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自分の人種について考え始めた(後編)


前編はこちら↓


そして、ひとくちにアジア系といってもアジア圏は広い。中国人や韓国人と間違えられても腹が立つのに、ましてやインド人まで一括りにしてアジア系というには乱暴すぎる。
そもそもアジア圏の中でもそれぞれをちゃんと認識できていないし、デフがおそらく日本人である男性を見て「アジア系が…」と冷笑するシーンにはそのような皮肉が込められている。
我々は常に加害者にも被害者にもなりうるし、現に今なっているかもしれない。
アジア系と一括りにすることの乱暴さは、白人・黒人などと一括りにすることの乱暴さを教えてくれる。ラベリング恐るべし。
人は必死に名前をつけること(ラベリング)で物事を理解しようとして、そして、そこから逃れる努力をしなければならないのだから、なんだかバカらしいけれど避けては通れない。

しかし、やはり、世界におけるアジア人、特に東アジア・日本の認識はまだまだ甘い。
日本人も韓国人も中国人も彼らからしたら同じだし、アメリカ映画が描写する日本は実際のそれと驚くほどギャップがある。(『アベンジャーズ:エンドゲーム』の日本描写は目に余る)

日系の母、白人の父を持つ主人公リリーと白人のダッシュの恋模様を、ニューヨークを舞台に描くクリスマスドラマ『ダッシュ&リリー』もまたアジア系を描いた作品だ。リリーがダッシュに対して「言葉が通じないということがどういうことか味わってほしい」とダッシュを日系女性が餅を作る教室に通わせるシーンがある。このシーンにおける「餅」も、また別のシーンの「年越しそば」も「お年玉」も全ては日本を表す記号のようにしか見えない。極め付けはBGMとして流れる「上を向いて歩こう」だ。2020年が舞台のドラマで、日本を描写するにはあまりに時代のギャップがある選曲に思える。ここにも、まだまだ日本の認識の齟齬が感じられる。

また、同シーンで日本人女性は「無口で堅物」といて描かれており、リリーもダッシュに対して「Listen to mochi(餅の声を聞け)」と言う。この日本的精神が良くも悪くも浸透しつつあるのは、海外で爆発的な人気になった「KonMari」こと近藤麻理恵の「片づけ術」、こんまりメソッドの影響も大きいだろう。

上記の作品群や中国系アメリカ人の同性愛者が主人公の『ハーフ・オブ・イット』のような作品も含めて、アジア系を描こうとすること=アジア系が受け入れられつつあること は世界的な流れになってきている。
それは、アトランタで起きた悲惨すぎる事件から更に増しつつあるAsian Hateも相まって加速するだろう。また、アジア系=オタク という(良くも悪くもな)ステレオタイプの表現は『ダッシュ&リリー』,『ハーフ・オブ・イット』そして、この後に登場する『ミズ・マーベル』にも垣間見える。アジア系の戦いはまだまだ始まったばかりなのかもしれない。

ここで自分のフィールドに戻すと、このような流れの中でMCUがどのような動きをしているかを見るのは重要だし意味があると考える。なぜなら、MCUは世界的なアイコンを作り出す大作だからだ。
2008年から始まったMCUは2018年に初めて黒人主人公の『ブラックパンサー』を公開し、2019年に初めて女性主人公の『キャプテン・マーベル』を公開した。

人種やジェンダー問題の中でしばしば取り上げられる黒人・女性について、10年もかかったが、ちゃんと描き始めたMCU。このうちの黒人描写に関しては2021年ドラマの『ファルコン&ウィンターソルジャー』で、さらに洗練させている。

そして、黒人・女性のアイコン登場から2,3年の遅れをとって、やっと2021年に初めて中国系アメリカ人主人公の『シャン・チー』と、パキスタン系アメリカ人主人公の『ミズ・マーベル』という作品が公開・配信される。
この公開順からもアジア系の戦いは始まったばかりだということがうかがえる。MCUが始まって、アジア人ヒーローが描かれるまでに10年以上かかってしまったということをしっかりと描いてくれたら嬉しい。

繰り返しになるが、これまで自分の人種というものを深く認識したことはなかったけれど、アジア系は、日本人は、世界ではどのように見られているのかを改めて認識しなければならない。
自分の人種を深く認識していないと言うことは、他の人種についても深く認識していないのと同義である。それは人種に限らず、ジェンダー,職業,出自,年齢,etc…にも言えることである。

「無知は凶器」を肝に銘じたい。

(終わり)

『マスター・オブ・ゼロ』のニューシーズンも合わせて考えたい。

「Asian Hateを考える/こんにちは未来」も合わせて。

この内容は『自分の人種について考え始めた/『マスター・オブ・ゼロ』を見て(後篇) 【Guest:坂田夢真】』で話しています。放送と合わせてみていただけると幸いです。


【追記】

この文章を書いた後に、下のエピソードを聞いて「〇〇人」という言葉をもっと慎重に使うべきだと思うようになりました。

そして、「国ってなんだ?」という疑問を抱いているので、今となっては上記とはまた違うステージに立っている気がしますが、この時考えていたことは残せたと思います。

↓の本を改めて読み直してもおもしろいかも。

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