篇) 【Guest:坂田夢真】 / あの日の交差点』

この記事はPodcast『あの日の交差点』の『自分の人種について考え始めた/『マスター・オブ・ゼロ』を見て(前篇) 【Guest:坂田夢真】』の参考資料です。放送と合わせてみていただけると幸いです。

この番組はみなさんとカルチャーとの出会い、つまり『あの日の交差点』に立ち戻り、その延長線上の”今”について話すというコンセプトの番組です。
いつの日かこの番組がみなさんにとって『あの日の交差点』になったらいいなと思っております。

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「日本は平和だから好きだけど、平和すぎていろんなことを忘れてしまう」(Superorganism オロノ)

BLMだなんだと考える前に自分が考えるべきことがあるのではないか。(もちろん、向き合うべき問題だし、外に目を向けるからこそうちのことがわかると言うことはしばしばある。)
このところ、見る作品にこれでもかというほど関連してくるのがジェンダーやBLMだ。
ジェンダーに関しては自分ごととして考えやすい。いや、むしろ、自分ごととして考え過ぎて、自分は生まれながらにして加害者で悪なのではないかとさえ思うこともある。
一方で、BLMについては自分ごととして考えるのはなかなか難しい。日本に住んでいると他人種の方と関わることは少ないので、BLMの熱量と深刻さと課題の重さを肌身に感じることは少ない。
BLMは対岸の火か?と問うていた頃に、自分の人種について考え直すきっかけとなる作品を見た。

ドラマ「マスター・オブ・ゼロだ。
インド系(2世)の主人公デフと、その友人として黒人でレズビアンの女性、台湾系アメリカ人の男性などが登場し、白人社会で生活するマイノリティならではのエピソードが繰り広げられるコメディ。ハイセンスなコメディドラマなので、設定やセリフだけ見ると耳を塞ぎたくなるテーマを驚くほどコミカルに描いている。印象的なシーンやフレーズはたくさんあるものの、ここで挙げるとするならばこれに限る。

「マッチングアプリで、アジア人男性は黒人女性の次に人気がない」(正確な言い回しは忘れた。)

文字で見ると、少々面食らってしまうほど生々しいセリフなのだが、あくまでコミカルなのがこのドラマのすごいところ。
主人公は2世といえど、インドにルーツを持っていることから、アジア系、黒人としての数多の不条理に直面する。上記のフレーズもその一つだ。

ここで、冒頭のオロノの言葉に戻る。

「日本は平和だから好きだけど、平和すぎていろんなことを忘れてしまう」(Superorganism オロノ)

BLMのように人種に関して自分ごととして捉えられない自分はまさに、日本ではマジョリティにあたる人種に属しているから、人種問題に関しては”平和すぎ”たのかもしれない
しかし、日本という国を一歩出ると自分は自分ではなく日本人。いや日本人というよりアジア系。なんならChineseやKoreanと言われる方が多いかもしれない。冷たい視線を向けられ、COVID-19をアジアンウイルスと呼ばれ、道を歩けば「チンク」と罵られる。そして、次の一節を思い出す。

I was just a little boy.
Smelled a like soy
Couldn’t find a place but that’d let me in
That’s the way the things have been
(Mosquito Bite/[Alexandros])

自分は一人の人間として見られるのではなく”アジア系”として見られる。そして、ことマッチングアプリにおいては積極的に連絡を取ってくる人は少ない人種でありジェンダーなのだ。
自分が日本人であることを強く意識したことも、アジア系であることを強く意識したこともなかった中で、冷笑と軽蔑に晒されるアジア系を描いたこのドラマは衝撃的だった。

そして、自分が平和であることは、同時に誰かを虐げている可能性を孕んでいるということまで教えてくれる。日本において、日本生まれで男性であることは依然として有利な立場なのかもしれない。有利な立場にいるものはそのことに無自覚である場合が多く、自分自身「どの点で有利か」を明確に指摘できないのがそのことを如実に表している。マイノリティや歴史的な弱者はもちろん苦しいが、マジョリティや歴史的な強者もまた自身のバックグラウンドに苦しむのだとわかってきた。自分は自分と割り切れたら楽なのだろうけど、そこまで自分は信用できないし、ラベリングの怖さでもある。
(〇〇人と呼ぶことも少しずつ減ってきているかもしれない。代わりに耳にするのは日本語ネイティブや英語ネイティブといった言葉だ。)

(つづく)

↓後編



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